「今度こそ、幸せになりたい」

“離婚”という苦い経験を経て、また恋をして結婚がしたいと願う人たちがいる。

そんな彼らの再婚の条件は、実に明確だ。

「一度目よりも、幸せな結婚!」

それ以上でも、それ以下でもない。

幸せになることを、諦めないバツイチたちの物語。

▶️前回:「それ、聞かないで…」バツイチ女が、初デートで絶対に触れてほしくない話題



Case2:完璧な条件の夫と離婚した女


名前:萌香(38歳)
職業:美容皮膚科医
離婚した時期:1年半前

「すごく、嬉しい。私たちいい家族になれると思う!」

萌香は目に涙をいっぱいため、薬指にピッタリおさまっているリングをじっと見つめた。いつものように、中目黒にある萌香の部屋で夕食を食べた後、6歳年下の彼氏・徹がプロポーズしてくれたのだ。

「俺も、生まれてくる子と家族になるのが楽しみだよ」

「ありがとう。でも私…」

萌香はいきなり真顔に戻り、徹に言った。

「子どもはどうしても2人欲しいの。早めに2人目も作りましょ」

付き合って8ヶ月、妊娠8週目にして早くも2人目を欲しがる萌香。しかし、徹は彼女の言葉に「せっかちだなぁ」とまんざらでもない様子だ。

萌香が早急に2人目を欲しがるのにはワケがある。萌香は38歳。体力も気力も十分あるうちに、子どもを育てたいのだ。

それにお腹に赤ちゃんを授かるまで、気の遠くなるような長い年月を過ごしてきた。

徹が今こうしてバツイチである萌香の前でプロポーズしてくれているのは、偶然ではない。萌香が作り出した必然なのだ。

徹は中堅のゼネコンで働いているサラリーマンで、美容皮膚科医として銀座にあるクリニックで副院長を務める萌香の3分の1程度しか年収がない。

それでも萌香は、ただただ幸せだった。

薬指には徹の買ってくれたささやかなエンゲージリングがキラキラと輝いていて、お腹の中には待望の赤ちゃんがいる。

バツイチである萌香にとって、今日という日は特別な意味がある。


幸せ絶頂にいる萌香の辛く悲しい過去とは?

萌香が離婚した理由


ー4年前ー

「またダメだったの」

当時の夫が帰宅するやいなや、萌香は今月も月のものが来てしまったことを報告した。

「焦らなくても、そのうちできるよ。子どもは、授かりものって言うだろ」

仕事で疲れている夫はまるで他人事のように返事をした。夫は都内の大学病院に勤める内科医で、未だ出世レースから外れることなく激務に耐えている。

夫とは同じ私立医大を卒業しており、友人の結婚式の二次会で知り合った。

1年の交際期間を経て、大恋愛の末に結婚。しかし、結婚して5年経っても子どもができる気配がない。

すでに萌香は34歳、夫はもうすぐ40歳になる。経済的に何不自由なく、夫婦仲も悪くない。それなりに幸せな結婚生活を送っていた。“子どもがいない”というただ一点を除けば。

「どうしてできないの?」

萌香は月に一度、ナーバスに夫を問い詰める。夫はそれを適当にあしらうのがここ数年の常だ。

2人目を出産する友達もちらほらと出てきた。忙しくても幸せそうな彼女たちを見ていると、萌香も仕事とは違う慌ただしい日常に身を置いてみたいと強く願った。

しかし、萌香が子どもを欲しがれば欲しがるほど、夫は多忙を理由に協力を拒むことが多くなっていった。

35歳になったとき、意を決し夫に不妊治療を持ちかけた。

「冗談だろ。どうしてそこまで子どもが欲しいんだ?」

夫に軽くあしらわれた。

「どうして協力してくれないの?」

萌香は非協力的な夫を責めた。仲が良かった彼との間にできた小さな亀裂は少しずつ広がり、萌香は孤独になっていった。

― 別れた方がいいのかな?でも、子どもができないことを理由に離婚していいの?

子どもがいなくても、充実した人生を送っている夫婦はたくさんいる。それに、彼といれば経済的になんの心配もない。さらに、離婚したからといって子どもができるわけでもない。

とはいえ、夫の両親から「子どもはまだ?」と聞かれるのはいつも自分。

「お仕事辞めてゆっくりしたらすぐできるわよ」

義母に言われた一言も、萌香の心の中でずっと尾を引いていた。

そんな風に悶々と悩んでいた頃、萌香は夫の車の助手席で小さなピアスを見つけてしまった。

「これ、誰の?誰を乗せたの?どこに行ったの?」

半狂乱で夫を問い詰めながら、怒りに任せて今までの不満をすべてぶちまけた。

「ごめん。子作りのことばかり言われるのが負担で、魔が差した」

夫は力なく言った。

― 子作りは嫌なのに、他の女性とは…。

夫への情や尊敬の念が一気に崩れ落ちた瞬間だった。お互いの心が離れてしまった今、もはや子どもをもうけることは無理だと萌香は思った。

離婚を切り出すと、夫はホッとした様子で言った。

「好きなようにするといいよ」と。





36歳で離婚したあと、それまで住んでいた御茶ノ水のマンションから中目黒の1LDKに引っ越した。ふっきれた女は行動が早い。

早速、萌香は再婚活をスタートした。友人たちには再婚願望を伝え、いい人がいたら紹介して欲しいと頼んだ。また、友人の勧めでマッチングアプリにも登録した。

萌香の再婚の条件は、たった1つ。

「健康そうな人」つまり「すぐに子どもができそうな人」だ。

だが、いざアプリに登録するとなると、知り合いに見つかったら恥ずかしい、という気持ちが先行する。プロフィールは控えめに。医者であることも年収も隠し、写真は目を隠しぎりぎり誰か特定できないものをアップした。

しかし「いいね」を押してくるのは、子育てが一段落ついていそうな40、50代の男性ばかり。この時、萌香は37歳。婚活市場ではこの現実は当たり前なのかもしれないが、多少なりともショックを受けた。

とはいえ、子どもが欲しい萌香が狙うべきは元気な若い男性。

試行錯誤の末、プロフィールに「美容皮膚科勤務」と「年収2,000万」を追加することにした。

そして、思い切ってはっきりと顔がわかる写真に差し替えた。

翌日から「いいね」の数が跳ね上がり、萌香も驚いた。

― やっぱり、医師っていう肩書って男女ともに強いのね。

もしかしたら、萌香の経済力目当ての男性もいるかもしれないが、そんなことは気にしないことにした。だって、それも自分の持ち合わせているスペックの1つだと考えたから。


どうしても子どもが欲しい女が描く、再婚までのシナリオとは?

そして「いいね」を押してきた中の一人で、萌香よりも6つ年下の男性とメッセージをやりとりするようになる。それが徹だ。

― この人、なかなかいいんじゃない?笑顔素敵だし。タバコも吸わないって書いてある。

ぱっちり二重の濃い顔で塩顔が好きな萌香のタイプではなかったが、肌ツヤがよく、見るからに元気な赤ちゃんを授かれそうな予感がした。

ゼネコン勤務で、年収は萌香の3分の1ほどだったが、大して気にならない。

トントン拍子で会うことが決まり、最初のデートの日。

「こんなに綺麗な方に会えるなんて…。僕は本当にラッキーですね」

徹は実年齢よりもはるかに若く見える萌香の容姿に、本当に驚いているようだった。萌香の方も爽やかな彼に好印象を抱いた。

話してみると、実際に健康な青年であることもわかった。大学時代はアメフト部に所属していたという彼の身長は180cmほどあり、ガタイもいい。今も運動は続けており、週に3回はジム通いを欠かさないという。

― 決めた。私はこの人の子どもを産むわ。

そう決意して、すぐに彼と付き合うことにした。

徹にはもちろん言わなかったが、萌香は「授かり婚」だって構わないと思っていた。

「ね、疲れたでしょ?箱根の温泉とってあるの」

萌香はタイミングを計って徹を旅行に誘った。行くのはいつも温泉やビーチリゾートのような、のんびりできるような場所だ。徹が自分の知性と大人の色香にやられていくのが、萌香には手に取るようにわかった。

― でも、まだまだ油断できない。赤ちゃんを授かるまでは!

付き合い始めた頃、「なんで私みたいなアラフォーと付き合おうとおもったの?」と徹に一度だけ聞いたことがある。

その時彼は、「萌香は相手に何も求めないから気が楽なんだ」と答えた。

それを聞いた時、思わず心の中で笑みがこぼれた。

確かに若い子と付き合えば、それなりのレストランにエスコートしたり、記念日にブランド物をプレゼントしたり、機嫌をとったりする必要があるだろう。それにそういうことが上手にできるかで、いい男か判断されることも多い。

萌香も若いときはそうだった。

しかしバツイチになった今、男性側に多くを求めることはしなくなった。

いや、求めていないというのは正確には違う。萌香が求めているのは、どんな高級ブランドにも代えがたいものなのだから。

― きっと、かわいい赤ちゃんが生まれるはず!





萌香は病室のベッドサイドに腰掛け、コットの中にすやすやと眠る小さな赤ちゃんを見つめていた。

38歳の高齢出産にも関わらず、拍子抜けするほどの安産だった。

生まれてから2日しか経っていないのに目鼻立ちのくっきりした息子の顔。萌香と徹の良いところだけを抽出した傑作だ、としみじみと思った。

思い返せば、出会ってすぐに付き合い、その後間もなくして妊娠した。あっという間にお腹は大きくなり、出産準備に明け暮れた今年の夏。

8月の一番暑い最中、萌香は駒沢公園エリアに引っ越しもした。中目黒のマンションを売却し、戸建を購入したのだ。

3日後には退院して、そこでの新しい生活が始まる。

引っ越しを決断をしたのは、大きな犬を飼ってみたいという徹のために、というのは建前で、緑豊かな良い環境で子どもを育てたいから。

徹が退院してくる二人のために、昨日から夏休みを取って家を整えてくれている。もともと彼は子ども好きで、妊娠中も生まれてくる子どもに会うのを心待ちにしていた。

結果良ければ全て良し、とはよく言うけれど、思い返せば再婚活中の自分は完全に獲物を狙うメスと化していた。

妊活、離婚、そして再婚活…。「我が子」という希望に向かって、折れそうになる心を震い立たせながら時を刻んできた。そして今萌香は、ようやく母になれた。


萌香の再婚の条件:健康な赤ちゃんを授かれそうな人


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「再婚する気はないの」という女の本音