どうしても、忘れられない人がいる

「絶対に、もう一度彼を振り向かせる!」

そんな目標を掲げて…

“別れてしまった恋人”との復縁を願い、行動する1人の女がいた

これは、元彼との“復縁”に奮闘する、とある女性の軌跡を描いた物語である

◆これまでのあらすじ
元彼・友之の家にお泊りしてしまったが、復縁はできなかった樹里(27)。落ち込む彼女のもとに、ある人から連絡が…。

▶前回:「元サヤなんて絶対に無理…」復縁を狙う女が、元彼とのデート後に絶望したワケ



貴裕と初めてのClubhouse


『樹里たん、会いたい』

私が担当している由奈からLINEが突然届いた。

よりによって友之の家にお泊りしてしまい、落ち込んでいたタイミングだった。

すぐに、由奈に連絡し、彼女が身を寄せている姉の家まで明日会いに行くことになった。

彼女とは、スキャンダルが発覚してから2週間以上連絡がとれなかったから嬉しかったが、その一方で、どんな顔をして会ったらいいのかわからない。

『私が由奈の変化に気づいていれば、こんなことにならなかったのでは』という申し訳ない気持ちでいっぱいだったから。

さっさと寝てしまいたいのに、なかなか寝つけない。由奈のことや友之のことを、あれこれ考え込んでしまう。

そんなとき、なんとなくLINEのトーク画面を眺めていると、貴裕さんのアイコンが目に入る。その瞬間、貴裕さんのちょっとはにかんだような優しい笑顔が脳裏に浮かんだ。

友之と会う約束をしてから、貴裕さんとは2週間ほど連絡を取っていなかった。彼の方からLINEは届いていたが、既読無視したままになっている。

― 貴裕さんの声が聞きたい……。

自分勝手なのは重々承知だが、落ち込むことがあると、急に貴裕が恋しくなる。

― でも、なんて連絡したらいいんだろう…。

彼に連絡する理由を探していたとき、スマホに届いたプッシュ通知を見て、私は名案を思いついた。

― そうだ、Clubhouseの招待枠余ってたんだ。貴裕さん、誘っちゃおうかな…。

思いついた瞬間、指が勝手に動いて貴裕さんにLINEしていた。

『樹里:お久しぶりです!仕事が忙しくてずっと連絡できてなくてごめんなさい!』

少し緊張しながら、謝っている顔のスタンプと共にメッセージを送る。するとすぐに既読になり、彼から返信がきた。

『貴裕:おつかれさまです!元気ですか?心配してました』

いつもと変わらない彼の様子に安心する。

『樹里:貴裕さん、もしClubhouseやってなかったら、招待してもいいですか?久しぶりに一緒にお話ししたくて!』

『貴裕:実は前から気になってました!僕こういうの疎くて。樹里さんに誘ってもらえて嬉しいです(笑)』

狙い通りすぐに反応してくれたので、貴裕さんを早速Clubhouseに招待した。


Clubhouseをきっかけに貴裕と急接近し、樹里の気持ちが動いていく…?

せっかくだからちょっと使ってみようという流れになり、私は「Closed」でルームを作成した。

『あ、もしもし…聞こえてますか?』

貴裕さんの穏やかな声が響く。

「これだとあんまり電話と変わらないですね」

私が笑うと、貴裕さんも『なんでみんなハマってるんですかね』と笑った。

そこから1時間くらい、特に話題もないけれど、私たちは最近あったことについてダラダラと話していた。

「明日の仕事は気が重い」と伝えると、彼は『樹里さんなら大丈夫』と手放しで励ましてくれる。

こういうとき、友之だったら具体的で的確なアドバイスをたくさんくれるはず。でも今の私には、貴裕さんのようにすべてを包み込んでくれる優しさが必要だった。

『樹里さんは、本当に優しいですよね。僕、芸能人のことってよくわからないけど、樹里さんが担当してるタレントさんはみんな幸せだと思いますよ』

彼の言葉が心にしみる。不意に涙が出そうになったが、『褒めすぎですよ』と笑ってごまかす。

「貴裕さん、ありがとうございます。私、頑張りますね!」

温かな気持ちでルームを終了し、アプリを閉じる。

― やっぱり私には、貴裕さんみたいな人が合ってるのかな…。

布団をすっぽりかぶって、そっと目を閉じながら考えていた。

彼と話して心がふわっと軽くなったのを感じ、貴裕さんと付き合うのもいいかも、と思い始めていた。






由奈の再起をかけた提案


「ドキュメンタリー番組に由奈の特集を組ませる、か……」

神妙な面持ちで私の企画書を眺める取締役と、それをじっと見つめる私。

そしてその隣には、由奈がいた。

「番組プロデューサーは常にネタを探しているようなので、この企画を持っていったら絶対に喜んで引き受けてくれるはずです」

昨日私は、由奈に会いに行った。

由奈は最後に会ったときよりもずっと痩せていたが、彼女の透き通るような美しさや、輝くオーラは健在だった。

そんな彼女が私に伝えたかったこと。それは「芸能の世界が好き。その世界で仕事を続けたい」という強い想いだった。

「本当に、私軽率でバカだった。樹里たん、私に仕事をください。お願い!」

そう涙ながらに訴えてきた由奈を見て、彼女をこの世界で再び活躍できるようにしてあげたいと思った。そして2人で何時間も話し合って企画書を作ったのだ。

どんな手を使ってでも、彼女が芸能界で活躍している姿を見たかったから。


樹里が考えた、スキャンダルで干された由奈を芸能界に戻す方法とは…?

その再起をかけた企画というのが、「由奈の家庭環境をさらす」というものだった。

由奈は母親を幼い頃に亡くしている。

一方で、アルコール依存症だった父親は由奈と姉の育児を放棄。育ての親となったのは母方の祖母だった。

しかし、芸能界で活躍し始めた由奈の稼ぎに父親が目を付け、彼女につきまとうようになる。事務所は父親と由奈を引き離すよう尽力したが、事務所に怒鳴り込んでくる父親と揉めて警察沙汰にまで発展したこともあった。

その後は、弁護士を立てて話し合いを行い、由奈は父親と事実上の絶縁状態になった。事務所もこの父親の対応にはかなり頭を悩ませたが、なんとか彼女が安心して活動できる環境を整えた。

由奈も父親には二度と会いたくないと言っていたが、今回は由奈自ら「家庭環境をさらせば、世間は私に同情してくれるかもしれない」と提案してきたのだ。

実際、吉岡重徳が20歳以上も年下の由奈に手を出したことについて、“気持ち悪い”とか“由奈は吉岡に騙されたのでは”という声も上がっている。そこを上手く利用し『父性を求めて不倫に走った悲劇のヒロイン・山城由奈』を作り上げようというシナリオだ。

しかし、やはり取締役はなかなか首を縦に振ってはくれない。

「父親とコンタクトを取るのはかなりリスキーだし、何より、由奈が傷つくかもしれない。倫理的に、この提案は受け入れられない」

私は、その言葉に反論できなかった。上司の言うことは、もっともだと思うから。

すると、由奈が口を開いた。

「私は、もう傷ついたりしません。たくさんの人に迷惑かけちゃったから、仕事で誠意を見せたいんです。お願いします」

深々と頭を下げる由奈を見て、私も一緒に頭を下げる。

そんな私たちの様子に、取締役は深くため息をついた後「俺じゃ判断できないから社長に伝えとくよ」と言ってくれた。

私たちは上司にお礼を伝え、顔を見合わせて微笑んだ。





― 私も由奈と一緒だよ。友之のこと好きって気持ちを優先して、自分のこと大切にしてなかった…。

仕事を終え最寄り駅の神泉から家までの帰り道、ふと、由奈の言葉を思い出した。

「本当はこのことが記事になる前に、すでに振られてたの。そのとき初めて、私は彼にとって“遊び”でしかなかったってわかったの。辛くて、しかもそんな自分が情けなくて恥ずかしくて…」

私は由奈に「もっと自分を大切にしてほしかった」と偉そうに言ったが、私も同じだった。

そんなことを考えていたら、あっという間に家に到着した。

そのとき。

「とも、ゆき……?」

私のマンションの前に、コンビニの袋を持った友之が立っていた。

信じがたい光景に、私は目をぱちくりとさせる。

「お疲れ〜」

友之は満面の笑みでこちらに近づき、ひんやりとした大きな手のひらで私の頬を包んだ。

「さっきまで神泉で院長と飲んでてさ、そういえば樹里の家近かったよなと思ったから来ちゃった。ほら、樹里が遅かったせいでこんなに冷えちゃったよ〜」

ヘラヘラと笑いながら、今度は手を繋いで来ようとする友之に対し、私は、腹の底から怒りの感情が湧き上がってくるのを感じていた。

「……いい加減にしてよ!」

友之の手を勢いよく振りほどく。驚いた彼の顔を見て一瞬ハッとしたが、それでもなお、私の苛立ちは収まらなかった。


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自分を都合よく扱ってくる友之に、怒りをあらわにした樹里。次回、ついに友之が別れを告げた理由が明らかに……?