−この結婚、本当に正解だった?−

かつては見つめ合うことに夢中であった恋人同士が結婚し、夫婦になる。

非日常であったはずのときめきは日常となり、生活の中でみるみる色褪せていってしまう…。

当連載では、結婚3年目の危機にぶち当たった夫婦が男女交互に登場する。

危機を無事に乗り越える夫婦と、終わりを迎えてしまう夫婦。その違いは一体、どこにあるのか−?

これまでレス問題に悩む里香とレス問題を深刻にとらえていない夫・浩史の言い分などを聞いた。

今回は転勤先に馴染めず別居を希望する妻・田邊皐月の夫に話を聞いた。



危機事例⑥ 転勤で生活が一変。地方暮らしの葛藤ー夫の言い分ー


【田邊家・結婚3年目の事情】

夫:亮介(仮名)
年齢:31歳
職業:大手生命保険会社

妻:皐月(仮名)
年齢:30歳
職業:アパレルPR


「それはもう、驚きなんてもんじゃありません。突然頭から冷水を浴びせられたかのような…そのくらい衝撃的で、ショッキングな出来事でした」

高松の中心部、アーケードのそばに佇む古民家風の居酒屋で、田邊亮介は熱燗片手にしみじみと語り始めた。

亮介の愚痴が止まらないのも、無理はない。

なんと彼はつい先日、結婚3年目になる妻から突如として別居を切り出されたというのだから。

「僕としては身に覚えがないから焦りました。大きな喧嘩をしたわけでもないし…。確かに皐月は最近少しばかり塞ぎ込んでいるようで、僕に『高松の生活にぜんぜん慣れない』などと愚痴っていましたが、地方転勤は結婚前からわかっていた話。ついて行くと言ったのは、皐月からでしたし、僕が無理強いしたわけでもないんです。」

別居を切り出される理由がまるでわからない、と言う亮介。

「それに…夫婦仲はむしろ、東京にいた頃よりも良くなっているくらいなんです」


皐月との夫婦仲はむしろ良くなっている、と語る亮介。その実際とは?

亮介曰く、皐月との夫婦仲は、東京にいた頃より高松に移り住んでからの方がむしろ良くなっているという。

「もちろん、東京にいた頃も仲が悪かったわけではありませんよ。ただ僕も社内の飲み会やら接待やらで遅くなることが多かったし、皐月は皐月で女子会だとか言って、夜に出歩くことも多かった。週末も僕はジムに行ったり、皐月の方もネイルやヘアサロンに行ったり…一緒に住んではいても、お互い家には寝に帰るようなものでした」

東京では、お互いの職場アクセスを最優先に考え、少しばかり家賃を奮発して恵比寿の賃貸マンションに住んでいた田邊夫妻。

家の広さにゆとりはなかったが、利便性抜群ゆえ、港区界隈ならどこで飲んでいようがタクシー代もたかが知れている。

亮介も皐月も社交的な性格で友人も多いため、お互い好き勝手に予定を入れた結果、週末ですらなかなか予定が合わないことが多かったのだ。

「お互い様ですし、当時は特にそれに対して不満があったわけじゃありません。ただ、今になって振り返ると、あの頃は夫婦というより恋人同士の延長だったなぁ、と…」

落ち着きのなかった過去を振り返るように、亮介は遠い目で語る。そしてしばし黙り込んだ後、少しばかり照れたような表情で言葉を続けた。



「高松転勤の話をしたら、皐月は仕事を辞めてついて行くと言ってくれて。僕は別に、妻には家にいて欲しいとか専業主婦になって欲しいなんて思ったことはありません。でも実際に妻が家にいる生活を始めてみると…こんなにも快適で、安心感があるのか!と驚きました。

新しい家は栗林地区にあり、恵比寿のマンションと比較したらかなり広いのですが、いつも綺麗に片付いています。キッチンも広々として使いやすいらしく、皐月は料理に凝るようにもなりました。なんというか、ようやく家族になった気がするな…なんて思ったりして」

高松に引っ越した後、専業主婦となり、家庭的になった皐月について語る亮介はとても嬉しそうだ。

そして彼は声のトーンを下げ、こんなことまで教えてくれた。

「実はその...高松に来てから、夫婦生活も増えたんですよ」

東京にいた頃は、お互いにぐったり疲れて帰宅して、ただ寝るだけ…という毎日だった田邊夫妻。

しかし高松ではお互い時間にも心にも余裕がある。夫婦のスキンシップも自然に増えていったのだという。

「だからこそ、まさに寝耳に水だったわけです。まさか…皐月が別居を考えていたなんて」

全てを語り終えた亮介は「まったくどうして良いかわからない」といった様子でうなだれると、大きく、深いため息を吐くのだった。


呑気な夫を突然襲った、妻からの別居宣告。その危機を救った、思いがけない出来事とは

1ヶ月後に亮介から報告が!


古民家風の居酒屋で、亮介の愚痴を聞いた夜からおよそ1ヶ月が経ったある日。

今度はアーケード近くのイタリアンレストランで再会すると、彼は以前とはまるで別人のごとく溌剌とした笑顔を見せていた。

とても妻から別居された男には見えないが…その後、田邊夫妻は一体どういう結末を迎えたのだろうか。

「実は…ご報告がありまして」

亮介は、神妙にしようにもどうにも緩んでしまう頬に両手をあて、にやけた顔でもったいぶった。

そしてもう我慢できないとばかりに破顔して、1ヶ月前の精気を失った彼からはまるで想像もつかない、衝撃の事実を口にした。

「実は…子どもを授かりました」



なんと、皐月から「別居したい」と言われてから3週間が経ったある日。

亮介が仕事から戻るのを待ち構えていたように、玄関先で出迎えてくれた皐月から「子どもができた」と告げられたのだという。

「いや…本当に驚きました。驚いたというのは、子どものことももちろんですが、それより皐月が涙を流していたことです。

別居を切り出された後でしたから、最初はどっちの意味の涙なのか慌てたのですが…彼女、僕の胸に顔を押し付けながら『嬉しい』って何度も何度も呟いていて。そんな皐月を抱きしめながら、僕も『嬉しい』『幸せだ』って言いました。そうやって、二人で嬉し涙を流したんです」

それは、なんともおめでたい話である。

しかし妻・皐月の憂鬱は解決したのだろうか。別居願望は、もうなくなったのだろうか…?

「…ええ。僕も驚いたのですが、妊娠発覚後、別居の話はなかったことにして欲しい、と皐月から言われました。出産時は原宿の実家に里帰りすると言ってはいましたが、きちんと戻って来ると約束してくれて。

なんでも高松は非常に子育てのしやすい環境なんだそうです。産婦人科に通うにようになって少しずつ友人もできたらしく、いろんな情報を得てきては僕に教えてくれるようになりました。彼女はもともと社交的だから、きっかけさえあれば誰とでも仲良くできるし、楽しめるんですよ。ああ、本当に良かった…」

そう言って、安堵の息をつく亮介。

本当にナイスタイミング、としか言いようがない。

高松の暮らしに慣れず、東京での刺激的な生活への未練から塞ぎ込んでいた皐月。

しかし妊娠がわかった途端、彼女はまるで生きる希望を見つけたかのように、再び昔の笑顔を取り戻したらしい。

「子はかすがい」と言うが、まさに子どもの存在が、田邊家の結婚3年目の危機を救ったようだ。


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