夫は外で働き、女は家庭を守るべき。

自分は、共働き賛成、バリバリ働く妻・大歓迎。

しかし、自分よりも圧倒的に稼ぐ妻を持ってしまったら…?

すれ違っていく、金銭感覚、価値観、ライフスタイル。

超ハイスペ妻と結婚した夫は、一体どうなる…?

◆これまでのあらすじ

出張に行かせてもらえなかったことで怒りを爆発させた玲。康太がなだめるも、良い方向に進まない。困り果てる康太だったが…?



「今晩、送別会があるからちょっと遅くなるよ」

康太は、さっきから食い入るようにiPadを見つめている玲に声をかけた。

おそらく、日課である日経電子版やFinancial Timesを読んでいるのだろう。

「うん」

かろうじて返事は返って来たが、顔を上げることもなければ、視線をこちらに向けることもない。

出張の件が尾を引いているのだろう。ベッドで背を向けて寝ていたことから何となく察していたが、機嫌は直っていないようだ。

康太は、玲の隣にそっとコーヒーを置き、せっせと家事に戻る。

クリーニングに出す衣類の仕分け、ゴミ回収やルンバの清掃時間の予約など、朝は意外と忙しい。

玲は家事代行サービスを頼めばいいと言うのだが、赤の他人が部屋に入ることにどうしても抵抗があり、断り続けている。

それなら自分でやってしまおうと、食洗機やルンバ、浴室乾燥機などをフル稼働させながら、ほぼ一人で家事をこなしているのだ。

−また間違えてるじゃん…!

キッチンでゴミの回収をしながら、康太は心の中でつぶやいた。

昨日、玲が飲んでいた赤ワインのボトルが、なぜかペットボトル用のゴミ箱に入っている。

康太は、「もう」と小さな声で発しながら、出かける準備を急いだ。


その夜、康太は部署の後輩の送別会に参加する。可愛がっていた後輩から報告を受けるが…?

奥さん、いいな


「このあと一杯だけ行かないか」

送別会の帰り道、康太は本日の主役・高田に声をかけた。彼は、来月から名古屋に転勤することになった、部署の後輩だ。

高田は人懐っこい性格で、康太も弟のように可愛がっていたため、彼の異動には寂しさを感じていた。最後に二人で飲みたいという気持ちもあり、高田のことを誘ってみたのだ。

「康太さんが誘ってくれるなんて嬉しいです!もちろんです」

二人は、日比谷ミッドタウンの『STAR BAR』に向かった。



「康太さんにはお話しておきたいんですが」

二人であれこれ思い出話に花を咲かせていると、高田が急に姿勢を正した。

「彼女と結婚することになりました!」

「おめでとう!良かったな」

聞けばお相手は、高田よりも3歳年下の看護師。仕事を辞めて名古屋に付いてくるという。

写真を見せてもらったが、いかにも“ゆるふわ”といった雰囲気のお嬢さんだ。

「あっちのご両親も大喜びしてくれて。こう言っちゃなんですけど、うちの会社って親とか世間受け抜群じゃないですか。

家庭も持つし、僕もますます頑張らないと。康太さん、公私共々、ご指導宜しくお願いします」

高田の話を聞きながら、康太はチクっと胸が痛んだ。

この前、玲に自分が海外転勤になったらという話をしたら、彼女は当然のように単身赴任を選択した。

「仕事を辞めて付いて来てくれ」と強要するつもりはないが、休職とかMBA留学でも検討して、康太と一緒に生活出来るような道を探っても良いのではないかと思った。

仕事が最優先、家庭は二の次という彼女のスタイルが、いつまで続くのだろうかと、不安に感じることも多くなった。

子どもを産んでも育休は取らないと宣言しているし、自分はバリバリ働き、ベビーシッターにお世話になる前提のようだ。

ちなみに康太の母親は専業主婦で、帰れば「おかえり」と出迎えてくれた。一緒に宿題をしたり、習い事に送迎してもらったり、幼少時代は母親との思い出が色濃く残っている。

なにも、玲に専業主婦になって同じことをしてほしいとは思っていない。しかし、母親が「仕事が最優先」というスタイルを貫くのはいかがなものか。

そんな最近のモヤモヤした気持ちもあり、高田の話が少し羨ましく思えたのだ。

「いい奥さんだな」

気が緩んでいたのか、ポロっと本音が出てしまった。「え?」と驚く高田に向かって、康太は慌てて話題を変える。

「とにかく頑張れよ。応援してるぜ」

そう言って康太は、もう一度乾杯した。

高田を励ますためにかけた言葉だが、康太は、自分自身を奮い立たせているようだなと苦笑いしながら、ゴクリとワインを飲み干した。


モヤモヤした気持ちを抱えたまま帰宅した康太。すでに帰宅していた玲からある提案をされるが…?

プロセスが大事


22時。

「ただいま」

康太が帰宅すると、玲がリビングで寛いでいた。

テーブルに置かれているのは、赤ワインではなく、マグカップの紅茶。その様子から、機嫌が悪いわけではなさそうと察する。

「おかえり。楽しかった?」

朝の不機嫌はどこへ、いつも通りの玲に戻ったのだと、ホッとする。

「楽しかったよ。後輩の高田の送別会だったんだけど、その後二人で一杯やってきた」

康太がニコッと笑って答えると、玲も口角をキュッと上げた。

「昨日はごめんね。私もイライラしちゃって…。冷静になって考えたら、こうちゃんの言う通りだなって思った」

「気にしないで。玲の悔しい気持ちも理解出来ないわけじゃないし」

そう言って康太が抱きしめると、玲は「ありがとう。私、本当にこうちゃんのことが好き」と、康太の頰にキスをした。

なかなかロマンチックな雰囲気だ。久しぶりに…と、康太が玲を誘おうとしたその時、玲の手がパッと離れた。

「こうちゃんも疲れてるでしょう?急だけど、今週末、旅行に行かない?リフレッシュしよう」と、提案してきたのだ。

ロマンチックなムードの余韻に浸っていたい康太は、少しばかり肩を落とす。

−今週末の旅行より、今を楽しみたいんだよなあ。

しかし、玲はお構いなしで話を進めていく。

「で、運良く航空券とホテルに空きがあったから、さっき予約しておいたの」

そう言って彼女は、パソコンの画面を康太に見せてきた。



「ええ!?」

衝撃のあまり、康太は小さく、いや、わりと大きな声で叫んでしまった。

行き先は沖縄らしい。土曜日出発、日曜日帰着。つまり、1泊2日の弾丸旅行だ。

ホテルは、昨年の夏に出来て話題のハレクラニのスイートらしい。

「スイートっていっても、お部屋は狭い方よ。ディナーもスパも予約したの。

支払いは私がするから。あー、楽しみ!」

隣でウキウキとはしゃぐ玲を横目に、康太は呆然とした。

久しぶりに二人で旅行に行けるのは嬉しい。

しかし、何の相談もなく、行き先も勝手に決めた上、予約まで済ませてしまったことが、どうしても引っかかる。

二人であれこれ相談しながら、行き先やホテルを決める、そんなプロセスがあっても良かったのではないかと思ってしまう。

合理主義の玲は、「そんな時間もったいない」とか「面倒」だと言うだろう。だが、二人で一緒に作り上げていく、そのプロセスに、康太は夫婦の醍醐味というか、楽しさや愛情を感じるのだ。

思い出したが、レストラン選びでもそうだ。

康太は、ブラブラ歩きながらお店を一緒に探したいのだが、玲は「時間の無駄」と、ネットで調べて予約を入れる。

玲のやり方の方が、当たり外れも少ないし、混んでいて諦めるようなことはない。確かに合理的なのだが、なんとなく味気なくて、いつも寂しい気持ちになる。

リサーチもせずにウォークインでお店を選べば、失敗することもあるだろう。

そんな時。

「ちょっと失敗だったね」

店を出た後に二人で顔を見合わせ、「お口直しに行きますか!」と、近所の馴染みの店で飲み直し、「あー、この味、この味」と、ビール片手に笑い合う。

帰り道、「楽しかったから良しとしよう」と、失敗も良い思い出に変えられるのが夫婦というものではないだろうか。

康太は、玲との価値観の違いに、再び大きくため息をついた。


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旅行先の沖縄でもすれ違う二人。落ち込む康太に手を差し伸べたのは…?