―2021年。

ステイホームの時間が増えたいま、 東京にいる男女の生活は大きく変わった。

その中でも華やかな生活を送っていたインスタグラマーたちが、こぞって夢中になったのが「#おうち美容」。

外からも内からも自分と向き合い「美ごもり」生活を送った人々には、いったいどんな変化があったのだろうか?

1つのアイテムが、人生を変えることもある。

東京で「#美ごもり」生活を送る人々の姿を、覗いてみよう。

今回は高級クリームで自分を高める女・楓(28)の話。

▶前回:「私って、彼の何なの?」割り切った関係に疲れた女が求めたモノとは



安物のクリームで自分をチープに見せていた女・楓(28)


昨日見てしまった写真と、LINEに残されていた生々しい会話が頭から離れない。

彼氏の携帯を、こっそり触ってしまった私が悪かったのだと思う。

だが3年も交際していた彼氏・隆平の携帯には、私とは別の女との熱いチャットが。さらには温泉地で撮ったと思われる、浴衣姿で仲良く寄り添う自撮り写真までしっかり保存されていたのだ。

「嘘でしょ…。なにこれ」
「楓、何やってんの?」

私が携帯を落としそうになるのと同じタイミングで、隆平がお手洗いから戻ってきた。

「これ、どういうこと?」
「勝手に携帯見んなよ。お前、そういうところ本当最低だな」
「最低はどっちよ?」

そこから激しい口論になり、私が隆平の家を飛び出したのは深夜3時過ぎだった。

今朝から電話をかけても、彼は一向に出ない。LINEも既読になるのに、返信がない。

そして隆平から『ごめん、別れたい』と送られて来たのは、1週間後のことだった。

25歳から3年間も交際していた彼。その終わりは想像以上にあっけなく、そして悲しいものだった。


そこに待ち受けていた、さらなる衝撃。浮気相手はまさかの…!

貴重な20代後半を捧げた男


隆平と出会ったのは、ある食事会だった。社会人3年目の私からすると、当時29歳だった彼は大人でカッコよく見えた。すぐデートに誘われてドキドキしたことを未だに覚えている。

そして初デートでいきなり告白され、交際することになった私たち。

大手ディベロッパー勤務の隆平は遊びも詳しかった。行きたかったレストランなど、週末になると車でいろいろな所へ連れて行ってくれたのだ。

「隆平、すごいね!本当にいろんなこと知っていて、カッコイイなぁ」
「楓は何をしても喜んでくれるから、嬉しいよ」

彼が見せてくれる世界が、好きだった。隆平と一緒にいると、自分まで少し大人になれた気がしていた。

でも、いつの間にかそれが負担になっていたのだろうか。

写真に写っていた彼女は、私より年上だと思う。落ち着いた感じの美人。温泉効果なのか、肌が妙に艶やかだったことが脳裏に焼き付いている。

「何なのアイツ…。私の3年、返してよ」

25歳からの3年間は、大きい。

特に女性にとって、この3年が意味することを、男はわかっているのだろうか。

25歳のときはまだ水を弾いていた肌も、30歳が見えてきた途端に、少しずつ劣化していっている気がする。

以前は酔っ払ったり疲れたりして、化粧を落とさずにうっかり寝てしまっても、なんとかリカバリーできた。でも26歳以降そんなことをしたら、翌日の肌はとんでもないことになる。

誰もいない、1K・35平米の部屋。お風呂あがりに冷蔵庫から缶チューハイを取り出す。

それから狭い洗面台の扉を開けて化粧水をパシャパシャとつけ、適当にクリームを塗る。美容液も乳液も面倒なので、パスすることが多い。

ただクリームを塗りながら、ふと手が止まった。

「あれ?そういえば…」

半年前。隆平の家へ行ったとき、水回りが妙に綺麗になっていたこと。そして、そこに高級化粧品ブランドのサンプルがあったことを思い出した。



今から考えると、それがサインだったのかもしれない。洗面台のゴミ箱の中に、クリームのサンプルが捨ててあったのだ。

「隆平、これ何?」
「え?何?」
「このサンプル。どこかで貰ったの?」
「あぁ、そうそう。知り合いからもらって、使ったんだ」
「そうなんだ。どうだった?」
「いや、サンプルだからわかんないよ」

私が普段使っているのは、ドラッグストアなどで売っているクリームだ。

それで十分だと思っていた。まだ若いし、肌も元気だ。「若いうちから甘やかしてはいけない」とよく聞くので、極力簡素なケアを心がけていた。

でも、そのゴミ箱の中に捨てられていたのは、1個5万はする高級クリームのサンプルだった。

「こんな高いものが使える人が、羨ましいなぁ。まぁ私にはまだ早いけど」
「楓はいつまでたっても、お子様だもんな」
「なにそれ」

そう笑いながら、私は隆平の家の洗面所に置いていた自分用の安いクリームを顔に塗り、安心しきっていた。

だが振り返ってみると、きっとそのときから浮気相手と関係が始まっていたのだろう。

気がついたときには、隆平の気持ちは私ではなく相手の女の方へ向かっていたという事実。

ふと我にかえると、自分の家の洗面台につけてある白々しい蛍光灯が、私の肌を残酷なほどリアルに照らしている。

「そっか…。私、もう28歳なんだ」

どこかでずっと、甘えていた。まだ若いと信じて、人にも自分にも甘々だった。


現実を見た女が見つけた幸せ。女を救った、アイテムとは!?

自分を“高い”女にしてくれる、高級クリーム


2週間後。

「はい、これ」

今日は恵比寿のカフェで、私が隆平の家に置いていった荷物を受け取る約束をしていた。久しぶりに見た彼は落ち込んでいるどころか、むしろ若干肌ツヤが良い気がする。

「あ、ありがとう」
「ごめんなぁ、楓。本当に申し訳ないと思ってる」

白々しい会話を聞き流しながら、3年も付き合っていた元彼を改めて見つめる。本当に好きだった。しかも私はこのまま隆平と結婚すると信じていた。

でも3年間、私は彼に甘えきっていた。

デートは毎回彼の奢り。車での送り迎えも当たり前。デート中、私は携帯を頻繁に触っていたのも否めない。

甘えていた、自分のせいだ。

「あの人、年上?」
「あぁ、うん…。37歳かな」
「え!!!??」

周囲の視線が、一斉に私に突き刺さる。驚きすぎて飲んでいるアイスティーが、喉の変なところに入ってしまった。

「う、嘘でしょ…」

あの肌ツヤは、どこから生じているのだろうか。

女は、若い方がいいと思っていた。年齢にあぐらをかいていた。でも年齢なんて関係ない。肌からちゃんと自分をいたわれる女性は、男性から見ても素敵なんだ。

ハンマーで殴られた気分だった。



「37歳かぁ…」

驚きと釈然としない気持ちを抱えたまま、私は隆平と別れた足で渋谷へ行き、デパートの化粧品売り場へと向かった。

「これください」

あの晩、彼の家で見た1個6万弱はするゲランのクリーム。

相当高価な物だけれど、この気持ちをどうにかするために。そして何より、自分の惨めな気持ちを吹き飛ばすために、私は思いきって購入することにしたのだ。

「ふぅ…」

家へ戻り、お風呂へ入って化粧を落としてから、買ったばかりのクリームを袋から取り出す。美しい箱に、丁寧な包装。開封する前からテンションが上がる。

そして蓋を開け、淡いベージュ色をしたクリームを指先に取り、肌の上に乗せてみた。

「うわ…!!」

ふわっとする。こっくりとした厚みがあるはずなのに、まるで雲に抱かれているかのような、やわらかなつけ心地。

初めての感触だった。

そして不思議なことに、この高級クリームを肌に乗せ、浸透を感じているだけで自分も高い女になれるような気がしてきた。

「…ちゃんと、自分を大切にしないとな」

今までどこかであぐらをかいて、人に頼りっぱなしだった。でも自分をいたわれるのは、自分しかいない。

「明日から、また頑張ろう」

疲れた顔に、すっとクリームの成分がしみこんでいく。

今日は、ゆっくり休もう。そして明日から、また頑張ればいい。

女は、化粧で顔が変わる。でも基礎化粧品でだって、顔つきが変わるのだ。ちゃんと自分と向き合い、高めている女はそれ相当の顔つきになる。

いい基礎化粧品を使うことによって、気分が上がり、顔だって自然と上がる。だから手を抜いてはいけないんだと実感しながら、私はそっと目を閉じた。


▶前回:「私って、彼の何なの?」割り切った関係に疲れた女が求めたモノとは

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ひと皮向けた自分になるために…