運命の人とは、いつだって、どこだって出逢う可能性がある。

恋の舞台は、東京だけじゃない。

思いがけず、旅先で恋に落ちてしまうことだって、あるかもしれない……。

とっておきの恋と旅の思い出は、何年経っても色褪せず、その人の心を彩り続ける。

これは“旅”を通じて、新しい恋に出会った女達の4話完結ショートストーリー。
1話〜4話の舞台は、バンコクだった。5話〜8話の舞台は、ドバイ。

▶前回:そんな偶然があるなんて…。「この人とは縁がある」すれ違い続けた2人の男女が運命を感じた驚きの理由とは?



ー2019年11月ー

「来月中旬、休み取れる?アイリ誕生日だろ。3泊5日で一緒にドバイにでも行こうよ。もちろん旅費は俺が出すし」

金曜23時@六本木の自宅にて。

彼氏である豊(38)の肩にもたれるように窓の外に広がる夜景を眺めながらソファ座っていたアイリ(22)は、突然の提案にキラリと目を輝かせた。

「行きたい!休み取れるように調整する」
「決まりね。とっておきのホテルおさえておくから楽しみにしてて」

―ふふ、やっぱ持つべきものは、経済力がある年上彼氏ね♡

豊は、高級賃貸物件の仲介を主な事業とする不動産会社の経営者だ。年収は億を超えているらしい。

そして職業柄なのか、今まで付き合ってきたどの彼氏よりも羽振りがいい。

新卒で入ったPR会社の給料では、六本木のレジデンスで一人暮らしなんて夢のまた夢だし、ハイブランドの洋服やバッグだって自分の力ではなかなか手が届かない。

「嬉しいな。ありがとう、大好き♡」

豊に抱きつくと、彼は満更でも無さそうな表情をしている。筋肉が付いて、程よく日焼けした逞しい腕がアイリの背中に回った。

―ドバイかぁ。豪華なステイが出来そうだし、モスクとか見てみたいし、楽しみ♡

彼と一緒にいると毎日が刺激的でとても楽しい。いつもアイリに新しい世界を見せてくれるから。

同年代の男子なんて子どもだし、行ける店も限られているからつまらない。

ーやっぱり、彼氏は大人の男に限るわ!


彼氏と初めての海外旅行。出国早々、アイリは衝撃を受けることになる…

西麻布のホームパーティーで彼と知り合ったのが半年前。付き合ってすぐに「いい物件があるから引っ越しなよ」と提案された。

そこからはとんとん拍子。

南青山のマンションで同棲していた弁護士の元彼と別れて家を失ってからは、渋々借りていた学芸大学駅のワンルームに住んでいた。しかし、その家をすぐに解約して今のマンションに引っ越した。

豊とは色々な場所に出かけてはいたが、海外旅行は初めてだ。

―楽しみ〜!現地で何買ってもらおっかな♡

出発前のアイリは、呑気にそんなことを考えていた。


DAY1・DAY2


「や…やばい。これがエミレーツのファーストクラス…」

22時30発のフライト。彼が用意してくれた航空券は、エミレーツA380のプライベートスイートだった。

―1回乗ってみたいと思ってたけど、まさかこんな早く夢が叶うなんて。

ウェルカムドリンクとして提供されたドン・ペリニヨンを飲みながら、ふかふかの皮シートに深く腰掛け、ゆっくりと辺りを見渡す。

―こんなに贅沢していいのかな♡12時間くらいは乗るし、本当は寝たほうが良いんだろうけど、寝るのがもったいないよ。

広々したシートは半個室だし、ドリンクは飲み放題。機内にシャワースパが付いているのにも驚いてしまう。パジャマやアメニティはブルガリで揃えられている。自分が知っている機内とはまるで異なる空間が目の前に広がっている。

軽食として出されたキャビアを口に運ぶアイリはとても上機嫌だった。

「豊って本当に凄いよ!さっきから私、感動しっぱなし♡」
「ハハッ、ちゃんと寝とけよ」

隣に座る豊は、目を潤ませるアイリを満足気に眺め、ニカッと白い歯を見せて笑った。

ー豊って38歳の割にカッコいいし、収入も申し分ないし…彼女になれてサイコーだなぁ。

彼からのアプローチは積極的だった。知り合ってからは予約の取れない名店や星付きレストランに連れて行ってくれたし、LINEも頻繁にくれた。

「欲しいものがある」と言えばなんでも買ってくれるこの人と付き合えばオイシイ思いができそう…という打算は少なからずあったと思う。

―まぁ、私レベルのルックスなら、豊が惚れるのも当たり前だけどね。

最近人気の某トップモデルに似ているとよく言われるし、食事会に顔を出せば必ずハイスペックな男たちから言い寄られる。

上から目線で密かに彼氏を値踏みし、満たされた気分でそっと目を閉じ、深い眠りについた…。





「ねぇ見てみて金塊の自販機がある!」
「おぉ本当だ。面白そうだしお土産に一つ買ってくか」

早朝、ドバイ国際空港に降り立ったアイリは、噂に聞いていた“金が売っている自販機”を見つけて興奮していた。

全く読めないアラビア語の標識が、ここが異国の地であることを示している。気温は31度、カラッとした空気だが日差しがとても強い。

「じゃあ、まずはホテルに向かおうか。アーリーチェックインしよう」

入国手続きを終えるや否や、アイリの肩を抱き寄せようとしてきた豊。その行動に少し驚いてしまう。

「ダメだよ。ここはイスラム圏の国だし、多分そういうのに厳しいでしょ」
「あぁ…そっか、つい」

彼の顔を見上げると、なぜか不意打ちを食らったような表情をしている。

「……へぇ。意外とそういう知識はあるのな」
「え?」

ボソッと小さく呟いた豊の言葉は聞き取れなかった。彼はハッとした様子を見せ、それから「なんでもないよ」と首を横に振った。


ドバイの最高級ホテルで、アイリが幸せに浸っていたときに届いた、一通の不穏なメッセージとは…!?

「ここは、今日から泊まるホテルのためだけに存在する人工島だよ」

得意気に説明する豊に連れられやってきたのは、ペルシャ湾に面する砂浜から300メートル弱離れた人工島に立つ超高級7つ星ホテル、『ブルジュ アル アラブ ジュメイラ』だった。外からは、まるで海の上に浮かんでいるかのように見える。

宿泊客かレストランを予約している人以外は基本、ホテルのロビーにすら入ることが許されない。外から写真を撮る観光客達を横目に、入り口のゲートでパスポートを見せ、颯爽と中に入る豊の後ろを歩くときは優越感を感じた。

高さ320メートル。アラビア船の帆をイメージしているという特徴的な外観はもちろん、ホテル内の豪華さに圧倒された。あちこちに散りばめられた純金の装飾がキラキラ輝いている。

そして…。

―まって、なにこの広すぎる部屋。想像以上なんだけど。

案内された部屋に一歩足を踏み入れたアイリは目の前に広がる信じられない光景に呆然とし、その場で立ち尽くしてしまった。

「部屋にビリヤード台がある…しかもプライベートバーまで…」

「ほぉ、これは凄いなぁ。アップグレードしてもらっただけあるね」

隣で感嘆の声を上げる豊の横顔をまじまじと眺める。メゾネットタイプの部屋全体の面積は300㎡を超えるだろうか。バスルームだけで豪華な客室ほどの広さだし、2人で泊まるには広すぎる。

「まるで、アラブの国のお姫様になったみたい♡」

窓から見えるドバイの砂漠とビーチの景色はとても美しい。



―絶対1泊100万以上するよね。この超絶高級そうなホテルに3泊もできる豊って、一体何者なの…。

さすがのアイリでも、ここまでハイクラスなホテルには泊まったことがない。

「フライト長かったし疲れただろ?ちょっと休んだらインフィニティープールやスカイビューバーにも行ってみようか」

早速iPhone片手に写真を撮りまくるアイリを尻目に、豊は一階のダイニングで、テレビを見ながら寛いでいる。

―まずは1枚、インスタにアップしちゃお。

ホテルの様子を映した写真を投稿すると瞬く間にたくさんの“いいね“が付いて、思わず頬が緩んだ。

「部屋すごいね!彼とドバイでリッチなステイなんて羨ましい〜」
「めっちゃ豪華じゃん。いいなー!お土産はパッチのチョコでよろしく♡」

しかし…次々に寄せられる友人達からのメッセージに返信しようとしたとき、“M”という名の不審なアカウントから、おかしなコメントが届いているのを発見してしまった。

「22歳の凡人女が、男をたぶらかして良いご身分ですね」

―は、なにこれ。誰から?…って、明らかに捨て垢じゃん。

コメント主は、アイコンの写真すら設定されていない謎のアカウントだった。フォロワーは3人しかいないし、投稿数もゼロ。

きっと妬み半分の冷やかしだろう…と思うが、良い気分はしない。

―そもそも私が22歳ってなんで分かったのかな、気持ち悪いんだけど。

鍵もかけていないアカウントだし、変な人が絡んでくるのも仕方ないだろう。不審に思ったが、返信しても相手を刺激するだけだと考え、コメントは無視することにした。

「とりあえず通報ボタンだけ押しとこうっと…」

このときのアイリはまだ、迫りくる影に全く気がついていなかった…。


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不穏なコメント主の正体とは…?隠されていた豊の本性が明らかになっていく…。