—カバードアグレッション…

ユリアによって、その存在を消されたという美和。彼女が“ググってみて”と教えてくれた言葉を調べて、私は確信した。

・相手に罪悪感と恥を感じさせるよう仕向ける
・平気で嘘をつく
・会話の中心が自分でないと急に怒る
・“自分は被害者だ”と主張し、相手に罪を被せる

久しぶりに再会した直後に、“田舎者だけど頑張っている”とか、“芋っぽかった”などと食事会の席で言われたことを思い出す。

あの時は適当に流していたけれど、今となっては全ての言葉に悪意があり、ユリアは遠回しに私を槍で突いていたのだと気がついた。

「さて。これからどうしようかな…」

ユリアは、一見優しくていい人だ。だがその内面は、平気で嘘をついて相手を陥れる闇と欲望にまみれている。

このまま、黙っているわけにはいかなかった。


あなたの周りに、こんな女がいたらどう対処しますか?

「お〜結衣、久しぶりじゃん」

10年前にデートをしていた源太。バイト先のカフェで知り合ったのだが、当時ユリアも彼に好意を寄せていたことをつい先日思い出した。

だからこそ、彼がすべての引き金になっている気がする。

「源太、久しぶりだね。そういえば、結婚おめでとう!」
「ありがとう。結衣は?最近どうなの?」

たまたま仕事で、私の職場の近くに来たという源太と久々にランチをすることになったのだ。

注文を済ませて料理を待っている間、ユリアの話をなんと切り出そうか迷っていると、源太が意外な話題を口にした。



「結衣って、最近健人さんとデートしてんの?」

突然健人の名前が会話に出てきたので、思わず飲んでいたカフェラテをこぼしそうになってしまった。

「え!?な、なんで源太がそのこと知ってるのよ!?」
「そりゃ知ってるよ〜。健人さん有名人だし、あんな素敵で金持ちとデートするなんて、お前はやっぱりいい女でモテるんだな」

源太が軽口をたたく。上場を果たし、源太自身もかなり今潤っていそうだが、独身イケメン同世代の経営者同士、繋がっていても不思議ではない。

「そっか、そこ繋がっていたのか…」
「うん。でもあの健人さんが、結衣のことをすごい褒めてた。珍しいなぁと思ったし、本気っぽい感じだったよ」

人づてにそう聞くと、嬉しくなる。

だが実際は、その健人にもユリアが“あの子は愛人をしている”とLINEを送りつけていたのだ。ショックだったけれど、あの時は反撃する気力さえなかった。

「でもわかんない。ちょっと色々あってさ。頑張りたいけどね!」

あくまで明るく、そして源太には詳細は話さないでおこうと思っていた。しかし突然、源太の口から意外な話が出てきたのだ。

「あのさ。けっこう前の話になるんだけど、結衣と一緒のバイト先にいた、髪の毛が真っ黒で、ロングヘアだった子覚えてる?若干俺のストーカーみたいだった子」
「…ユリアのこと?」
「そうそう」

心の中で、“源太が引き金になってたかもしれないんだよ!”と叫びたい気持ちがあったが、彼に罪は何もない。

「ユリアがどうかしたの?」
「何か最近、お前の悪口言いまくってるらしいぞ」
「健人さんから聞いたの?」
「ううん。全然別の、元同期の外銀の連中から聞いた」

一体どこまで私の悪口を言いふらせば気がすむのだろう。いい加減にウンザリする。

「あ、そう…ちなみに何て言ってたの?」

どうせ、いつもと同じ話だろう。ありもしないことをさも事実のように言いふらし、自分は被害者だと言う。

それが彼女の手口である。

「同期も適当に流してたからあまり覚えていないらしんだけど。“私がデートしていた相手に嫌がらせのメールを送ってきた”とか、“田舎者で育ちが悪いからこそ、頑張ってお嬢様ぶってる”とか。結衣のご両親は素敵な人だし、そんなの嘘だと俺はすぐに思ったけど」

そうなのだ。源太とデートしていた時、たまたま両親が東京に遊びに来たことがあり、一緒にご飯を食べたことがあった。

それを覚えていて、ユリアの話が嘘だと分かってくれているのも嬉しかったが、私は次の源太の一言に思わず耳を疑ってしまった。

「まぁ、あの子自体が全部嘘だからな」
「嘘…?」

「お前知らないの?もともとあの子、出自を偽っているって有名だよ。大学も名の知れないところだけど、サークルに入ってたからと言うことだけで慶應卒って言っているし。会社も、一瞬だけインターンをしていた代理店を未だに言っているらしいけど、実際は何してるんだろうな」

少しずつ、少しずつ。

可愛らしい赤ずきんちゃんの仮面の下に隠れていた、悪いオオカミがしっぽを出してきた。


遂に正体が露わになった、黒ずきん。だがさらなる恐怖が待ち受けていた…

「そうなんだ…実はこんなことがあって」

すると最初はウンウンと聞いていた源太の表情が、どんどん変わっていく。

「お前さ。それ、気がついてないの?最初からすごいバカにされてるじゃん」
「例えば?」
「田舎者が頑張っているとか。普通の良識のある人なら言わないよ?」

源太の言葉に小さく頷く。

私もバカだった。とりあえず笑って流しておけばいいと思っていた。

笑いに変えて場が盛り上がるならば怒ることでもないと思っていたが、そんな態度が逆効果だったのか、ユリアはどんどん私を標的にしていったようだ。

「あと、そのメールの件はちゃんと法的措置を取った方がいいよ」

どこまでユリアを追い詰めるべきなのか。それが正直わからずにいた。だが源太はかなり本気のようで、まっすぐ目を見ながら言われてしまった。

真剣な源太に背中を押されるようにして、私はすぐに上司に連絡をしてみることにしたのだった。

「というか、源太ありがとう。源太の結婚祝いなのに、こんな話してごめんね」

すると、ガハハと源太は大きな声で笑い始める。

「そんなことはどうでもいいって。そしてこの一件、俺に任せといて。あとさ、最大の復讐方法を教えてやろうか?」
「何?」

「結衣が、圧倒的に幸せになることだよ。向こうがどうあがいて蹴落とそうとしてきても引っ張り落とせないくらい、圧倒的に」

源太の笑顔に、嘘や偽りは一つもなかった。



会社からの帰り道。今日は寒暖差が激しい1日だった。日中は暖かかったのに、夜になるとすっかり冷え込んでおり、私は思わず首をすくめる。

行きつけのバーにでも寄って帰ろうかと思い、店の近くでタクシーを降りた瞬間だった。

「…結衣ちゃん!」

ハッと振り返ると、そこにはまさかのユリアが立っていたのだ。



黒い靴


「ユ、ユリア…どうしたの、こんな所で?」

氷のような笑みが、ユリアの顔に張り付いている。

「たまたま通りかかって。それより最近、結衣ちゃん元気にしてる?全然会えてないなぁと思って。ここのバー、前に結衣ちゃんに教えてもらって以来、私も気に入って通っているんだ」

目を合わせたら石にでもされそうなほど、暗くて鋭い視線。真っ黒な髪が夜の闇に輝いて見えて、それがより一層怖かった。

「そうなんだ…ちょっと今は急いでいるから、またね」

—待ち伏せしていたの…??というか、いつの間にここのバーに入り浸っていたの?

恐ろしくなって足早にその場を立ち去ろうとするものの、ユリアは並行に歩いてついてくる。

「結衣ちゃん。余計なお世話かもしれないんだけど…健人さんの話、聞いたよ?結衣ちゃん大丈夫?無理しているんじゃないかなと心配になって」

何も言わない私に対し、ユリアは一人で話し続ける。

「婚活において、本当に結婚したいならもう少し現実を見た方がいいんじゃないかなと思って。結衣ちゃんは可愛いしいい子なんだけど…ほら。結衣ちゃんって、自己評価が高すぎじゃない?」

以前の私だったら、真に受けて傷ついていた。けれども、この言葉で傷つくほど無駄なことはない。

気にしないのが一番。悔しさをグッと抑えながらも自分にそう言い聞かせる。

「ごめんね。余計なお世話かもしれないけど、結衣ちゃんのためを思って言うんだよ」

耐えきれなくなった私は、ユリアの言葉を極力聞かないようにするためにその場から逃げるように立ち去った。

—どうしてこんなことを言われないといけないの?

もう、限界だ。このまま黙っているわけにはいかなかった。


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