女の幸せは、チヤホヤされること?貢がれること?

いいえ。私の幸せは、そんなんじゃない。欲しいものは自分で勝ち取るの。

「若くたって、女だって、成功できるんだから。私にかまわないで」

これは、銀座の一等地でランジェリーショップを経営する、勝気な女社長の物語。

◆これまでのあらすじ

メイコは絵の才能に惚れ込んだコウタの家で、2人きりの時間を過ごす。出会ったばかりの2人は意気投合。メイコは元カレのことを早くも忘れ、恋心が動いていることを自覚するのだった。

▶前回:「まだ親しい関係じゃないのに…」出会ったばかりの男に誘われ、女が躊躇したコト



「あの才能を、私の店のランジェリーにしたい…!」

そんな気持ちに突き動かされ、メイコはさらにイキイキと仕事をするようになった。

ここ2か月間、週に2度ほどコウタと会っている。そして新作ランジェリーのデザインについて、真剣に語り合った。

そうして完成したのは、羽を思わせる質感の、水彩画デザインのランジェリーだ。

「メイコさん、いよいよ届きますね」

開店前の店舗で嬉しそうに微笑むのは、部下の莉子。コウタと作った新作の完成品が今日、店に届くことになっているのだ。

待ちきれずにいた莉子とメイコは、配送業者のトラックの音に気付いて、店の外へ駆け出した。

新作のランジェリーが詰まった箱が、続々とバックヤードに運ばれていく。莉子は、はやる気持ちを抑えられないようで、段ボールが置かれるやいなや、それを開封し始めた。

「ほんとに可愛い!これ、絶対絶対売れますよ」

水色のランジェリーをそっと撫でる、莉子の気持ちのこもったまなざし。メイコは、嬉しそうに働く莉子に頼もしさを感じた。

少し前、莉子が銀座の路地裏で自分を罵っていた姿が、見間違いだったのではないかと思えてくるくらいに。

「…ところで、メイコさん」

莉子は唐突に、ニヤリと笑みを浮かべながらメイコを見上げた。


莉子の口から飛び出した、まさかの発言

「メイコさんとコウタさんは、そういう仲なんですか?」

莉子の直球な質問に、メイコは首をかしげて笑った。

「んー?仕事仲間よ」

「え、絶対ウソです!」

「…ほんとよ。今はそれだけ」

そう言いながらも、メイコは自分が確実にコウタに惹かれていることを自覚していた。…だけど、コウタの心の中はまるで読めない。

―あの人、何考えてるのか分からないんだよなあ。

今回の仕事を通じて、2人はもう10回以上会っている。しかし、コウタはメイコに敬語を使い続けるままで、何を話しても距離を感じるのだ。

すると莉子は少し小声になって、メイコにこう尋ねてきた。

「ちなみに…。俊也さんとは?」

「ああ、完全に終わっちゃったのよ。だから今、私はホテル暮らししてるの。あっけなかったわ」

「そうなんですか…」

そう言ってうなずいた莉子に対し、メイコは「でも」と切り出した。

「でも、これでようやく、私の成功は俊也のおかげじゃなくて自分の力だって、証明できるわ」

あの日の莉子の悪口に対抗したいわけではない。けれどメイコは、莉子に伝えたかった。「男なんて関係ない。女も自分だけで戦い始められる時代なんだ」と。

しかしそんなメイコの思いは伝わらなかったようで、莉子はサラリと話題を変えてきた。

「ねえメイコさん。私も、コウタさんとゆっくりお話ししてみたいです。どんな風にデザインしたのかとか、興味があって」

莉子の発案に、メイコは「いいね」と微笑んだ。

自分の部下に、今回の経験をシェアしたい。そして自分も、コウタに会いたいと思ったのだ。

「いいね。明日の夜にでもどう?」

…しかし、このときのメイコはまだ、莉子の企みに気付いていないのだった。



それから3日後の夜。メイコはうっとりとした気分でシャンパンに口をつけていた。

選んだのは、KITTEの最上階に位置するフレンチレストラン『アルカナ東京』。莉子とコウタ、今のメイコにとって大切な2人が、目の前に座っている。

「コウタ、ほんとにありがとう。思ってた以上のものができたわ!お店の代表商品になるかも」

メイコが向き直ってお辞儀をすると、コウタは焦ったように目を丸くして「僕は何も」と言った。そんなコウタに、メイコはやはり距離を感じる。

―この人って、どんな恋愛をするんだろう?

そんなメイコの心の声が聞こえたかのように、莉子はコウタに質問をした。

「コウタさんって、彼女いるんですか?」

「…今は、いないです」

「じゃあコウタさんって、女の人を口説いたりするんですか?」

酔いの回りだした莉子は、無遠慮な質問を続ける。

「…ちょっと莉子、飲みすぎじゃない?」

しかしメイコのやんわりとした静止は効かず、莉子はやや大きな声で「じゃあメイコさんは、アリですか?」と尋ねる。

すると、うんざりして「莉子!」とたしなめるメイコに向かって、コウタはこう言ったのだ。


メイコをガッカリさせた、コウタのある言葉とは

「アリもなにも…。僕には、高嶺の花です」

コウタの柔らかい苦笑に、メイコは「そんなことないって」と否定しながら笑う。しかし、内心ではこう思っていた。

―あ〜あ。このパターンか。

メイコは“高嶺の花”だと言われることが、しばしばある。だがそれは、決して良い意味での言葉ではないのだ。

特に、稼ぐようになってからは。

男の人が言う“高嶺の花”という言葉は、若くして社長として稼いでいる自分への嫌味のように感じられる。

メイコは、自分が“普通の恋愛市場”ではひどく肩身が狭いのだということを、今さらながらに思い出した。

24歳のときに、ひと回り以上年上の俊也と付き合ったのだって、それが理由だ。

同世代の男は、自分を恋愛という面で敬遠する。結局、自分より遥かに稼いでいて精神年齢も上である大人の男性しか、自分に手放しで惚れてはくれないのだった。





そしてコウタや莉子と、3人で飲んだ翌朝のこと。

「莉子、おはよう。昨日は結構飲んでたけど、大丈夫だった?」

そう声を掛けた時、莉子のVネックニットから覗くキラキラとしたジュエリーが、メイコの目に留まった。

「あれっ、ヴァンクリ?新しいよね?キレイ〜」

メイコが目を細めてそのモチーフを見つめていると、莉子は衝撃的なことを口にしたのだ。

「昨日、コウタさんに買ってもらったんです」

「…えっ?コウタに?」

メイコは驚き、持っていたPCをつい落としそうになる。

昨日は20時頃にレストランを出た後、メイコが宿泊しているホテルがすぐ近くにあったので、コウタと莉子に見送られる形で、2人と別れたのだ。

「私が帰ったあとに?…なんで?」

「…なんで買ってくれたんでしょうね?」

―ハッ?なんなの莉子?

とにかくメイコにできるのは、こうやって精一杯、平気なフリをすることだけだ。だが、その平気なフリが不服だったのか、莉子は負けじとその話題を続けてくる。

「コウタさんが、私に買ってあげたいって言ったんです」

「そう…」

もしそれが本当だとしても、莉子を責める理由にはならない。メイコは「…じゃあ今日も頑張ろっか」と言い、サッと話題を切り上げたのだった。



そんなショックな出来事もあったが、コウタとはその後も特に連絡は取らなかった。仕事も一段落してしまったし、連絡する理由もなかったから。

そしてコウタと最後に会ってから、ちょうど3週間が経過した日のこと。相変わらずホテルで暮らすメイコは、その朝、いつもより早く目を覚ました。

今日は待ちに待った「タシロコウタデザイン」のランジェリーが発売される日なのだ。

メイコはソワソワとしながら、公式通販サイトの売上確認をする。しかしPCを立ち上げ、画面を覗き込んだメイコは、驚きで息を止めた。

―えっ、どういうことなの!?

いつものように0時をまわった瞬間から、商品のカートを開けていた。しかし、何だかおかしい。なぜか予想売上の約30倍の枚数が、開始から6時間ほどで売れていたのだ。

「いや、いやいや…。何かの間違いかしら」

メイコは、想像を超える売り上げに「何が起きてるの?」と思い、慌ててネット検索を始める。しかし一瞬で、その理由は分かった。

Instagramを見て、メイコは事の全貌を把握したのだ。

その瞬間、メイコの美しい顔から、笑みが消えた。


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メイコが絶望した、そのワケとは…