オンラインで、キラキラした私生活を垣間見せる女たち。

豪華なインテリアや、恋人との親密な関係性、メイクや服装。

だけど画面越しに見せている姿は、本当の自分とかけ離れているのだ。

先週は、独身をこじらせすぎたグルメアカウント女が登場した。さて、今回は…?

▶前回:30歳目前、結婚ラッシュの波に乗り遅れた女。友人との再会で見たくなかったモノを発見してしまい…



Vol.7 “美人ワーママ”の涙


名前:竹田智佳子
年齢:34歳
世帯:娘と2人暮らし


「今くらいの年齢って、キャリアも積んでいきたいけど、子どもとの時間も大切にしたいし。これで良いのかなって悩むよね〜」

「すごい分かる。ちょうど分岐点にいるよね、私たち」

私たち。そう彼女に括られた人々は特権階級なんだろうな、と加奈子は思う。…もっとも、自分には子どももいないし、結婚すらしていないのだが。

最近始めた、招待制の音声SNS『Clubhouse』。その中の“30代ワーママ集合!仕事と子育てのあれこれを話そう”というトークルームの会話を、自宅でこっそり聞いていたのだ。

そのルームでスピーカーとして話をしていたのは、前職の化粧品会社の先輩・智佳子だった。

もう3年くらい会っていないが、彼女は現在34歳にして今話題のスタートアップ企業で事業部長を務めながら、6歳の娘を育てているらしい。

ルームのオーディエンスは400人近くおり、美人で時折メディア出演もしている智佳子は、この界隈では有名人のようだ。

仕事と家庭を両立できる女と、できない女の違いは何なのだろうか。そんなことを、加奈子はグルグルと考えてしまう。

―まあ、他人のことを羨ましがってもしょうがない。私は私で、いい人を見つけるんだから。

気を取り直してそう自分に言い聞かせると、婚活アプリにログインするのだった。


女性たちの憧れ“美人ワーママ”が抱えていた、誰にも言えない悩みとは

竹田智佳子のオフライン「この人と一緒にいるのは、もう無理だ」


―今日も、会議と取材でスケジュールが埋まってるなあ。

朝9時。智佳子が自宅で仕事を始めるべくカレンダーを開くと、予定がぎっしりと詰まっていた。

スタートアップ企業に転職して3年。小さい子どもを育てながらも必死に仕事をこなし、現在は事業部長という立場だ。

今の会社は“子育て中の女性でも出世できる”ことを、とにかく売りにしている。だから智佳子は広告塔のように、メディアで女性のキャリアについて語る機会を設けられていた。

今日1件目の取材タイトルは“コロナ禍における仕事と、生活の変化”。

一瞬ドキリとしながらも、深呼吸をしてオンラインミーティングのURLをクリックしようとした、その時。智佳子はあることに気づき、ふと手を止めた。

視線の先にあったのは、娘が手作りした七夕の短冊。

―画面に映らないように、隠さないと…。子どものものって、なかなか捨てられないんだよなあ。

そう思いながら、出しっぱなしだった七夕の短冊を眺める。そこに書いてある丸くいびつな文字を見て、胸が痛くなるのだった。





それは、今から数か月前。2020年6月のこと。

玄関で「やっと友達に会える〜!」とはしゃぐ娘を見て、智佳子は嬉しいような不安なような気持ちに駆られていた。

緊急事態宣言が解除され、保育園も週に何回かは登園ができるようになったばかり。しかし子どもが集団の中で過ごすことに、まだ安心はできない。

娘を園に送り届けてから帰宅すると、そこら中に散乱した食器や衣類が目に飛び込んでくる。なんだか、それだけでグッタリとしてしまった。

―これも、あともう少しの我慢だから。

智佳子は、大手広告代理店に勤務する夫の慎也と娘の3人で、三田のタワーマンションに住んでいる。

しかしこのコロナ禍でのワンオペ育児と家事に限界を感じ、娘が小学校に上がったら離婚しようと密かに考えていたのだ。

黙って脱ぎ散らかされた服を片付けていた時、慎也が寝室からジャケットを着てリビングに出てきた。

「今日は出社するの?」

「あぁ。担当してるアーティストのオンラインライブが近いから、いろいろ詰めないといけなくて」

それだけ言うと、彼は足早に家を出て行った。

―ずっと家にいられるとイライラするから、会社に行ってくれて良かったわ。

それが、智佳子の本音だった。


その夜、冷戦状態の夫が取った最悪の行動

仕事と家事を忙しく済ませ、ひと息つこうとしていた23時頃。

「ただいま〜」

仕事柄、慎也の帰宅時間が遅いのはいつものことだ。しかしその日は明らかに顔が赤く、酒を飲んでいるのがすぐに分かった。

「えっ、こんな時に飲んできたの!?ありえないんだけど」

「仕事の付き合いなんだから、しょうがないだろ」

智佳子が当然の注意をすると、彼はすぐに機嫌を悪くする。

「もしあの子に何かあったらどうするの?ちゃんと家族のことも考えてよ」

そう言うと彼は洗面所でサッと手を洗い、そのまま寝室に直行してしまった。

―最悪。早く離婚したい…!

そしてその2日後、さらに最悪の事態が起きた。娘が急に熱を出し、体調を崩したのだ。

「うわっ、38度もある。どうしよう…」

慌てふためく智佳子をよそに、平然と会社に行こうとする慎也は「子どもはコロナにかかりにくいって聞くし、ただの風邪だろ」と他人事だ。

「あなたがこんな時に飲み歩いたせいで、この子に熱が出たのかもしれないじゃない。私だって大事な仕事があるのに…」

その言葉は虚しくも、家を出ていく夫の耳には届いていないようだった。

智佳子はなんとか最低限の仕事を終わらせると、付きっきりで看病した。おかげで娘の熱は少しずつ下がり始め、本当にただの風邪で済んだようだ。

しかし疲れ果てたせいか、智佳子はいつの間にか娘の隣で眠り込んでしまった。

そして目が覚めたのは22時過ぎ。すると何やら、リビングでオンライン飲みをしている声が聞こえてきた。

―もしかして慎也、私の話をしてる…?

何となくそう感じ、思わず聞き耳を立てる。

「奥さんがいちいちうるさくて、嫌になるんだ。何かあると『自分にも仕事がある』って偉そうに言ってきてさ。もう別れたいよ」

その声がハッキリ聞こえた時、この人と一緒にいるのはもう無理だと確信した。寝室の扉を開け、勢いよくリビングへと出ていく。

「いいわよ、離婚しても。私、出て行くから」

「え…?ちょっと待てよ」

慎也は動揺していたが、それには構わず、引き出しの中にしまっていた離婚届を差し出す。

「私の記入欄は全部書いてあるから、あとはあなたが書いて出しておいて」



それからすぐに娘と暮らす部屋を決めて、いよいよ慎也とは別居することになった。

借りたのは芝浦の1LDKマンション。娘が保育園を転園しなくてもいいように、以前住んでいた家の近くに決めたが、夫の顔を見なくて済むというだけでせいせいしている。

そして、引っ越しの朝。

「じゃあ、あとはよろしく」

そう言うと、彼は静かにうなずいていた。その姿を一瞥し、玄関のドアを閉めようとする。すると娘が急に何かを思い出したようで、部屋の奥に戻っていった。

「忘れ物しちゃった〜」

何か木の枝のようなものを持ってきたが、あとで処分すれば良いと思い、その時はあまり気にしなかった。

その後15分ほど歩き、新居に近づいてきた頃。ふと娘に問いかける。

「持ってきたその枝、何?」

「この前ね、保育園で七夕の願いごとを書いたの」

そう言われて見ると、プラスチックの笹の枝に小さなピンク色の短冊がぶら下がっている。思わず手に取ると、こう書いてあった。

『パパとママが なかなおりしますように』

その文字を見て、智佳子はこらえていた涙を止めることができず、その場で泣き崩れたのだった。


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