平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。

それが東京で生きる女たちの姿だろう。

でも恋人と、“週末”に会えないとわかると

「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

◆これまでのあらすじ
IT会社でアプリをプロデュースする美加(28)は、脚本家の海斗(32)と知り合い、瞬く間に仲が進展する。だが2週連続で土日に会えず、LINEも無視される。

実のところ、海斗は「仕事」や「趣味」に土日を費やしていたが、それを正直に話すこともできないまま…。

▶前回:「信じられない…」週末になると音信不通になる32歳男が、青山でコッソリしていた意外なこと



3rd week 「告白」

―月曜日―


美加が目覚めると、海斗から謝罪のLINEが届いていた。

『今回も本当にすみませんでした。急な仕事が入って…。』

返信に値しないと“秒”で判断し、アプリを閉じる。

特に『…』の部分にイラっとした。

― 急な仕事が入って……………で?それで何?

リモートで会議が始まるまで、まだ3時間ある。二度寝するつもりで寝返りを打つと、すぐにバイブ音がした。

ふたたび海斗からLINEだ。

『会えなかった理由を正直に話したいです。明日の夜、会えますか?』

「今さら遅いし」

美加は、思わず吐き捨てるように言った。とはいえ、返信はあくまで丁寧に。

『明日の夜は、予定があります。ごめんなさい。』

嘘はついてない。明日、火曜の夜には本当に用事があった。

実は一昨日の土曜、暇つぶしの読書をするため足を運んだカフェで、旧知の男性と偶然再会した。その彼と、ゴハンにいく約束をしているのだ。

男の名は、越野智也。

新入社員時代、会社の同期に呼ばれて参加した飲み会で出会った外資系の金融マン。

彼とは、何度か夜を過ごしたことがあるが、付き合うこともなく自然消滅していた。


新たな男の登場に、美加の心は揺れる…!?

―火曜日―


智也との夜ゴハンは、18時にスタートし、19時にはラストオーダーで、ほどなくして店を出た。もちろんノンアルコール。

「健全すぎてつまらないから、1駅分、歩かない?」

智也の申し出を断る理由が見当たらず、美加は「うん」と頷いた。

二人は店を出た後、まだ少し明るい空の下、表参道を歩く。

― ずいぶん日が長くなったのね。

日中、雨が降ったせいか空気がひんやりとしている。

「さっきの、脚本家さんの話だけど…」

食事中、美加は海斗のことを相談していた。デート相手に別の男の話をするのは良くない、と理解しつつも、口を滑らせてしまった。

「土日に会えない男って、大体は結婚しているか、本命カノジョがいるか、どっちかだよ」

「…やっぱ、そうだよね…」

「やめとけよ。そんな男」

俺にしとけ、とでも言わんばかりに、智也がこちらを覗き込んでくる。

正直、ドキリとした。

― 足を止めたらキスされる。

美加は、智也と目を合わせないようにして歩き続けた。

海斗の話はそこで終わり、原宿駅に到着するまで、話題は次から次へと流れるように変わっていった。

智也は話し上手で聞き上手なので、一緒にいて心地良い。男女関係にあった頃は、当然付き合いたいと思っていた。

でも、そうはならなかった。

別れ際、美加の心を見透かすように智也は言う。

「俺たち、どうして、あのとき付き合わなかったんだろうな」

「…ね。なんでだろうね」

智也はふたたび、美加の顔を覗き込む。

「俺のこと、好きだった?」

美加は、目を逸らしながら答える。

「…わからない。覚えてない」

「そっかー。覚えてないよな…」

智也は少し笑う。

山手線に乗る美加は、千代田線に乗る智也と健全にバイバイした。

改札を通って振り返ると、智也はまだこちらを見ていて手を振っていたので、美加は小さく手を振り返し、帰路についた。



―水曜日―


美加が出社すると、沙希も出社していて、ランチに誘われた。

「ねえ、釘宮海斗くんと連絡を取ってるって、本当?」

そもそも美加が海斗と知り合ったきっかけは、沙希と同棲中のカレシが主催したホームパーティーだった。

たしか海斗は、沙希のカレシと同じ大学で、後輩だったはず。

「実は…。いずれお伝えしようと思ってたんですけど」

「デートとかしてる感じ?」

「…はい。というか、デートどころか、お泊まりもしました…」

察しがいい沙希は、あーそういうパターンね、とでも言いたい表情で微笑む。美加は安心し、これまでの経緯を説明し、土日に会えない海斗のことを相談した。

「釘宮くんって、本当に仕事が忙しいみたいだからねえ〜」

沙希は言った。

「私のカレシも釘宮くんとはなかなか会えないって言ってたし、その割にずいぶん美加ちゃんには、時間割いてると思うよ」

「そうなんですか?」

「でも、だからといってね…」

沙希は姿勢を正して、まっすぐに美加を見つめてくる。

「私と仕事とどっちが大事なの?なんて聞いちゃダメよ。ダサいから!」

美加は、沙希のアドバイスを素直に聞いた。


頭では、わかってるのに…。美加が思わず海斗にしてしまった失態とは…?

―木曜日―


仕事で嫌なことがあった。辞令の噂だ。

美加は今、アプリ開発のプロデュース部署にいるが、別部署に異動するかもしれないという話を耳にした。沙希という良き先輩に恵まれ、順調なキャリアだと思っていたから、ショックだった。

嫌なことは重なるもので、お気に入りのショルダーバッグのファスナーが壊れた。家の近くにリペアショップがあるが、すぐに持ち込む気力がない。

― 誰かと会って話したいな…。

美加は、スマホをスクロールしながら、呼び出せる友達を探した。しかし、ふとその手が止まる。

― でも、こんな時期だしな。気軽に飲みに行こうよ、なんて誘いづらいな。

気づけば美加は、海斗にLINEしていた。

『火曜日の件は失礼しました。今度の土曜日なら、会ってお話できますが…どうしますか?』

平日だからか、海斗の返信は早かった。

『すみません。土日は仕事があって…。締切前なんです。』

また会えないのか……。美加は憤りを覚えた。

『「話があるから会いたい」と海斗さんが言ったんですよ?こんなダサいこと言いたくないですけど…私と仕事とどっちが大事なんですか?』

LINEをしたあとで、しまった、と後悔する。

沙希に「するな」と言われたことを、してしまった。

その夜、海斗から返信が来ることはなかった。



―金曜日―


朝起きるとLINEが届いていた。

海斗からの返信かと期待して確認するが違った。智也からだった。

『土日は何してるの?』

正直なところ、美加は土日は空けておきたいと思っている。海斗と会うという、わずかな可能性を捨てたくなかったから。

『土日はちょっと厳しいかも…』

間髪入れずに、智也はLINEをしてくる。

『じゃ、今夜は?』

表参道を歩いたときと一緒だ。断る理由が見当たらない。

― 相変わらず海斗さんからLINEはないし…。

美加はベッドに腰掛けてフーっと息を吐いてから、返信する。

『遅くまでは無理ですけど、いいですよ』



神泉にある老舗の鰻屋で、美加と智也はノンアルコールと特上うな重を平らげる。

20時。

店を出ると、智也は火曜日のように「少し歩こう」と提案してきた。

― 遅くまでは無理って伝えたけど…まあいっか。

またも断る理由が見当たらない。

「あー、ここ懐かしい!」

智也はそう言い、神泉の交差点にほど近い名も無き小さな公園に立ち寄った。

「ちょっと話してかない?」

美加と智也はベンチに並んで座る。何気なく座ったつもりが距離は近かった。

― あっ、言われる…。

美加は直感した。案の定、智也は真剣な表情となる。

「5年前はカラダの関係があっただけで、ちゃんと付き合わなかったこと、今となっては後悔してる」

「…」

「というか、ずっと後悔してた。だから偶然に再会できて嬉しかった。今度こそ、ちゃんとカレシとカノジョとして過ごしたいと思ってる」

「…」

「俺と付き合ってください」

まっすぐな告白だった。この年頃では珍しいほどの。

― たしかに智也くんとは、心地良く過ごせる。智也くんなら、変な心配もせずに付き合っていけるかも…。

美加の心がぐらつく。

― でも、それでも…。

美加には「男は、一度関係を持った女のことを『レンジでチンすればすぐに温まる冷凍食品』だと思っている」という持論があった。

体だけの関係で終わり、5年も音沙汰がなかった智也のことを、すぐに信じるわけにはいかない。

「考えさせて」

自分のことをズルいと思いつつ、美加はそう返事をした。

「わかった。できたら前向きに考えて欲しいな」

弱々しい笑顔で智也は言った。

公園で解散したあと、美加はすぐにタクシーを拾う。

「麻布十番までお願いします」

もはや、ただの“勢い”だが、美加は確かめたくなった。

― 海斗さんも、私のことを冷凍食品だと思ってるの…?

LINEもせず、美加はいきなり海斗の自宅へ向かった。


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突然、家に来た美加に対して、海斗はまさかの対応で…。