男と女の賞味期限3年説。

それが真実なら、夫婦が永遠に“男女”でいることは難しいだろう。

男女としての関係が終わりかけた夫婦はその時、どんな決断をするのだろうか。

◆これまでのあらすじ

エリート医師の夫と順調な生活を送っていたはずの真希。だが最近、夫・翔一と夜の事情に変化が起きていた。久しぶりに誘うも断られてしまい…。

▶前回:「もう一度、女として見られたい…」裕福な妻が欲望を再認識した、白昼の出来事



「じゃあ、行ってきます。今日は遅くなると思う。先に寝て良いからね」

朝7時半。

翔一が出て行くのを、真希は毛布をすっぽり被って聞こえないふりをした。

−何なのよ?

先に寝て良いなんて、配慮ある夫ぶっているのが腹立たしい。要するに、夜のベッドはお断りということだろう。

昨晩だってそうだった。

「子どもが欲しいなら基礎体温をつけるところから始めたら?」

子作りに積極的な夫を装って、翔一は逃げたのだ。

「そういうことじゃなくて…」

反論する真希のことなどまるで無視して、彼は浴室へと向かって行った。「疲れたなぁ」と、わざとらしく呟きながら。

ハッキリ断るわけではなく、こちらに諦めさせるというやり方が気に食わない。彼なりの気遣いなのかもしれないが、モヤモヤした気持ちが残るだけだ。

だが、これ以上要求するのは気が引けた。乗り気ではない夫にせがんでまで、というのは何か違う。愛情やムードとかがあってこそ成り立つもののはず。

リビングに取り残された真希は、呆然と立ち尽くした。

−私はもう、夫の、“男としての本能”をくすぐる存在ではないの…?


翔一への不満が溜まっていく真希。リフレッシュに出かけた友人とのランチだが、価値観の違いに…?

友人の夫婦生活事情


翌日。

真希は、高校時代の友人・華子と梨香とのランチに出かけていた。

「久しぶり!って、真希。随分気合い入ってない?」

先に座っておしゃべりに興じていた2人だが、真希が登場するなりポカンとした表情を見せた。

「そ、そう?久しぶりの外出だったから」

何食わぬ顔で答えるが、正直バツが悪い。開口一番に鋭く切り込んでくるなんて、さすがは10年以上の仲だ。親友の目は侮れない。

ボディラインを強調した黒いノースリーブのワンピースは、真希の勝負服だったことを2人は覚えていたのだろう。

ジロジロと見られて気恥ずかしさを覚えた真希は、慌ててカーディガンを羽織る。

まさか、この女子会のために気合いを入れてきたわけではない。昨晩、翔一に傷つけられた自尊心を回復するためだった。

自分がお洒落して出かければ、世の男性は振り返る。女としてまだまだいけるということを証明したくて、独身時代と同じくらい着飾ってきたのだ。

結果は予想通り。レストランに来る途中、数人の男性から向けられる不躾な視線はこの上なく快感で、ピンヒールを鳴らしながら気分良く闊歩してきたところだ。



「実は、妊娠4ヶ月なの」

乾杯に何を飲むかと騒いでいると、華子がお腹を撫でながら報告してきた。

「おめでとう!きゃあ、ベビーシャワーしたい。楽しみ!」

キャッキャとはしゃぐ梨香の横で、真希はかなりの衝撃を受けていた。

華子が結婚したのは、1年前。

独身時代から「恋愛と結婚は別」と豪語していた彼女は、結婚相談所に登録、あれよあれよという間に結婚した。

夫は、大手不動産勤務の7歳上。一度会ったことがあるが、あまりのダサさにギョッとしたのを覚えている。

小太りでニコニコした、えびす顔の男。その日彼がクリーム色のトレーナーに身を包んでいたこともあり、真希の中では、華子の夫=クリームパンとインプットされている。

人様の旦那に対して失礼だが、男としての魅力は1ミリたりとも感じられなかった、あの男と。下世話だと思いつつも、華子たちの夫婦事情が気になってはいたのだ。

そんな彼女が妊娠ということは。当然、そういう関係があったということ。

すると華子が、デカフェのコーヒーを飲みながら淡々と話し始めた。

「職場復帰を考えると、夏か秋に産みたくて。タイミング見てもらって、うまくいったのよ」

「職場復帰?」

独身謳歌中の梨香が、はて?という表情で首を傾げる。

「保育園よ。4月って、入園枠が一番多いでしょ?半年くらい育休を取って復帰したいって考えて計算したの」

「さすが華子ね。計算通りってわけ?」

梨香が感心したようにため息をつく。だが真希が気になったのは、「タイミングをみてもらう」というセリフの方だった。

「タイミングって、病院のこと?」

さりげなく聞いてみると、華子は「あっ」と小さく呟いた後、やたら詳しく説明を始めた。真希も妊活中で情報収集していると思ったらしい。

「そうそう。私は妊娠しやすい時期を特定してもらうために病院で診てもらってたんだよね。いわゆるタイミング法ってやつ。

それで授からなければ治療にステップアップも考えてたの。テキパキした女医さんでおすすめだよ」

紹介しようか?とでも言い出しそうな勢いを止めるべく、真希は制止する。

「私はまだ、そこまでは考えてないんだけど…。もう少し、カップルでいたいかなって」

すると華子は、少し身を乗り出して聞いてきた。

「え?夫婦が男女なんてあり得ない。

私、旦那のこと、男として意識したことなんかないよ」


妊娠中、DINKS、独身。三者三様の意見。徐々に話が合わなくなっていく…?

複雑な女心


−それは、あのクリームパンみたいな旦那ならね。

ケタケタと笑う彼女を前に、真希は心の中で毒づく。

2杯目のシャンパンで饒舌になったのか、気付けば真希はこんな質問をしていた。

「ねえでも。男として意識出来ないのに、そういうこと出来る?」



「やだー、昼から激しいテーマ!

でも私も気になってた。いつまでも男女でいるなんて無理でしょ?」

梨香は、興味津々といった様子だ。恋愛体質の彼女は、30才過ぎた今でも短命な恋愛を繰り返している。

梨香いわく、刺激がないと生きていけないらしい。とにかく飽きっぽくて、恋人だけでなく、仕事も住む場所もコロコロ変わるのだ。

すると華子が、「真希は相変わらずね。今日の格好しかり」と、冷やかすように笑って続けた。

「妊活目的以外では…、ほとんどないわよ。でもね、旦那のことは好きだから」

お腹を愛おしそうに見つめる華子は、幸せオーラに包まれている。その様子から夫婦関係は良好なのだろうと悟る。だが真希は納得がいかない。

「なんだろう、ムードとかはないの?そんな機械的なのはちょっと…」

すると梨香が、勢いよく割り込んできた。

「その反応からすると、真希は翔一さんとまだまだラブラブってことでしょ?羨ましいわあ。

女として求められる秘訣、教えてよ!」

「たしかに。色気の無い格好の私とは大違い。やっぱり、バッチリ女でいると、旦那さんも女として見てくれるのかあ」

梨香の言葉に、華子も頷く。だが真希は、盛り上がる2人の隣で複雑な気分だった。

翔一には、昨晩も断られたばかり。朝だって、今晩も勘弁してくれと遠回しに釘を刺された。

女として求められているとは言い難い。いやむしろ、拒否されている。だがここで、翔一とのギクシャクした関係を晒すのはプライドが許さなかった。

「ま、まあ」

適当な愛想笑いを浮かべてかわすと、梨香が再び爆弾を投入してきた。

「私は、一生女として見られていたいなあ。理想は、うーん。ほら、政府高官の夫を持ちながら若き青年将校と恋に落ちる、アンナ・カレーニナみたいな?」

梨香の夢物語に、華子がプッと吹き出す。

「小説と現実は違うでしょう。夫を失うリスクを冒してまでなんて、バカバカしいわよ」

2人が盛り上がっている隣で、真希は居心地の悪さを感じていた。下手に話を振られないように、「私には関係ない話だから」と笑ってごまかす。

同じ既婚者とはいえ、華子ほど合理的に割り切ることは出来ない。夫には、ずっと女として見て欲しいし、求められたいと願っている。

だがここで、梨香に共感しようものなら、夫婦生活が停滞気味、欲求不満だということをうっかり晒してしまいそうだ。それは、避けたい。

−早く終われば良いのに。

久しぶりの楽しいランチのはずが、ひどく息苦しい時間に感じられた。



夜。

ソファに寝転んだ真希は、大きなため息をついた。

他の男からの熱い視線で一時的に自信を取り戻したものの、根本的な解決につながっていないことくらい分かっている。翔一との停滞した関係をどうにかしなければ、モヤモヤした気持ちは解消されない。

昨晩の言葉といい、翔一も、華子のような考えにシフトしているのは間違いない。だが、そんな無機質な夫婦関係になってしまうのは御免だ。どうにかもう一度、男女に戻る方法を考えなければ。

−ちょっと環境を変えてみるっていうのはアリかも。

寝る準備を終えた真希は、翔一の帰りを待った。

23時。

玄関が開く音がしたので、急いで出迎える。すると翔一は、少し怯えたような表情を見せた。

「あ、起きてたの。先に寝てて良かったのに…」

真希は、目を逸らしてその場を逃げようとする彼の腕を掴んでこう言った。

「最近ちょっと疲れてるでしょ?羽を伸ばしに、近場のホテルでも出かけようよ」


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