お金もステータスも、欲しいモノはなんだって手に入れてきた

物質的には、何不自由ない生活を送る“マテリアル夫婦“

でも、なぜか心は満たされない

唯一お金で買えないものは「子ども」

だったら、子どもをもうければ、もっと幸せになれるはず!?

すべてを手に入れたとき、果たして彼らは幸せになれるのか……?



日本一の勝ち組男、三枝マサル・35歳


「なんかおもしろいことねぇかなぁ…」

都会のど真ん中にそびえ立つ高級タワーマンション。プライベートプール付きのペントハウスから、東京の街を見下ろす。

一番高いところに住んで、東京の街を見下ろすのが夢だった。

脇目もふらず駆け上がり、気付いたらテッペンにいた。

大学時代から起業を繰り返し、巨額の富と輝かしいステータスを手に入れ、スタートアップ経営者兼エンジェル投資家として悠々自適な生活を送っている。

そんな僕を、人は“勝ち組”と呼ぶ。

しかし、成功と引き替えに手に入れたものは、幸せではなく虚無だった。

どんなモノを買っても、どんなモノを食っても、どんな女と付き合っても、どんな危険な遊びをしても、心が揺さぶられることはなくなった。

欲しいモノはなんだって手に入れてきたが、僕の心は満たされやしない。闇深いブラックホールのようにキラキラしたモノを片っぱしから丸飲みしていく。

初めてこの景色を見た時に湧き上がった感情は、どこへ行ってしまったのだろう。

何も感じなくなってしまったのは、いつからだろうか。

それでも僕は、一番高い場所に固執する。

東京が、ゴミ屑みたいに小さく見えて安心できるから。

派手に遊ぶことも許されないこんなご時世。それならプライベートプール付きのペントハウスを買って家で楽しもうと思ったが、それもきっと数日で飽きてしまうのだろう。

金で買えるモノなんて、たかが知れているのかもしれない。

僕がやり残したことは「宇宙旅行」と「結婚」の二つだけ。

金で買えないモノは「子ども」だけだった。

それならば…。

結婚して子どもをもうければ、幸せを感じられるはずだと思ったんだ。


日本一の勝ち組男が結婚したお相手は、一体誰…?

「その絵はソファの上辺りにお願い。あ、気をつけて、それエド・ルシェの絵で200万ドル以上もしたんだから。ブルース・ナウマンの絵は廊下で、バルーン・ドッグは玄関に置いて」

60畳のリビングに続々と運び込まれる美術品。

サザビーズやクリスティーズで落札したときの高揚感が、“一瞬だけ”蘇る。

美術品には、これまで全く興味がなかったが、3年ほど前に偉大なる起業家の先輩の自宅に飾ってあったジャン=ミシェル・バスキアの作品をみて、雷に打たれたような衝撃を受けたのをきっかけにコレクターになった。

とにかく単純に、理屈なしに「カッコイイ」と思った。

時計も飽きた、車も飽きた、全てに飽きた男がたどり着く最後の沼は、アートなのかもしれない。

未だにアートについてはよく分からないが、美術品は、価格が上がる場合もあるから投資する価値もある。

高額なアートを購入すれば、自分の知名度が上がり国内外の富裕層との人脈も広がる。

世界的に有名な芸術家の作品は “勝ち組”の証。

リモート会議や自宅での取材が増えたから、さりげなく写り込ませたいという下心もある。

なにより、 “ホンモノ”の仲間入りができたような気がして、自尊心をくすぐられる。



「はぁ、最高の眺めね。私、マーくんと結婚できてとっても幸せ」

テレビの中で生きていた沢山リカ(27)が、僕だけの“モノ”となり、無防備な笑顔を僕だけに見せている。

仕事で成功して、良い時計をして、良い車に乗って、良い家に住んで、良い女と結婚するのが夢だった。

ミスコン、アイドル、グラビア、モデル、女子アナ、キャリアウーマン、令嬢、いろんな女を見てきたが、やはり良い女の頂点に君臨するのは女優だろう。

妻にするなら誰もが羨むような女が良かった。日本一の美女であるリカに狙いを定め、あの手この手を尽くした。

リカが好きなブランドを調べ、コレクションに招待してもらい、フロントロウで隣の席になるように偶然の出会いを仕組んだ。

「海が見たい」と言われれば、すかさず先輩からプライベートジェットを借りエメラルドグリーンの海がある場所まで彼女を連れ去った。「ピザが食べたい」と言われれば、弾丸でイタリアまで飛んで世界一美味しいピザをご馳走した。

とにかく、リカの笑顔のために全力を尽くした。そんな無茶ができる男は、さすがに僕しかいなかったようで、目を輝かせた彼女に手応えを感じた。

—なんとしても、この女を手に入れたい。

リカはハリー・ウィンストンで落とせるような女ではないと思った僕は、世界で最も美しいダイヤモンドを求めて、南アフリカ・ボツワナ共和国にあるジュワネング鉱山まで足を運んだ。

意図的に熱愛を発覚させてからは、仕事をセーブして僕といる時間を優先するようになっていった。

2019年の年末にはナミビアまで飛んで、ナミブ砂漠で初日の出を見た。

そして、ポケットに隠していた大きなダイアモンドを差し出して、こう言った。

「一緒に宇宙に行こう」


最高の女と結婚すれば、僕の心は満たされるはずだと思ったのに…

太陽の光が、砂丘とリカの頬を真紅に染め上げた。

彼女は目に涙を浮かべ、首を縦に振った。

「マーくんは、いつも私が知らない世界を見せてくれるから、一緒にいると心の底からワクワクできるわ。これからも、あなたと一緒にいろんな世界を見てみたい」

その瞬間、全てが報われるような達成感があった。

若さも、美貌も、ステータスも、人気も、全てを持っている完璧な女。

それだけでなく、天真爛漫で、賢くて、芯の強さがある、中身だって最高な女だ。

「結婚式はカリブ海に浮かぶセントルシアのシュガービーチを貸し切ろう。それともフランスのシャトーにしようか。ドイツのホーエンツォレルン城も良いかもしれない。ヴァレンティノに知り合いのデザイナーがいるから、ドレスはオートクチュールをお願いしよう。子どもは当分作らずに、二人で世界中を旅しよう…」

昨年1年間は各方面への調整に奔走し、遂に2021年1月1日、リカは大手事務所から独立し晴れて僕の妻となった。



その事実が連日にわたって報道されたときの、高揚感が忘れられない。

日本中の男たちからの羨望の眼差しが、今でも目に焼き付いている。

リカが隣にいてくれるだけで、僕という人間が「いい男」だと証明されるような気がするし、隣で微笑んでくれているだけでパワーをもらえた。

しかしコロナの影響で、二人で語り合っていた未来は全て夢物語となった。

定期的に海外に行き、楽しいイベントを一つ一つこなし、僕の心に刺激を与えてくれるはずの予定が全て白紙に…。

幸せな結婚生活が始まるはずの新居で、僕はソワソワとした焦燥感に駆られていた。

なぜなら、結婚したことによって得られた僕の幸福感が、今日をピークに日に日に減っていくのではないかという恐怖に襲われていたからだ。

時計だって、車だって、マンションだって、美術品だって、手に入れた瞬間は高揚感と多幸感に包まれるが、それが同じ濃度で継続することはない。

急に怖くなった僕は、窓の外を見つめていたリカを後ろから抱きしめる。

「なぁリカ、子ども作ろうよ」

僕の人生に足りないのは、あとは子どもだけ。

最後に残ったそのピースさえ手に入れれば、幸せのパズルが完成できる気がしたのだ。


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▶NEXT:3月11日 木曜掲載予定
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