恋は焦りすぎると、上手くいかないもの。

だから、じっくり時間をかけて相手を知っていくべきなのだ。

結婚に焦り様々な出会いと別れを繰り返す、丸の内OL・萌。

“カルボナーラ”をきっかけに失恋した女は、恋も料理の腕前も上達していく…?

◆これまでのあらすじ

マッチングアプリで出会った引野に、落胆した萌。しかし落ち込む間もなく、次の出会いがやってきて…?

▶前回:年収や肩書きばかりで男を判断する“世間知らず”の25歳女が受けた、まさかの仕打ち



2019年6月末


「萌、今日は大丈夫そう?20時にこのお店集合だってさ」

そう言って絵美に見せられたのは、銀座にあるオシャレなイタリアンバルのホームページだった。今夜は絵美がセッティングしてくれた食事会があるのだ。

知り合いの後輩に「彼女と最近別れたから、誰か紹介してほしい」という男の人がいて、萌を会わせてみようとなったらしい。

しかも相手は、メガバンク勤務のエリートコースを歩む営業マンとのこと。

「ありがとうございます!でも絵美さんも参加するなんて、彼氏怒ってませんでした…?」

「うん、私から誘ったことだしね。彼も『萌のこと応援する』って送りだしてくれたから、気にしないで」

実は萌、絵美の彼氏に一度だけ会ったことがある。会社の前で待ち合わせしているところに、バッタリ遭遇してしまったのだ。

そのときは少し顔を合わせただけだったが、それだけで“紳士的で素敵な男性”というのがわかった。話し方に余裕や包容力がにじみ出ていたからだ。

彼の隣で微笑む絵美も幸せそうで、とてもお似合いだと思ったことをよく覚えている。きっと絵美自身が気配り上手で素敵な女性だからこそ、それに見合う優しい彼氏がいるのだと思う。

― だから恋愛で苦戦している私は、それ相応のレベルでしかないんだろうなあ。

そう落ち込む萌だったが、この後の食事会でさらに頭を悩ませる出会いがあるとは、思ってもいなかったのだ。


萌が新たに出会ってしまったのは、どんな男だったのだろうか…?

「どうも初めまして、小澤淳也です」

絵美とともに向かったバルには、すでに男性陣が到着していた。そして乾杯して早々に「紹介したい」と言われていた彼が目の前にやって来たのだ。

小澤と名乗る彼は慶應出身で、学生時代は体育会系の部活に所属していたという。そのせいか筋肉質でたくましい体つきをしていた。

同い年とは聞いていたものの、年上のように落ち着いた話し方と物静かな佇まい。こんがりと日焼けした肌に、髪型はツーブロックでなんだか取っつきにくそう。

それが彼の第一印象だった。

しかしお酒が進むにつれて彼の緊張もほどけてきたのか、小澤に対して感じていた近寄りがたい雰囲気は、いつの間にかなくなっていたのだ。

それどころか笑うと目尻が下がり、子どものように顔をクシャっとさせるのが、かわいいとすら思えてくる。

年が同じなだけあってドラマなどの話題も合ったし、食べることが好きという共通点もあり、その後はすっかり2人で盛り上がってしまった。

「僕、都内のグルメを開拓するのが好きで。休みの日はよくひとりで食べ歩いてるんですよ」

「そうなんですね!淳也くんのおすすめ、いろいろ教えてほしいです」

「もちろん。僕も萌さんに紹介したいお店、いっぱいあります」

萌は彼の見た目とのギャップに、なんだか心をくすぐられてしまった。





その夜。帰宅するとさっそく、小澤からLINEが届いていた。

『萌さん、今日はありがとうございました。良かったら今度2人で食事に行きませんか?』

丁寧な文面から伝わってくる、彼の真面目な人柄。

すると同時に、絵美からもメッセージが届いた。

『今日はお疲れさま。小澤くんなかなか好青年だったね!それに萌のこと、すごくかわいいって褒めてたよ。頑張ってね!』

送られてきた内容に、ついつい頬が緩んでしまう。

― 絵美さんのお墨付きをもらったことだし、少なくとも彼は悪い人ではなさそう!

そこからとんとん拍子に、彼とのデートの予定が決まっていった。

『翌週の土曜夜は、萌さんの予定あいてますか?お店の候補考えておきますね』

初デートだし、本当は平日夜にサクッと食事する、くらいに留めておきたかった。だけど彼は仕事が忙しいようで、土日しか都合がつかなかったのだ。

― ちょっと計画からはズレちゃったけど、今回は慎重に関係を進めるぞ…!もう、同じ失敗はしない。

萌は、そんなふうに意気込んでいた。

しかしデートを3日後に控えた、水曜の昼間。いきなり小澤からLINEが送られてきたのだ。萌はなんだか嫌な予感がして、すぐにトークルームを開く。

そしてメッセージを見た瞬間、思わず「うわっ!」と小さな叫び声をあげてしまったのだ。


小澤とのトークルームを開いた萌が、目にしてしまったモノとは

『萌さん!お店のことなんだけど、この中で迷ってて…』

そんなメッセージとともに、小澤から“レストランのURL”がドバッと10個も送られてきたのだ。

― なにこれ!?こんなに送られてきても困るんだけど。

そう思いつつも、一応すべてのURLをタップしてみる。どれも評価の高いレストランばかりで、お店選びのセンスは悪くなかったが、スマートじゃない彼の行動にガッカリしてしまった。

萌は小澤が困らないように『和食やイタリアンが好き』とだけ返事して、彼の出方を待つ。

しかし直後『ごめん!やっぱりここでいい?』と、これまでの候補にあがってもいなかった、まったく別の店のURLが送られてきたのだ。

どうやら彼がずっと行ってみたかったという、高級フレンチのキャンセル待ちが取れたらしい。

和食でもイタリアンでもなく、こちらの都合をすべて無視した提案に、萌はますますモヤっとしてしまったのだった。



小澤とのデートを明日に控えた、金曜日。萌は恋愛のゴタゴタを一旦切り替えて、料理教室に参加していた。

今日は中華料理の日。作るメニューはチャーハンと餃子だ。

チャーハンは、熱した中華鍋に油がなじんだころに卵を入れ、だいたい火が通ったら冷飯と長ネギを投入する。

素早さが大事だと言われていたにもかかわらず、萌は事前準備が足りなかったせいでバタバタしてしまった。

使う食材や道具を近くに置いておいたつもりだが、いざ火を入れ始めるとそちらに意識がいってしまい、手早くサッと炒めることができなかったのだ。



しかし横にいる朝日は重たい中華鍋を軽々と振って、見事なパラパラチャーハンを作っている。その美しい手さばきに、思わず拍手をしてしまったほどだった。

「朝日さんって、中華鍋の扱いがお上手ですね」

「僕、ちょっと凝り性で。中華だけは男の料理って言いたくて、いっぱい練習したんだ」

彼はそう言って、照れたように笑う。微笑んだときにできる目尻のシワが優しそうな雰囲気を醸し出していて、なんだかキュンとしてしまった。

「中華料理を作るときにはいろんな調味料を使うけど、僕はシンプルな味付けのチャーハンが一番美味しいと思うんだよね」

「シンプルか…。料理はそうかもしれませんが、恋愛はシンプルにはいかないですよね。…料理みたいにコツとかわかりやすいテクニックがあればいいのに」

萌は大きくため息をつく。その姿を見て、朝日はハハッと笑い声をあげた。

「確かに人間同士はそんなにシンプルにはいかないと思うけど…。でも萌ちゃんは、もっと自分を見せた方がいいんじゃない?」

「えっ?」

「恋愛はコツとかテクニックよりも、そのままの自分でいられる人とじゃないと、うまくいかないと思うな。萌ちゃんはそのままでも、とっても魅力的な女性だよ」

彼の「魅力的な女性」という言葉に、萌は頬を染める。と同時に、そんなアドバイスに困惑してしまった。

― そのままの自分をさらけ出して受け止めてくれる男性なんて、ひとりもいなかった。だから、そんな勇気出ないのに。

そんなことを思いつつも、今まで自分をさらけ出さない恋愛で失敗してきたことを思い出し、ハッとする。

「…ありがとうございます。朝日さんの言う通りですよね」

萌は力強くうなずきながら、明日の小澤とのデートに思いを馳せるのだった。


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萌は朝日のアドバイスを受け止め、どのようにデートに臨むのか…?