夫の女遊びに、気付かぬふりをした妻。11年後に彼女を待ち受けていた、彼の計画とは

夫の女遊びに、気付かぬふりをした妻。11年後に彼女を待ち受けていた、彼の計画とは

あなたは、誰かにラブレターを送ったことがありますか?

文字に想いをしたためて、愛する人に贈る言葉。

手紙、メールやLINE..方法はいろいろあるけれど、誰かを愛おしいと思う気持ちはいつだって変わらない。

側にいる大好きな人、想いを伝え損ねてしまったあの人に向けて…。

これは、読むと恋がしたくなる切なくて甘い「ラブレター」にまつわる男女のオムニバスストーリー。

今週の主人公は、前回の主人公・野村賢史の妻、優花里。あれから11年後のストーリー。



「なあ、優花里。梨々香も成人したことだし、二人でヨーロッパにでも行かないか」

先日撮影した娘の成人式の前撮り写真を眺めていた優花里は、夫・賢史の言葉に耳を疑った。

「へっ?」

急に何を言い出したのだろう。優花里は、首をかしげる。

これまでの賢史は、平日も夜遅くまで働き、休日も時間さえあれば家で仕事する超仕事人間。

若い女の子と遊んでいた時期もあるから100%仕事だけをしているわけではなく、適度な休息を入れているようだが、出世のスピードからも、人並み以上に働いていることは事実だ。

そのため家族旅行は2泊3日が限界。旅行先、移動中、どこでも構わずパソコンを開こうとする賢史に怒ったことも一度や二度ではない。だから、ヨーロッパなんて夢のまた夢だと思っていた。

「仕事も一段落しているし、長期で休みが取れそうなんだ。パソコンは置いて行くから安心してよ」

そう笑いながら彼は、机の上に旅行会社からもらってきたパンフレットを並べて、パラパラとめくり始めた。

「ローマとかどうかな。ヴェネツィアも良いな…」

こうして賢史と優花里は、ローマとフィレンツェ、パリへ初の二人旅行に出かけることになった。

意外だったのは、娘・梨々香の反応だ。一緒に行きたいと騒ぐかと思っていたが、拍子抜けするほどあっさりと、「パパとママ二人で楽しんで!」と、快く送り出してくれたのだ。


ヨーロッパ旅行計画に隠されていた秘密とは…?

懐かしい時間


「夢みたいな時間だったな…」

帰国の前日。

パリのポンデザールを歩きながら、優花里はポツリと呟いた。

まさか…この場所に来れるなんて思ってもみなかった。

今はなくなってしまっているが、15年前までこの橋の欄干には無数の南京錠が付けられていた。恋人がお互いの名前を書いた南京錠を欄干に取り付け、鍵を投げ捨てると永遠の愛を誓ったとか。  

だが、橋が耐えきれないほどの重さになってしまい、全て取り外されてしまったのだ。

この橋を知ったのは、賢史と結婚する前、まだカップルだった頃のこと。

彼の部屋で、お酒を飲みながら一緒に映画のDVDを観ていた。普段仕事で忙しい彼を独占出来る唯一の時間で、優花里はこの時間が大好きだった。

ポンデザールは、映画「東京タワー」のラストシーンの舞台だ。パリの美しい風景をバックに、最高にロマンチックなエンディングを迎える。

−なんて綺麗な景色なの…。

いつか行ってみたいと思って調べてみたところ、ここが恋人の聖地だということを知った。

「私もここに南京錠付けたい!」

そう言って賢史に「やれやれ」という顔をされたのを今でも覚えている。南京錠はなくなってしまったけれど、本当にこの場所に来られるなんて、夢を見ているみたいなのだ。



パリだけでなく、ローマ、フィレンツェの各都市を歩きながら、この旅の間中、優花里は懐かしい気持ちでいっぱいだった。

どの街も、まだ恋人同士だった頃、彼の部屋で一緒に観た映画を思い出すのだ。そして同時にその日の記憶も一緒に蘇る。

ローマでは、不朽の名作「ローマの休日」

ちょっとイタリア感を出そうと、出前のピザを取って二人で食べたっけ。観終わった後、「ジェラート食べたい」とワガママ言って、コンビニにアイスを買いに行ったりしたな。

フィレンツェでの「冷静と情熱のあいだ」

映画の中で流れるエンヤの曲のCDを買いに行って、原作の「Rosso」も「Blu」も読んで感想を言い合った。

「主人公の二人は良いけど、フラれた恋人はやるせないよなぁ」なんて会話をしたのが、脳裏にフラッシュバックする。

かれこれ20年以上前だというのに、まるで昨日のことのようだ。

−ああ、懐かしい。

優花里は、パリの風景を眺める賢史の横顔を見ながら「ちょっと見直しちゃった」と、彼の手を握りしめた。


娘の幼稚園時代に、実は秘密が隠されていた

タイムカプセルの秘密


ー両親が初めての2人旅行に出かける4ヶ月前ー

「ふぅ、間に合ったぁ」

23時の門限ギリギリ。梨々香が息を切らしながら帰宅すると、母が「22時58分。セーフね」と、リビングで待ち受けていた。

「私、もう成人よ。門限なくしてもいいじゃない」

コートを脱ぎながら、頰をぷうっと膨らませる。

そう反抗しながらも、梨々香は快適な実家から離れるつもりはない。

大学の友人にも、地方からの上京組がいるが、彼女たちは学業とアルバイトに加えて、自炊に掃除、洗濯を全て一人でこなしている。

一方の梨々香は、温かいご飯が待っており、掃除も洗濯も手伝う程度。自立しなくちゃとは思うものの、まだ良いかな…と、両親に甘えっぱなしだ。

「そういえば、梨々香宛にハガキが届いてたわよ」

「ハガキ?」

そう母から手渡されたのは、幼稚園の同窓会の案内だった。

「うわぁ、懐かしい!」

ハガキを見た梨々香は、小さく叫んだ。

“卒園生の皆様

卒園式で埋めたタイムカプセルのこと、覚えていますか?成人したら掘り起こそうと約束しましたね。とうとうこの時がやってきました。

みんなと再会出来るのを楽しみにしています。”

確か、幼稚園の卒園式の時にみんなでタイムカプセルを埋めた。

とはいえ、卒園式は14年も前のこと。梨々香は、何を埋めたのか精一杯思い出そうとするが、全く想像がつかない。

−幼稚園の時大好きだった人形とかかな。

そんなことより、梨々香は、初恋の人・尚人くんがどうなっているのか、そっちの方が気がかりだった。



タイムカプセルを掘り起こすセレモニー当日。

−懐かしい…。けど、結構変わっちゃったなあ。

梨々香は、卒園以来初めて、幼稚園に足を踏み入れた。

園庭や外の風景は、記憶の彼方に残っていて何となく覚えている。しかし、数年前に大規模な改築をしたからか、内部の様子は変わってしまっていて少しガッカリした。

「梨々香ちゃん?梨々香ちゃんよね?」

声をかけられた梨々香が振り向くと、そこに立っていたのは、当時の担任・裕子先生だった。

10年以上経っているのに、裕子先生は見た瞬間に分かった。少しぽっちゃりした気もするが、かつての美貌は今も健在だ。

「裕子先生、お久しぶりです!」

その後も、久しぶりに会う同級生達と思い出話しに花を咲かせていると、「さあ、いよいよ掘り出しますよー」という裕子先生の声が響いた。

みんな一斉に、「せーの!」の掛け声で掘り始める。何が出て来るのだろうというドキドキが高まっていく。

「あったー!」

そう言って掘り起こしたタイムカプセルの中には、梨々香が予想もしていなかったものが出てきたのだった。


ついに、ヨーロッパ旅行の秘密が明かされる

注文の多いラブレター


「成人おめでとう!」

旅行から帰った1週間後、梨々香の成人を祝うディナーで、野村一家は帝国ホテルの『ラ ブラスリー』を訪れていた。

晴れてアルコール解禁となった梨々香を祝し、シャンパンで乾杯する。

お酒が大好きな優花里にとって、娘とともにお酒を楽しむのは長年の夢だった。

待ちわびていた瞬間が訪れ、涙腺が少しだけ緩んでしまう。

「ねえ、ヨーロッパはどうだったの?」

母に似てお酒に強いらしい梨々香は、シャンパンをグビッと飲みながら楽しそうに聞いてくる。

「とっても楽しかったわよ。なんかね、不思議と懐かしい気持ちだった」

そう答えた優花里は、「そういえば、ここも…」とレストランを見渡した。

「梨々香が産まれる前、ここに来たよな。まさか忘れてないよな?」

賢史に尋ねられた優花里は、「あっ」と思わず声を漏らしてしまった。

ここは、梨々香を出産する直前、夫と来た場所だ。

付き合っていた頃、新婚旅行はヨーロッパに行きたいなんて話をしていた。

しかし結局授かり婚だったことや、妊娠が発覚してしばらくは入院するほどのひどい悪阻で、とても旅行に行ける体調ではなかったことから、新婚旅行は泣く泣く諦めた。

そこで、出産直前に「最後に二人で」と、賢史が提案してくれたのが帝国ホテルでのステイだった。

−何だろう、この感覚。

ヨーロッパで感じたのと似たような懐かしさを覚える。ノスタルジックな感情の理由が明かされたのはデザートが運ばれてきた時だった。



「成人おめで…」

そこまで言いかけた優花里は、自分の目の前に置かれたデザートプレートに驚き、言葉を失った。

「Welcome back!」

そして、夫・賢史はMIKIMOTOのシックなボックスを優花里と梨々香の目の前に差し出した。

「二人にプレゼント。お揃いだよ」

賢史からのプレゼントに喜びを隠せない優花里。ラッピングを解いていると、脳裏に一枚の手紙がフラッシュバックした。

−これってもしかして…?

「随分、注文の多いラブレターだな」

そう言って賢史が取り出したのは、古びた手紙だった。

「この前タイムカプセルを掘り起こしたらね、この手紙が出てきたんだよ。私宛とパパ宛の手紙が2通。入れたこと、忘れてたでしょ?」

そう言って梨々香に笑われ、優花里は赤面した。

「梨々香にさ、タイムカプセルからこんな手紙が出てきたって、相談されたんだよ。読んだ時は笑っちゃったけど、梨々香が、パパ、ママの願い叶えてあげなよ!って半ば強引に背中を押してくれて」

そしてついに、ヨーロッパ旅行、帝国ホテルでのディナー、プレゼント、全ての点が線でつながった。

「優花里、ちょっとは勘づいているかと思ったよ。本当に気づいてなかったんだな」

ーーーーー

賢史へ

梨々香が20歳になった頃、きっと私はあなたのことを今と変わらず愛していると思います。

梨々香が大きくなったら、2人でやりたいことが沢山あるの。忘れないように、リストを書いておきます。将来よろしくね。

まずは、ヨーロッパ旅行。新婚旅行で結局行けなかった国を周りたいの。その時は、2人で一緒に観た映画の舞台に足を運びたい。ローマとフィレンツェ、パリはマスト。パリのポンデザールは絶対に行きたい!

次に、梨々香が成人したら3人で『ラ ブラスリー』に行きたいわ。もちろん梨々香に相談してね。そして、3人でシャンパンをたくさん飲みたいの!

あとは、梨々香とお揃いのジュエリーが欲しいな。

あなたが退職したら、四国にお遍路周りたい。ああ、豪華客船の旅も良いわね。

ダメだわ、やりたいことが次々に出てくる。退職後のことは、梨々香が成人する頃、また伝えるわ。

あなたと過ごす未来を想像すると、今からとても楽しみだわ。

優花里

ーーーーー

「で、退職後のご希望は?」

そう言って笑う賢史を見つめながら、優花里は幸せを噛み締めた。


−Fin.



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