「やめるときも、すこやかなるときも、あなたを愛する」と誓ったはずなのに…。

“やめるとき”は、愛せないのが現実。

思い描いていた結婚生活とは程遠く、二人の間に徐々に生じ始める不協和音。

「こんなはずじゃなかった」と不満が募ったとき、そもそも「この結婚、間違ってた?」とふりかえる。

あなただったら、この結婚生活やめる?それとも…?

▶前回:「上司の誘いを断れなくて…」六本木の高層マンションの一室で、人妻が頼まれた衝撃的なコト



Vol.12 早く結婚しすぎた男(前編)


【今週の夫婦・結婚6年目】
夫:雄太(32)広告代理店勤務
妻:真奈美(30)専業主婦


「それ、お子さんですか?可愛いですね」

週一の定例ミーティング終わり、最近入ってきたばかりの派遣社員の東桃子に話しかけられた。その視線は、僕のスマホのロック画面に向けられている。

「ああ。上の子が5歳で、下は2歳になったばかり。二人とも男の子だから、家の中が騒がしくてしょうがないよ」

PCを畳み、僕は立ち上がりながら答えた。

「雄太さん、まだ若いですよね?代理店の男性ってモテるから、早く結婚しなそうなイメージなのに」

僕のことを下の名前で呼ぶ桃子に、少々驚きながらも「そうだね」と苦笑しながら答えた。

たしかに僕は、同期の中でも早く結婚した方だ。 この業界で働くやつらの結婚が遅くなりがちなのは、激務で会食が多いからという理由もあるだろう。だが、彼らの多くは自分がモテることを認識しているので、20代のうちは女性を一人に絞りたがらないというのもある。

「若松、メシ行こうぜ!」

同期の秋山に声をかけられた。

そのタイミングで「おつかれさまでした」と言って、桃子は去っていった。

黒のノースリーブのニットから伸びた彼女の腕はスラリと細く、マスタード色のスカートが大人っぽく上品だ。彼女から漂っていた夏らしいスッキリとした柑橘系の香りが、かすかに鼻に残っている。

― 妻が最後に香水をつけたのはいつだろう。スカートをはいている姿なんて久しくみてないな。

桃子の後ろ姿をなんとなく目で追いながら、そんなことを思った。


雄太が若くして結婚を決意した理由とは?

遊びを知らない妻


僕が妻の真奈美と結婚したのは、26歳の時。同じ部署で後輩だった彼女は24歳。

真奈美の教育係だった僕は、仕事を一から彼女に教えた。



北海道出身の彼女は、おおらかで犬のように人懐っこく、純粋でちょっと世間知らず。そんなところが可愛かったが、妹みたいにしか思えず、初めは恋愛対象ではなかった。

しかし、一緒に残業したり飲みに行ったりすることが増え、真奈美の中身を知ると、この子を僕が守りたいという感情が芽生え始めた。

家が裕福ではなかった真奈美は、学生時代は親からの仕送りもなく、神楽坂の和食屋で週6アルバイトをしていた。

だから、食事会に行ったこともなければ、週末に六本木のクラブで遊ぶなんてことも未経験。彼氏を作る暇もなかったという。

そんな真面目な女性、社内では珍しい。

女性が頼れる先輩に憧れをもつのは、自然の流れともいえる。真奈美からの好意はわかりやすかった。その好意を受け止め、僕は真奈美と真剣に付き合うことになった。

僕が、結婚を決めたのは、彼女の「生理が来ない」の一言だった。泣きながら動揺する姿を安心させたくて、すぐにプロポーズした。

だけど、真奈美は妊娠していなかった。

仕事のストレスで生理が遅れていただけだったらしい。しかし、もう後に引けない。その気になっている真奈美に、プロポーズはなかったことに、なんて言えなかった。

半年後に入籍し目黒の雅叙園で式を挙げた。

結局、その後すぐに子どもができ、僕は20代で父親になった。





「ただいま〜!」

結婚したその日から、僕は同じ毎日を繰り返している。朝起きて会社に行き、飲み歩いたりもせず家に帰る日々。そして、週末は家族と一緒に過ごす。

真奈美が寂しがるし、子どもも小さいからという理由で飲みの誘いを断っていたら、今では誰からも誘われなくなった。

「おかえり。今日、優斗が幼稚園でケガしちゃって…ごはん、スーパーのお総菜なのごめんね」

真奈美は、ノーメイクにラフな格好で僕を出迎えるとそう言った。

「ケガって?どこを…大丈夫なの?」

「お友達と喧嘩しちゃったみたい。先に手を出したのは向こうなんだけど、一応、さっき相手の子のお家に行って謝ってきた」

「そうか。でも、まぁ男の子だしよくあることだろ。先フロ入るわ」

僕は、真奈美の顔をろくに見ずにバスルームへ向かった。


雄太はInstagramで、社内のある女性のアカウントを発見し…

派遣社員 桃子の裏の顔


風呂上がり、缶ビールを飲んでいると同期の秋山から浮かれたLINEが届く。

『秋山:超絶美人とマッチした!今週末早速会ってくる( ̄^ ̄)ゞ』

― 彼女がいるくせに、マッチングアプリしてんのかよ。

30を過ぎても落ち着く様子がなく、独身を謳歌している秋山に無性にイラついた。僕は、既読スルーし、総菜ばかりの食事に手をつけた。しかし、さらにLINEが届いた。

『秋山:そういえば、新しい派遣の東さんって可愛いよな。彼氏いるのかな?』

『若松:いるらしいよ、やめとけ』

本当に彼氏がいるかどうかは知らないが、僕は、そう返信していた。

そして、何気なく東桃子のLINEのアカウントを見る。勤怠連絡用にチーム内で共有しているものだ。

ふと、そこに貼られたSNSリンクに気づき飛んでみた。

そこには、“オンライン料理教室開催中”とプロフィールに書いてあり、センスのいい料理やエプロン姿の桃子と生徒たちの投稿がたくさんあった。

フォロワーは2万人を超えている。

― すごいな…。ただの派遣社員じゃないってわけか。



好きなことを仕事にし、さらに僕の会社ではExcel、Accessのプロとして頼りにされている桃子。

それに比べて、真奈美は極めて平凡な女性だ。彼女は妻であり母で、その役割をきちんとこなしてくれているのは十分わかっている。

しかし、子育てに専念したい専業主婦になった真奈美は、女性であることを忘れてしまったかのように見える。

出会ってから二人目を妊娠するまでそれなりにあった性生活にしたって、最近はレスと呼んでも良い程度しかない。



派遣社員の東桃子と真奈美は、30歳で同い年だ。

しかし、肌ツヤも女らしさもオシャレさも、すべてにおいて真奈美と桃子は差がある。独身と既婚でこんなにも違うものだろうか。

東京には、綺麗な女子が溢れている。

なのに、既婚者である僕は、他の人と恋愛することはおろか、火遊び程度に遊ぶことも許されない。

それを思うと、結婚するのが早すぎたのでは?と思ってしまうのだ。もっと吟味してからでもよかったのでは...と。

何より、同年代のやつらが自由気ままに独身を謳歌しているのを見ると、悔しくて仕方がない。

― でも、浮気はダメだよなぁ。

問題はそこだった。不倫なんかするやつは、浅はかだし、人として軽蔑してしまう。だから僕ももちろんする気はない。そう心に決めてきた。

食事が終わり、ソファに寝転びながらスマホでパズルゲームしながらそんなことを考えた後、LINEを開いた。

『若松:東さん、料理教室の先生なんだね!』

気づくと、僕は桃子にLINEを送っていた。会社の女性にプライベートな連絡をするのは初めのことだった。

『momo.h:インスタ見てくれたんですか、そうなんです〜』

すぐに彼女から返事が届き、口角が上がる。

しばらくLINEのラリーが続いた。誰と連絡を取り合って、こんなに楽しいと感じたのは久しぶりのことだった。

そして、僕は真奈美がすぐそばにいるにも関わらず、彼女を食事に誘ったのだった。

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【後編】真奈美が夫に思うこと、二人の関係の行方は…?