“なかめ”の愛称で親しまれているトレンドスポット、中目黒。

代官山や恵比寿にほど近く、高級住宅街を控えたこの街には、昔からファッションをはじめ個性的な店が点在している。

飲食店も然りで、芸能人御用達の鮨店や会員制の焼肉店等々、食通たちが足繁く通うエリアでもあるのだ。

だが一方で庶民的な面もあり、こうした多面性もまた、中目黒のクリエイティブな大人たちを魅了する理由のひとつなのだろう。

そんな中目黒の裏路地に店を構えて27年、予約を取らないスタイルながら人気を集め続ける名店がある。

『鳥よし 中目黒本店』がそれだ。



時間と情熱があれば手に入る“お洒落焼き鳥”にはない格好良さ


グルメサイトで焼き鳥部門No.1となった名店や、権威あるグルメ批評誌の常連店など、数ヶ月先まで予約が取れない気鋭の焼き鳥店たち。

そんな人気店で、現在腕を振るっている店主の多くが研鑽を積んだのが、ここ『鳥よし』である。



ご主人の猪股善人さんが同店を始めたのは、フランスから帰国してまもない1994年のこと。

往年の名店・六本木『鳥長』で修業後、のべにして11年余りをパリの焼き鳥店で腕を振るった猪股さん。

世界一の地鶏との呼び声も高いブレス鷄をはじめ、いろいろな鶏を手掛けてきたフランスでの経験を生かし、自らの店で使うべく選んだのが伊達鶏。日本のブレス鷄を目指す銘柄鶏だ。



「伊達鶏は、クセがなく食べやすい鷄ですね。でも、旨味はきちんとある。地鶏に比べて身は柔らかく、それでいて歯応えはしっかりとあり、バランスのとれた鷄だと思います」と猪股さん。

そのひと言を体現するように、開店以来、伊達鶏一筋。ベストな伊達鶏を育てるべく餌や飼育方法などについて生産者と相談しながら共に尽力してきた。



そんな伊達鶏の特質を知り尽くした猪股さんだからこその、肉のカットや串打ち、タレの味や焼き方がそこにある。

それがここ『鳥よし』の変わらぬ味を支えているのだ。

『鳥よし』の焼き鳥には勢いがある。炭台にぎっしりと炭を敷き詰め、強火の直火で一気に焼き上げる。



これが『鳥しき』『鍈輝』等々『鳥よし』の流れを汲む店々に引き継がれている猪股流の焼き方だ。

芳しい香りが鼻を擽り、焦げ目も旨そうな焼き鳥は、肉汁で心持ちぷっくりと身が張っているようにも見える。かぶりつけば、想像どおりのジューシーさと張りのある食感に頬が緩む。


『鳥よし』を訪れたなら、絶対に食べたい1本はコレだ!

美学をいただく


本来は自分の好みを好きに頼むスタイルが常套だった焼き鳥が、昨今はおまかせが主流。だが、猪股さんはきっぱりとこう言う。



「うちはおまかせでもアラカルトでも、お客様の好きなように楽しんで頂いています。気軽に数本頼んで一杯飲んで帰るのもOK。焼き鳥ってそういうものでしたから」

焼き鳥自体へのこだわりや内装は一流店の矜持を持ちつつ、スタンスはあくまでも庶民的。



このバランス感覚が『鳥よし』の魅力であり、愛され続ける所以かもしれない。



オープン以来、27年間、毎日継ぎ足し継ぎ足しされて今に至る秘伝のタレは、醤油と砂糖、みりんがベース。

数えきれないほどの串の鷄の脂と、長い年月が醸し出す味は焼き鳥店の宝。まろやかな旨味を生み出している。



写真は店前にある4名掛けの木製ベンチから扉を眺めた様子。いよいよ次の順番、となったときに目に入る、高揚感もひとしおの光景だ。


よりムードが艶っぽい。徒歩30秒の分店もあり


2018年にオープンしたのが、こちらの分店。本店からは目と鼻の先にある。

本店よりもややゆったりとした店内には、テーブル席もあり、サイドメニューも充実。水炊きも味わえる。豊富に揃うロゼワインにも注目だ。




交通の便が良いとはいえないが、中目黒にはそんなネガティブなところを払拭するお洒落感が漂う。

それはきっと街にいる人々のクリエイティブな雰囲気。彼らは身内でのしっぽり飲みを好み、逆にいうと、外からの人間を好まない風潮がある。

高架下の開発により若者が一時的に流れたというが、現在はまた、大人が馴染みの店でゆったりと中目黒を楽しんでいるようだ。