―絶対に、してはならない。

禁じられるほどしたくなるのが人間の性。それを犯した人間に、待ち受けているものとは…?

▶前回:「私、はじめてなの…」26歳CA女からの告白に、男が衝動的にとった行為



苦手な女友だち


私は昔から、里香のことがあまり得意ではなかった。

「彼、最近全然会ってくれないんだよね〜。仕事忙しいみたいで…。でもお給料上がったみたいだから、ワガママ言って今度なかなか予約がとれないフレンチに連れていってもらうんだ!」

聞いてもいないのに、里香は彼氏との近況を永遠に語り続ける。ランチタイムだというのに、休まった気がしない。

「よかったね〜」
「うん!平日の夜しか会ってくれないんだけどね〜。ていうか、そっちはどうなのよ。最近」

適当に相槌を打ってやり過ごそうと思っていたのに、里香は私に話題を振ってくる。その目は私をしっかりとらえ、逃がさない。

「私は何にもないよ。里香みたいにモテないし…」
「またまた〜。本当はモテるくせに〜」

私だってモテなくはない。…だけど、悔しいけど里香には太刀打ちできない。一緒に食事会に行けば、いいなと思う男性はみな里香を好きになってしまう。

多分、里香もそのことに気づいているはず。それなのに、里香はやたらと私の近況を聞きたがる。きっと、自分の方がモテていることを確かめたいのだろう。

―けれど、あるときから私は里香の全てが可愛くみえるようになったのだ。

あのとき、里香の彼氏・豪太のとんでもない秘密を知ってしまった日から…。


里香の彼氏・豪太が隠していた、裏の顔が暴かれる…

私と里香は、大手企業の一般職の同期だ。入社して5年、今年で27歳になる。

クリっとした大きな目に、きめ細かい白い肌。ほどよく巻かれた髪はなんとも女らしくて、里香を見たら男たちは100%“かわいい”と言う。

横に並ぶと、どうしても自分の粗が気になってしまうほどに美しい。

そんな里香は、絶えず食事会のオファーを受け続けている。仲良しの同期というポジションにいる私は、その食事会に誘われることも多く、それがきっかけで恋人ができたことだってあった。

彼女から受ける恩恵は少なくない。

だから…というわけではないが、あまり気が合うタイプではないという認識を持ちながらも、周りからは“仲の良い同期”として見られる程度には、コミュニケーションを取ってきた。

そして、とある平日の夜。

私はベッドで横になりながら、暇つぶし程度にSNSのタイムラインを見ていると、里香の投稿が目についた。

Rika♡:今日はフレンチ♪

ランチ時に言っていた、豪太とかいう彼氏に連れて行ってもらっているのだろう。男の顔は横顔しか映っていなかったが、高級フレンチディナーの様子が投稿されていた。

社交辞令としてのイイねを押そうとした瞬間、なぜか妙な胸騒ぎがした。

―…この男、どこかで見たことがある気がする…。

誰だかパッとは思い出せない、知り合いではないはず。けれど、どこかで何かの話題にあがったことがあるような…。

どれほど、その横顔を見つめただろう。

高まる胸の鼓動を感じながら、この男の正体を探るべく、脳内のどこかにしまわれていた記憶を片っ端から手繰り寄せ…。

ついに思い出したのだ。

「…この男、既婚者だ」



あれは、2年前。大学時代の友人と女子会していたときに、この男が話題にあがったのだ。

「私の先輩がね、2年付き合っていた彼氏が実は既婚者だって発覚したの!ひどくない?」

その場にいた1人がショッキングな話題を持ち出し、その先輩から送られてきたというその既婚男の写真を一度見たことがあったのだ。

スーッと通った鼻筋、小さな顔、堀の深い目元。あまりにも美しい顔立ちだったこと、2年も未婚と偽り女性と交際していたという大胆さからか、その顔がしっかりと記憶に刻まれていた。

IT企業の役員として働く彼は、家族には書斎と称した別宅を設けており、恋人にはその部屋を自分の家と伝えていたという。

34歳で、それなりに収入があるはずなのに、なぜか家はワンルーム。デートは平日の夜がメイン。

里香の話と、完全に一致している。

この事実に気づいてしまった瞬間、私の中に、思わぬ感情が芽生えてしまった。


里香が真剣交際している相手が既婚者だと気づいた瞬間、気づかされた自分の本当の気持ち…

彼女に、この真実を伝えるべきだ。

友人としての正しい対応、あるべき姿は瞬時に頭に浮かんだ。一時的には彼女を傷つけてしまうものの、間違いなくそれは彼女のためになる。

里香との個人LINEのルームをタップしながら、いつの日か、里香が息巻いていたシーンがフラッシュバックした。

『私、30歳までには絶対結婚するんだ』
『豪太さんと?』
『うん、彼のことすっごく好きなの!だから、他に言い寄ってくれた人は全員はっきりと断ったの』
『そっか、頑張って!』

里香は彼と結婚したがっている。

スマホを握りしめたまま、私の中で何かが葛藤しはじめた。

ハッキリ言って、私は里香のことあまり得意ではない。けれど、別に里香が私になにかひどい嫌がらせしてきたわけでも、露骨に嫌味を言ってきたわけでもない。むしろ、彼女の人脈に恩恵を受けてきたことも多い。

適度な距離感を保ち、若干のストレスさえ我慢すれば、彼女とはいい関係が築ける。

LINEにメッセージを打ち込みは消し、打ち込みは消しを繰り返し、私は自分の中に潜むその何かと戦った。





あれから、1年。

「里香、彼氏とは順調?」
「うん、順調だよ〜。相変わらず忙しいみたいでたまにしかあえないけど、今度一泊で旅行いくんだ〜」

私には彼氏ができた。結婚の話だってでている。けれど、里香にはまだ話していない。

「いいな〜。私も早く彼氏欲しい!てか、彼とは結婚できそうなの?」
「う〜ん、まだ具体的な話はでてないけど、頑張る!!」
「里香ならできるよ、がんばって、応援してる!」

いつか、私と彼の結婚が決まったら、結婚報告と一緒に彼女に伝えたいと思っていることがある。

『もしかして、里香の彼氏、…既婚者じゃない?』って。

そのときのことを考えるだけで、ゾクゾクしてしまう。


そう、私は結局、まだ里香に真実を伝えられていない。

あのとき、すぐに伝えるべきだと思い悩んだ。…いや、悩んだというより、伝えるべきだという正義感を阻む何かとずっと戦っていた。

けれど、里香が日常会話に優越を滲ませるごとに、さりげなく私を見下すごとに、罪悪感のようなものは徐々に薄まり、いつのまにか消えてなくなった。

そして、罪の意識がきれいさっぱりなくなってから、私は自分の本心に気づいた。

―私は、里香が嫌い。

だって、里香に敵うものなんて1つもない。容姿も、コミュニケーションスキルも、仕事も。なにもかも、いつも里香のほうが優れていた。それを里香ははっきり自覚して、私を見下している。

そんな里香が、本当は憎くて憎くてたまらなかったのだ。

むかしから薄々気づいていたことなのかもしれない。けれど、その本心を自覚したところで、どうにもならない。自分が嫌になるだけ。だから無意識に、その感情に蓋をし続けていたのだろう。

だけど、今の私には、切り札がある。

里香の自慢話も勝ち誇ったようなその表情もすべて、私が思い描く将来への伏線にすぎないのだ。

「結婚式、絶対きてよね〜」
「もちろん!里香のウエディングドレス、楽しみだな〜」

能天気にホットコーヒーに口を付け、笑みを浮かべる里香をほほえましく思いながら、心で呟いた。

本心で思っているよ、楽しみだな、って。


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つい、彼氏のスマホを覗き見してしまったら…