「お金より愛が大事」と口ではいくら言っていても…。

「やっぱり、玉の輿に乗りたい」と思っている女は一定数いる。

大手通信会社で働く“玉の輿”狙いの小春(25)と、“女なんて金でどうにでもなる”と思っている会社経営者・恭介(32)との恋愛攻防戦。

◆これまでのあらすじ
ドライブデートの帰り、小春は帰り際に「もっと一緒にいたい」と発言し、恭介のマンション内のBARでお酒を飲むことになったが…

▶前回:「まだ、帰りたくない…」デートの帰り際、自分から誘う女。意外な男の反応とは



小春:今日、抱かれるわけにはいかない


「小春ちゃん、うち来る?」

恭介に誘われた小春は、即答できなかった。

最初のデートで男の部屋に行くなんて、誰に対しても同じことをしている軽い女だと思われてしまうし、どんな恋愛マニュアル本にでも書いてあるタブーなことの1つだ。

―どうしよう…。

返事に迷った小春は、苦し紛れに恭介に尋ねた。

「もっと…何かないんですか?」

「ん?何が?」

「もっと私が、お部屋に行きたくなるような口実です。例えば…可愛いトイプードルを飼っているとか。ベタだけど、そういうの」

ここぞとばかりに色っぽい表情をして恭介を見つめてみたが、彼には通用しなかったようだ。

「なにそれ。口実なんていらないでしょ、おいで」

恭介は小春の手を掴むと、すっと立ち上がりエレベーターホールに向かった。



―わぁ、すごい…!

エレベーターで1つ下の階に降りると、ホテルライクな内廊下が広がっていた。BARが最上階で、恭介の部屋はその1つ下。ということは、実質最上階に住んでいるということになる。

―さすが。

タワーマンションの低層階に住む男が苦手な小春は、恭介に心の中で拍手を送る。ミーハーだとわかりながらも、高級タワーマンションの高層階に来るとテンションが上がってしまう。


恭介に誘われる小春だが、今日は絶対に服を脱げない理由があった…?

「トイプードルはいないけど、どうぞ」

ドアを開けた恭介に促され、小春は部屋の中に入った。

薄暗い玄関の先には、広々としたリビングダイニングがあった。

そこには、大きなパソコンが2台とMacBookを載せたテーブルが壁際にあり、反対側には大きな黒い革張りのソファが鎮座している。

「適当にくつろいで。もうお酒はいらないよね。紅茶でも飲む?」

「はい!ありがとうございます。なんだか、緊張しちゃいますね」

男慣れしていない純粋さをアピールするために発した言葉だったが、半分は本当で、もう半分は嘘だ。

小春が緊張している理由は、恭介に押し倒されずに自分のペースで事を進められるか、という不安から来るものだった。

恭介は、紅茶をローテーブルに置き、ソファに腰掛けていた小春の隣に座った。

「もっとこっちにおいでよ」

小春の気持ちなどお構いなしといった様子で、笑顔で二人の間のスペースをぽんぽんと叩く。

「それ以上は…」

甘くも芯の通った声で、恭介を見つめながら言う。



「じゃあ…俺の彼女になる?」

恭介は何食べる?と同じようなテンションで小春に聞く。

ーこれって、抱くための口実だよね…。

「彼女になれば、このまま襲われても安心でしょ?」

恭介に肩を抱かれたまま、小春は思い出していた。今朝、家を出てくる時、自分が上下バラバラの下着を身に着けてきたことを。雰囲気に流されそうになっても、自分自身を制御するためだ。

「恭介さん、私のこと本当に好きなんですか?だったら…もうちょっと大事にしてほしいな」

紅茶が入ったマグカップを両手で包みながら言った。

―どうか、ここで引かないで。お願い。

小春の想いが通じたのか、恭介は声のトーンを変えることなく優しく答えた。

「…わかった。そうだよね。来週はどこかいい店予約するよ。その時、改めて告白させてね」

恭介の大きな手が、小春の頭を優しく撫でると同時に、かすかにため息が聞こえたような気がした。

―ただの呼吸よね?

「わぁ、ほんとですか?嬉しい!」

小春はベッドインをお預けできたことにホッとした。しかし、恭介の彼女になれたわけではない。油断は禁物だ。

小春の背中をさすっていた恭介の手が肩に回り、そのまま包むように抱きしめられた。


翌日、恭介が女友達に小春のことを報告すると、意外な反応が…?

恭介:気楽な女友達の存在


「へー。それで、その子のどこに惚れたわけ?」

佑未(ゆみ)の低い声が、AirPodsから聞こえてくる。

彼女は、外資金融でM&Aの仲介業務をしているバリキャリを絵に描いたような女友達だ。知人に連れて行かれた肉会で2年前に出会った。最近はこうして電話で近況報告することが、定番になっている。

「顔はかわいい?仕事は何してんの?」

恭介が答える前に、佑未がまくし立てる。

ーなんで、女のスペックが気になるんだよ。

恋仲ならばともかく、恭介と佑未は男女の関係になったことはない。もちろん今後も、正真正銘ただの友達だ。

それなのに、恭介が落とそうとしている女について、佑未はあれこれと詮索してくる。

「別に惚れてない。フツーの子だから金かけなくて済むし、ラクなんだよ」

恭介は、家事代行サービスの原田さんが作ってくれた、大葉とチーズのササミフライをトースターで温めながら答える。

「ラクねぇ…でも、その子も結局は恭介のお金目当てだと思うよ。女は本心を隠すのが上手いから」



「そんな感じには、全然見えないんだけどな」

恭介がぼやくと「バカね」と佑未が笑った。

「ま、今はその子で休憩してもいいんじゃない?」

そんな彼女の声を聞いた時、恭介の中に芽生えたのは、怒りではなく安心だった。

「ところで、すぐに手を出さなかったのは、想定内なわけ?」

佑未は楽しそうに、聞いてくる。

「最初のデートで部屋に連れ込む男ってだけで警戒されてるのに、押し倒したら通報されかねないだろ」

「まぁ、それもそうか。すぐに手に入るようじゃつまんないもんね」

「てかさ、お前も男作れよ。たまには面白いネタをくれ」

恭介が言った後、彼女は間髪入れずに答えた。

「じゃあ紹介してよ。私より稼いでなくてもいいから、賢くて、浮気しなくて、記念日もしっかりお祝いしてくれて、家事が好きな普通の男を」

―その普通は、普通じゃねーよ。

恭介は、心の中で毒づきながらも、気兼ねなく話せる佑未の存在に感謝していた。

「来週の30歳の誕生日には、神楽坂の和食屋さんに女友達と行くんだ。でもプレゼントは宅配便で受けつけてるから、よろしくねん」

「じゃあ、欲しいLINEスタンプおねだりしといて」

恭介が言うと、佑未は「やだぁ」と笑う。

―でも、佑未なら鞄や宝石よりもダイソンの加湿器の方が喜びそうだな…。

恭介はフライをビールで流しこみながら、そんなことを思った。



佑未との電話を切ったあと、ふと気がついた。昨日あんなに親密に過ごした小春から、今日は全く連絡が来ていないことに。

仲良くなるとすぐに「何してる」「どこにいる?」「ごはん食べた?」と、当たり前のように彼女ヅラをしてくる女とばかり遊んできた恭介には新鮮だった。

―こんなこと、初めてかもな…。

昨晩小春がタクシーで帰ってから、もう24時間は経過している。

訳もなく不安になり、いつの間にか頭の中が小春で埋め尽くされていた。

その味わったことのない感覚から逃れたくて、冷蔵庫から2本目の缶ビールを取り出し、グラスに移すことなくそのまま口にする。

ほろ苦さが、喉を通り胸まで染み込んだ。



▶前回:「まだ、帰りたくない…」デートの帰り際、自分から誘う女。意外な男の反応とは

▶Next:3月6日 土曜更新予定
恭介は道で偶然、初恋の相手に出会う。小春の強敵になるのか...?