タイトなスカートに7cmヒール。

どんなに忙しい朝でも、毛先は緩くワンカール。

モテることだけに執着し、典型的な“量産型女子”を演じる円花(まどか)。

しかし年下の起業家男子に恋した彼女は、思わぬ人生の選択をすることに―。

◆これまでのあらすじ

丸の内“量産型OL”である円花は、オトしたい男・篠崎の気を引くために、転職を試みる。

結果は、まさかの成功!さらに転職したことを報告すると、篠崎と再び食事に行くことになる。その夜の帰り道、自分の気持ちを抑えきれなくなり、円花はついに告白をしてしまうが…?

▶前回:「もう、我慢できない…!」欲望を抑えきれなかった女が、衝動的に取った行動



「私、篠崎さんのことが好きです。私が自分を変えようって思ったのも、篠崎さんに出会えたからなんです」

円花は大きく息を吸うと、一息に言い切った。

「もし良かったら、私と付き合ってもらえませんか?」

そう円花が告白すると、篠崎はしばらく黙り込んだ。

円花は今になって、自分の心臓が大きく高鳴っているのを感じる。

「…なるほど」

―なるほどって、どういうこと…?

円花は、篠崎の何とも言えないリアクションに戸惑った。

「僕が、雨宮さんの人生に影響を与えられて、少しでも良い方向に進んでいるのなら良かったです」

篠崎の目は、まっすぐ円花を見ている。そして一呼吸置くと、こう続けた。

「でも、雨宮さんと付き合うことはできません。雨宮さんは面白いし、がんばり屋だと思います。…だからこそ、適当に付き合って傷つけることはしたくないですし」

円花は何となく自分が振られるような気もしていたが、それ以上篠崎の言葉を聞きたくなくなり、途中で話をさえぎった。

「もう、分かりました。ちゃんと答えてくれて、ありがとうございます」

わざとらしく明るい声でそう返したが、急に悲しさがこみ上げてくる。円花は目黒川のイルミネーションが涙で滲みそうになるのを、グッと堪えながら再び歩きだした。

円花は、自分から男に告白するのも振られるのも、これが初めてだった。


玉砕した円花を受け止めた、意外な相手とは

―もうすぐ来るかなあ。

篠崎に振られた翌週の金曜日、20時。

銀座にある焼き鳥店で円花はひとり、カウンターに座っていた。退屈そうにスマホでInstagramをチェックしていると、背後から円花を呼ぶ声が聞こえてくる。

「どうした、急に呼び出して」

隣に座ったのは、篠崎を紹介してくれた同期の松下だった。

「お疲れさま。んー、ちょっといくつか報告したいことがあって」

松下が上着を脱ぐなり、2人はビールを注文する。

いつもは同期のノリで円花をからかう松下だが、円花が神妙な顔をしているせいか、少し落ち着かない様子だ。

「なんだよ、報告したいことって」

グラスを合わせると、松下は待ちきれないといった様子で本題に入りたがった。



「あのね。私、篠崎さんに振られちゃった」

そう言った瞬間、松下はビールを吹き出しそうになっていた。

「えっ、マジか。っていうか、狙ってたんだ」

―あんたが紹介したくせに、何言ってんのよ。

円花は一瞬、松下の無神経な一言に苛立ったが、感情を抑えて受け流した。

「そうだよ〜。松下くんが協力してくれそうな気配もなかったから、別に何も言わなかっただけ」

円花はやさぐれた表情でビールをあおる。

松下は言葉を探すように目線を左右に動かすと、やっとフォローを始めた。

「まあ、上手くいかなかったってことは、元々合うタイプじゃなかったんじゃない?…それか、また雨宮が何か変なこと言ったとか」

「え、私が変ってこと?…っていうか“また”ってどういう意味よ!私、別に変なことなんて言った覚えないけど」

円花が真顔でそう言うと、松下はまた吹き出した。

「えっ!お前、自分が変だってこと気付いてないの?最近なんて“THE・丸の内OL”って雰囲気から急にイメチェンしたし、なんか変わり者だよな」

「ウソ。やっぱ違和感あった…?」

松下の指摘に、円花は愕然とする。

「俺はずっと雨宮のこと見てきたから、そう思っただけだよ。…まあ俺は、今のお前もいいと思うけどね」

「何、急に〜!松下くんが急に褒めるとか、なんか下心ありそうで怪しいんですけど〜」

そうかわしながらも、円花は思いがけない松下からの褒め言葉に、にんまり微笑んだ。

「あ、そうだ。あともうひとつ報告があって。…私、来月から転職するんだ」

その言葉に松下は、口をポカンと開けて驚いている。

「雨宮が、転職!?お金持ちと結婚して専業主婦になるって言ってたのは?」

「確かに前まではそう思ってたけど、気が変わったの。私の人生だから、誰かに頼るんじゃなくて、自分自身で切り開いていきたいと思って」

「…へえ」

円花がそこまで話すと松下は黙り込んだ。

「ちょっと〜!同期が会社を辞めるっていうのに、何か言うことないの?」

そう言うと、松下は真剣な顔つきで、いきなり円花の肩に手を添えた。

こんな風に松下に触れられたのは初めてだったから、円花も思わずドキッとしてしまう。

「あのさ…」


松下が、円花に告げた言葉とは

「まあ、愚痴ならいつでも聞くからがんばれよ!っていうか俺、あの…」

そこまで言うと松下は急に黙り込み、俯いてしまった。何かをごまかすかのように、グラスのビールをグイっとあおる。

「あー、いや。やっぱり何でもない」

「ちょっと、何?気になるじゃない」

円花はふざけて松下を小突いたが、そのあと真剣な表情に戻ってこう言った。

「松下くんもがんばってね。応援してるから」

その言葉を聞いて、松下は再び何か言いたそうな表情をしていたが、結局円花に“何か”を告げることはなかったのだった。





それから、数か月後。

「今連絡が来たんですけど、先月のコンペ案件、見事うちに決まりました!」

オフィスで円花がそう興奮気味に伝えると、フロアから歓声と拍手が湧き上がる。

転職してからというもの、円花は初めての営業職に戸惑いながらも、なんとか仕事に食らいついていた。その結果が実を結び、ようやくコンペを勝ち取ったのだ。

「雨宮さん、がんばったね〜!結果が出てよかった」

円花とさほど年齢の変わらない女性の上司も、満面の笑みでそう円花を褒めてくれる。

円花自身、転職してから仕事が楽しかったし、このように周囲から認められることも快感で、充実した毎日を送っていた。

しかし仕事で忙しくしている一方、おろそかになっていることがある。

「そういえば、雨宮さんって全然恋愛とかしてなさそうですけど、いつから彼氏いないんですか?」

会社近くのフレンチレストランで、受注祝いの豪華なランチを前に、ふと円花の同僚が尋ねてきた。

「えーっと、いつからだっけ…。1年ちょっと、くらいかな?」

円花がそう言うと、彼女は目を丸くして驚く。

「えっ…!それ、結構ヤバいですね」

その率直すぎる言葉に、円花はギクリとする。

―私、さすがに恋愛から遠ざかりすぎてたかなあ。

確かにそれまでは彼氏が途切れたことがなかったし、転職するまでは常に好きな人や、いい雰囲気になっている相手がいた。

それなのに転職してからというもの、慣れない仕事と一人暮らしの両立にてんやわんやで、すっかり恋愛の方はご無沙汰になっていたのだ。

「そう…?まあ、今は自立して、ちゃんと仕事をがんばりたいからさ。別にいいかなって」

何も気にしていない素振りで円花はそう答えたが、内心では自分の将来に対して、モヤモヤした思いが今でもあった。

―婚活ばっかりしてたら仕事がしたくなって、今度は仕事ばっかりしてたら「恋愛してないとヤバい」とか言われて、結局窮屈だなあ。

そんなことを心の中でつぶやいていた時、上司から突然、電話がかかってきた。

「雨宮さん。次の商談に来て欲しいから、そろそろ会社に戻ってきてくれる?」

―げっ、もうそんな時間か。

次が何の商談なのかは詳しく聞いていなかったが「重要な案件のアシスタントに入ってほしい」とのことで、急遽円花がアサインされることになったのだ。

円花は慌ててタクシーで会社に戻り、バタバタと商談の準備をする。

オフィスロビーで来客を待っていると、上司が安堵した表情でつぶやいた。

「間に合ってよかった…。もうそろそろ来る頃ね」

その声に円花がうなずいていると、ゆっくりとエレベーターの扉が開く。

「えっ…、嘘でしょ!?」

その瞬間、円花は目の前の光景に驚いて、頭が真っ白になったのだった。


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「嘘でしょ…?」突然の来客に、円花が驚いた理由とは