モテる男は料理ができる?

近頃、「料理に目覚める男子」が増えてきている。

外資系IT企業で働く大智(だいち)は、食事はもっぱら外食かUber Eatsのズボラ男子。

だが、遠距離片思い中のスミレの気を引きたくて料理を始める。

ステキ料理男子ができあがるまでの料理と恋のストーリー。

▼前回までのあらすじ

大智はスミレに告白したが、返事を保留にされている。一方、大智のことが忘れられない元カノ・慶子は、思い切って章二に連絡してみたが…



「そういえば、昨日慶子ちゃんと飲みに行ったよ」

章二の唐突な言葉に思わず、青島ビールを吹き出しそうになる。

仕事帰りに大智は章二と『一味玲玲』で飲んでいた。

「マジか。何でそうなるんだよ」

2人は何度か顔を合わせたことはあるが、性格が正反対だからか盛り上がっている印象はなかった。

「聞いてほしいことがあるからって、慶子ちゃんから呼び出されたんだけど、結局何のことか分からなかったな。だけど、俺が思うに、慶子ちゃんは大智に未練がある…」

章二は、パクチー餃子を頬張りながら話す。

ーまじで。あの慶子が?この前会った時は、そんなそぶりは一切なかったけどな。

大智は適当に相槌を打ちながら、セロリ餃子をつまんだ。

「しかし、慶子ちゃん相当激務みたいだよ?あの年でチームリーダーやって後輩の育成もして、毎日タクシー帰りって言ってた」

ーあの会社は仕事出来る人間が、他の人の仕事までやる羽目になるからな。慶子は責任感もあるし、苦労してるんだろうな。

最終的にはチームの仕事が全部降ってきた前職のことを思い出す。

「最後はいい人に出会えないって嘆いてたよ。でも俺には仕事の焦りを恋愛で紛らわそうとしてる気がしたんだよ。だから有給取って、のんびり自分の時間持ちなってアドバイスしておいた」

ーそれにしても、なんで慶子が…


ヨリを戻したい慶子の気持ちを知った、大智の返事は?

「慶子とヨリを戻すことはないな」

大智は独り言のように呟き、章二がうなずいた。

「一番の理由は本音で話せないからかな。同期でライバルみたいな関係だったから、弱みを見せられないことに気がついたんだ」

章二は「2人はそれぞれで幸せになれるよ」と親指を立てた。



研修の休憩時間。スミレは窓の外に広がる皇居と広い青空を眺めた。

「付き合ってほしい」という大智の思いがけない言葉につい、待ってほしいと言ってしまった。

ーお互い20代後半で付き合うってことはどうしても結婚を意識しちゃうな。

LINEのやり取りだと大智は結婚願望あるし、子供好きだと言っていた。

記者としてのキャリアを考えると、あと数年は山形で働くことになる。

それに、スミレは海外特派員としてアジアや中東に派遣されることが目標だ。そう考えると、結婚はもちろん妊娠・出産のタイミングも難しい。



ふと隣に座っている同期・沙織に話しかける。

「ねえ、沙織は彼氏と遠距離だよね。付き合って長いけど、結婚とか考えているの?」

彼女は宮崎支局で働いていて、学生時代から付き合っている彼氏がいる。

「まだ決めてないけど、私が本社に配属されたら結婚しよって話してるよ。彼氏は転勤がないから、早く東京に戻りたい!」

そう明るく話す彼女だが、声を潜めて言った。

「でも子育てってリアリティないよね。下手したら1年近く現場を離れなきゃでしょ?男の育休なんてまだ進んでないし、私が割りを食うんだろうな」

「分かる!このハードワークだと1人分の家事で精一杯なのに、さらに子供を見るって大変だよね」

社内でもキャリアと育児を両立している女性はいるが、とても真似できるとは思えなかった。

恋愛はまだしも、結婚に子育てとなるとこの仕事との両立は誰が相手でも大変だ。

元カレとも結局仕事が理由で別れたことを考えると、誰かと付き合うことについ慎重になってしまうスミレだった。



金曜日の夕方。大智は、スミレからの連絡を待っていた。

「夕方にはスケジュールが出るから待ってほしい。もし週末も東京にいられることになったら、週末会おうね」

昼にLINEをもらってから、妙にソワソワしてしまう。一気に仕事を片付けて、夕方にはフレックス退社をしていた。


待ちに待ったスミレからの連絡がある。告白の返事は?

ーこんな時は、家を片付けて腹いっぱい食べられるご飯を作ろう。

料理をするようになってから「整頓と清潔」に気をつけるようになった。前は散らかりすぎていてルンバをかけられなかった床は、今はスッキリしている。

今日は炊飯器に材料を入れるだけで完成するカオマンガイを作る。

ーバンコクの屋台で、排気ガスにまみれながら食べたあの味が恋しいな。

炊飯器に入れたジャスミン米と鶏むね肉の上から、水と中華スープの素、ナンプラーと酒をかける。

ナンプラー独特の魚臭さで、ふとバンコクの混沌とした市場を思い出す。やはり旅の思い出というものは、ふとした瞬間に幸せをもたらしてくれる。

更にネギの青い部分と、ニンニクと生姜のすりおろしを加える。これが味の決め手で、ご飯の味に奥行きを出す。

そして最後に隠し味に包丁で潰したパクチーの根っこを入れると炊飯器の蓋を閉め、スイッチをオンにした。



「ふっくらしたチャーシューも作ってみたいから低温調理器が気になるな。今度章二に相談してみよう」

そんなことを考えながら、ベッドでゴロゴロしているといつの間にかうたた寝をしていた。

しばらくして、LINEの着信音で目がさめる。

ー誰からだろう…スミレからの返信だ!

「連絡遅くなってごめんね。明日の夕方に帰ることになったから、明日ちょっと会えるよ!」

喜んでいるウサギのスタンプが添えられていた。

すぐに「よかった、嬉しい!」と返信する。

『ピーピーピー』

ちょうど、カオマンガイも炊きあがった。炊飯器を開けると、いつものお米とは違うジャスミン米の独特の華やかな香りが蒸気とともに上がってくる。

「スミレちゃんにもこのレシピを教えてあげよう」

ナンプラーとオイスターソースにごま油を混ぜ、すりおろしたニンニクとみじん切りにした生姜を混ぜる。バンコクの屋台で食べた、シンプルだが忘れられないタレの再現だ。

鶏肉はプリプリでしっとり柔らかく、ご飯も旨味が染み渡っている。カオマンガイを堪能しているとスミレから着信があった。

「もしもし」とスミレの明るい声が響く。

「明日会えるんだね!場所はスミレちゃんのアクセスのいい場所か、行きたいところがあればそこにしよう」

大智も嬉しさから、思わず声のトーンが上がる。

「うん!上司が今週末はゆっくりしろって言ってくれたの。場所、考えておくね」

「それで、本当は明日言おうと思ってたんだけど…」

スミレは一瞬口ごもってこう言った。

「私も大智くんと付き合いたいって思ったよ。よろしくお願いします!」

その言葉に大智は思わず立ち上がりガッツポーズをした。


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