女といるのが向いていない、男たち。

傷つくことを恐れ、女性と真剣に向き合おうとしない。そして、趣味や生きがいを何よりも大切にしてしまう。

結果、彼女たちは愛想をつかして離れていってしまうのだ。

「恋愛なんて面倒だし、ひとりでいるのがラク。だからもう誰とも付き合わないし、結婚もしない」

そう言って“一生独身でいること”を選択した、ひとりの男がいた。

これは、女と生きることを諦めた橘 泰平(35)の物語だ。

◆これまでのあらすじ

元カノの麻里亜と3年ぶりに会った泰平。そこで「婚約したの」と打ち明けられるも、どこか不幸そうな彼女。しまいには「さらってもいいよ」と言われてしまう。

泰平は、そんな麻里亜とヨリを戻し、自分が幸せにすると決意したのだった。

▶前回:元カノと3年ぶりの再会。帰り道、すがるような目で見つめられた瞬間、男が取った行動は…?



『樹から聞いたよ!おめでとう』

今日もリモートワークを終え、ベッドの上でくつろぎながらスマホを開く。すると、灯(あかり)からのメッセージが届いていた。

僕は、彼女のことがちょっと気になっていた先々週の自分を思い出す。

灯は一緒にいると、とても居心地が良い。「こういう子なら、僕でも気を張りすぎずに過ごせるのではないか」そう思ってはいた。

でも、今や頭の中は麻里亜一色だ。彼女に感じる、このソワソワした気持ちこそが恋愛なのだと、ようやく思い出した。

そんなことを考えていたとき、樹から電話がかかってきたのだ。

「どうした?」

「おう。突然だけどさ、ダブルデートしない?一泊で」

僕は「えっ?」と聞き返す。

「俺、思うんだけどさ。そんな簡単に婚約破棄するなんて、麻里亜ちゃんは一体どんな子なの?いい加減、会わせてよ」

本当に心外なことだが、樹は麻里亜について疑惑の目を向けているのだ。…失礼なやつだ。

「麻里亜を探ろうとしてるんだろ?それなら断る」

「違うよ〜!親友なのに、会わせる前に結婚するのはないんじゃない?って言いたいの」

言われてみれば、樹と麻里亜を会わせたことは一度もなかった。

「…でも、なんでダブルデート?」

「女がいないと、女の子の性格は見えないんだよ」

やっぱり探ろうとしてるじゃん、とツッコミつつ「お前は誰を連れてくるの?」と尋ねる。すると樹は、思わぬ人物の名を口にしたのだ。


樹が誘った人物とは…?

「灯だよ」

「えっ。…二人はもう、付き合ってるのか?」

「いや?友達だよ。灯にはもう確認してあって、4人でなら泊まりもOKもらってる」

行動が早いな、と思わず苦笑してしまう。

「…わかったよ。麻里亜がいいって言ったら行くよ」



ダブルデートについて、麻里亜は意外にも快諾してくれた。

「でも私、知らない人と遊ぶのって初めて。ねえ、灯さんってどんな人なの?樹さんの彼女ってこと?」

「ううん、彼女ではない。でも楽しい子だよ。気が利くし、すごく明るいし」

そう言うと、麻里亜は首をかしげた。

「…私より、楽しい?」

「え?」

麻里亜はこういう、不安そうな顔をよくする。婚約の行方について何も言わない彼女にしびれを切らす形で、先週僕から改めて正式に告白したというのに。

「そんなことない。僕は麻里亜のことが大好きだから、いつも楽しいよ」

こういう恋愛っぽい言葉を、自分から捻り出すのには一苦労だ。

でも一度目は、僕の愛情表現が足りなくて別れてしまった。だから、今回こそ反省を活かすのだ。

…もう麻里亜を傷付けたりはしない。





そして迎えた当日。東京駅のホームに着くと、樹と灯はすでに談笑していた。

「葉山麻里亜です。初めまして」

挨拶する彼女の美しい横顔を見て、なんだか誇らしい気持ちになる。

そこからおよそ1時間半で、軽井沢に到着した。樹が予約していたコテージは想像以上に広く、快適に過ごせそうだ。

囲むように茂る木々を見ながら、こんなふうに遠出するのも悪くないなと思う。

「今日は昼から飲んじゃおう!」という彼らの提案で、買ってきたオードブルとお酒を並べていたとき。ふいに灯と目が合った。

「ねえ、泰平さん」

すると彼女は、麻里亜が部屋にいないのをチラリと確認してから、耳元でこう囁いたのだ。

「思ったけどさ。麻里亜さんの前だと、いつもと全然違うね」

自覚がないわけではない。麻里亜といると、全神経が彼女に集中して自分を失うような感じがある。灯といるときとは、わけが違うのだ。

「そりゃあね」

僕の言葉に、灯は「なんかちょっと失礼じゃない?」と茶化して笑った。

そうして買ってきたお酒を飲みながら、ほろ酔い気分でくつろぐ。僕は、隣にピッタリとくっついて座る麻里亜の淡い香りを感じて、幸せな心地でいた。

そのとき、樹がこんなことを言いだしたのである。

「ねえ。麻里亜ちゃんってさ、もう婚約破棄したの?」

すると、その言葉に麻里亜がビクリと肩を震わせたのだ。


樹の唐突な質問に、麻里亜は…?

樹からの質問に、麻里亜は「ええ…。まあ、そろそろ?」とぎこちなく笑う。

「ふうん。泰平のどこがいいの?」

「…とっても優しいの。愛してくれるし」

彼女は、少し困惑した様子で答える。すると灯が突然「わかる!」と声をあげたのだ。

「泰平さん、麻里亜ちゃんのこと本当に大好きなのよ。ずっと言ってたもんね」

しかし麻里亜はなぜか、唐突に浮かない顔をしている。

「…泰平さんと灯さん、とっても仲が良いんですね」

「え?いやいや、そうじゃないわ。だって泰平さんの話って、半分は麻里亜さんへの未練話でしたよ?」

灯がフォローをしたのに、麻里亜は不満げだ。…なんだか変な空気になっている。

こういうとき、やっぱり女心はよくわからないと思う。



酔った樹はそれから、あからさまに灯へ絡みだした。

「ねえ。灯はさ、結婚願望ある?」

すると絡まれた灯は、樹に水を差し出しながら言う。

「いやあ、別にマストではない。むしろ変な制度だなーって思う」

「えー!しなくてもいいの!?…ずっと独身で、もし一匹狼みたいになったら人生超つまんなくない?」

「樹はね、そうかもね」

灯は“樹は”のところを強調して言ったあと、続けた。

「残念だけど、私は“誰かに愛されたい”みたいな気持ちはないのよ」

それを聞いて、なぜか麻里亜が目を丸くした。

「えっ。愛されたいって思わないんですか?」

「もちろん、愛してくれる人がいたら嬉しいですよ。でも結局、自分が一番、自分のことを好きだから」

麻里亜は呆気に取られた様子だ。

「そんな考えもあるんですね…。びっくりです。女の幸せは愛されることだって、ずっと聞かされて育ったから」

そこから麻里亜は、いつになく饒舌になった。

「私、両親に困るくらい愛されてきたから。だから愛されないことに慣れてないし、愛をきちんと伝えてくれる人がいないと、寂しいし不安で…」

そう言って、宙を見上げている。…なんだか、婚約相手を思い出しているように見えた。

麻里亜にこんな辛そうな顔をさせる婚約相手に、僕は苛立ちを覚える。

その場が若干、重い空気になった瞬間。灯はビール瓶を勢いよく開けて言った。

「まあ、人生が楽しいかどうかよ。その中に恋愛や結婚が入ってくるかどうかは、人それぞれだし。運とタイミングもあるし」

そう言ってビール瓶に口をつける灯を、麻里亜は信じられないという目で見つめていた。…しかし僕は、首をぶんぶん縦に振りたいくらい、灯に共感していたのだ。

それを麻里亜に悟られないよう「まあね」と小さくつぶやく。すると彼女は、酔って熱くなった細い指を、スルリと絡ませてきたのだった。


▶前回:元カノと3年ぶりの再会。帰り道、すがるような目で見つめられた瞬間、男が取った行動は…?

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麻里亜の驚くべき本性が、ついに…。