知らず知らずのうちに、まるでバンパイアのように男からエネルギーを吸い取る女。

人は彼女のことを、こう呼ぶ。「エナジーバンパイアだ」と。

付き合ったら最後、残された者には何も残らない。それでも自分が踏み台にされていることを分かりつつ、彼女に執着してしまう。

気づけばもう、次なるターゲットのもとに行ってしまっているというのに。

…誰か教えてくれないか。あの子を忘れる方法を。

◆これまでのあらすじ

裕紀と別れた直後、えりかは速攻で涼太と付き合い始めた。

最初は“仕事上のパートナー”としてスタートしたはずの、二人の関係。なぜ親友を裏切ってまで、えりかと付き合うことになったのだろうか…?

▶前回:「君と深い関係になることはできない…」美女に恋愛感情を向けられた男が、思い悩んでいたワケ



えりか「自分の気持ちには、正直でいたい」


「ねえ涼太さん。今夜よかったら食事に行きませんか?」

それは、涼太と付き合う前日のこと。

まだ“裕紀の彼女”だったえりかは、いつものようにシェアオフィスの打ち合わせスペースでミーティングを終えたあと、耳元でそう囁いた。

「起業する」と言っているのに、なぜかブランドもので身を固めるようになった裕紀。そんな彼に嫌気がさしていたえりかは、涼太にある提案をしようと思い、食事に誘ってみたのだ。

しかし涼太はあからさまに目線をそらして、複雑な表情をしている。

― あ。これは断る言葉を探してるな。

ごまかすように咳払いをする彼を見て、焦ったえりかは追い打ちをかけるように言う。

「お話ししたいことがあるので、断らないでくれませんか…?」

精一杯のうるうるとした瞳をつくって、涼太を見つめる。

「…わかったよ。じゃあ、銀座のほうに連れて行きたい店があるから、そこでいいかな?」

― よかった。断られずに済んだ…。

ホッとしたえりかは“ある提案”を、どうやって彼に受け入れてもらおうか、考え始めるのだった。


えりかが考えていた“ある提案”とは…?

「提案があるんです」

涼太の行きつけだというお鮨屋のカウンターで、乾杯もそこそこにえりかは切り出した。

「…提案?」

その言葉に彼は、不思議そうな顔をしていた。

涼太を前にすると「この話を受け入れてくれるのだろうか」という不安が、脳裏をよぎる。そのせいか、うまく言葉が出てこない。

― でも、自分の気持ちには正直でいないと。

そう心に決めたえりかは、フッと小さく息を吐く。そして、そのまま顔を上げると、彼の目をジッと見つめて一気に喋った。

「驚かないでほしいんですけど…。涼太さん、私とお付き合いしていただけませんか?」

「…えっ」



「もし付き合ってくださるなら…。私、いますぐ裕紀と別れます」

「えりか、ちょっと待って。君、いま自分で何言ってるかわかってる?」

涼太の口調は、まるで子どもを諭すようだ。動揺が伝わってくる。

「はい、わかってます。それでも私は、涼太さんが好きなんです。どちらにせよ裕紀とは別れるつもりですが、その前にきちんとお伝えしておきたかったんです」

えりかは凛とした表情を崩さずに言った。

「涼太さんと一緒にいるほうが、人生が輝いている感じがするんです。いまの裕紀は、何ていうかダサいと思ってしまって…」

彼が口を挟む間も無く、えりかは理由を並べる。それらはもちろん本音だった。正直、最近の裕紀にはうんざりしていたのだ。

応援すると言ってくれていたのに、最近はえりかに対して嫉妬心剥き出しで、何かと突っかかってくる。

えりかの成功を妬み、彼の起業準備がうまくいっていないからと、人のせいにしてくるような態度にもムカついていた。

― 次は裕紀よりも余裕があって、もっともっと一緒に高みを目指していける涼太さんと付き合いたい。

いつからか、そう思うようになっていたのだ。

「…わかった」

たっぷりと考え込んだあと、そうつぶやいた涼太の目は真剣そのものだった。

― 言ったからには、ちゃんと裕紀と別れないと。

えりかは裕紀との別れを決意して、彼の目を見つめ返すのだった。


そうして裕紀と別れたえりかは、涼太のエナジーも吸い取るかのように成長していって…?

涼太「裕紀の二の舞には、なりたくない…」


それからすぐに、えりかは裕紀と別れたようだ。さすが仕事もできる彼女は、行動が早い。

そして付き合うまでも積極的だったえりかの態度は、付き合いだしてからも変わらなかった。

「好きだ」
「尊敬する」
「裕紀と比べると、しっかりと結果を出していて素敵」

こんなふうに、涼太に対して毎日愛を伝えてくるのだ。それらの言葉一つひとつが、涼太の承認欲求を満たしてくれて心地が良い。

彼女と付き合い始めて数週間程度だが、絶対に手放したくないと感じるようになっていた。

そして最初こそ「裕紀の彼女を奪って悪かったな…」と遠慮する気持ちがあったが、いまはそんなこと、これっぽっちも思っていない。

― 結局、彼女を呆れさせた裕紀が悪いんだよな。

えりかの想いを聞いているうちに、そう開き直るようになっていたからだ。

そんな涼太が、今いちばん心配していることがある。それは「元カレの二の舞にだけは、絶対になりたくない」ということだ。

裕紀と別れた理由が理由だからこそ、涼太は常にえりかの憧れであり続けなければいけないし、尊敬されていなければならない。

気取らず、でも自然体に。自分が常に上の立場でいられるように。

― あくまで“余裕”の姿勢は崩しちゃダメだよな。

同じ失敗だけはしないと、涼太は心に誓うのだった。





「なあ、えりか。ちょっとハードな案件なんだけど、一度フロントに立ってやってみない?」

それは、ある土曜日のこと。いつものようにシェアオフィスで仕事をしながら、彼女に声をかけた。

「うん、やってみる!」

するとえりかは、内容も聞かずに即答する。

― こういう強気なところが好きなんだよなあ。

「そういえばえりかってさ、俺の仕事だけじゃなくて他の案件も抱えてるよね?」

「そうだね。自分でも新しい案件を獲得できるようになってきたから。…まあ、まだまだ少ないけど順調だよ」

そう話す彼女は、本当に楽しそうだ。

「そっか、うまくいってるみたいでよかったよ。困ったことがあったらなんでも言ってね」

“自分がこれまで蓄えてきたノウハウを使い、彼女に稼いでもらう”という構図は、涼太にとって素直に嬉しいものだった。

しかし。えりかが発した次の言葉で、涼太の中に小さな焦りのタネが生まれたのだ。

「最初は絶対に無理だろうなって思ってた独立も、このままだったらできるかもしれないって、最近は感じるの」

そう嬉々として語る彼女を前に、涼太はなぜだか苦笑いを浮かべることしかできない。ぼんやりとその場に突っ立ったまま、思わず遠くを見つめてしまう。

そんなときだった。

パソコンの画面を見つめていたえりかが「あっ…!」と小さく声をあげたのだ。

何事かと思い、パソコンの前に駆け寄った涼太は、そこで驚くべきものを目にするのだった…。


▶前回:「君と深い関係になることはできない…」美女に恋愛感情を向けられた男が、思い悩んでいたワケ

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えりかと付き合い始め、すべてが順調なはずの涼太も、少しずつ狂い始めていく…?