平日は全力で働き、週末は恋人と甘い時間を過ごす。

それが東京で生きる女たちの姿だろう。

でも恋人と、“週末”に会えないとわかると

「いったい何をしているの?」と疑心暗鬼になる女たち。

これは、土日に会えない男と、そんな男に恋した女のストーリー。

◆これまでのあらすじ

IT会社でアプリをプロデュースする笹本美加(28)は、土日に会えない男=脚本家の釘宮海斗(32)と恋に落ちた。

ようやく想いが通じ合った矢先、海斗が謎の女と密会していたと知り、美加は動揺する。

▶前回:「仕事が多忙で…」と本命女にLINEした男が、南青山で別の女としていたコト



5th weekend 「本当の、密会」

―土曜日―

朝からパソコンを開いているものの、海斗はまったく筆が進まない。その原因はハッキリしている。

― 美加さんに、ウソをついてしまった…。

「大事な締切が目前に迫っている。それまで仕事に励む。だから会うのは来週の土日にしよう…」と美加に伝えた言葉は、すべてウソだった。

もちろん執筆はしなければならない。けれど締切に追われている状況ではない。まだスケジュールに余裕がある。

本来なら今週の土日も会えたはずだ。しかし、海斗は会うことを避けた。秘密を抱えたまま美加と会うことを、心が許さなかったのだ。

― こんな俺でも、最低限のデリカシーは残っていたんだな…。

電源を落としたパソコンが黒画面となり、そこに反射した自分と目が合う。

― 執筆している場合じゃない。“あの人”との関係に決着をつけないと、美加さんと付き合うことはできない。

3日前の水曜日には失敗したが、もう一度チャレンジするしかない。

海斗はスマホを手に取ると“あの人”に電話をかける。

かつて“あの人”に「LINEとかメールだと会話内容が残っちゃうから、私に連絡するときは電話にして」と言われてから、ずっとそれを守っている。

呼び出し音が鳴ると“あの人”はすぐに出た。海斗は心を落ち着かせて、電話越しに語りかける。

「もしもし、沙希さんですか。もう一度お会いして、話したいんです」


美加の先輩女性・沙希と、海斗の関係とは?

舞台女優だったユウと交際し、別れ、親友となってから1年が経った夏。

つまり今から3年前――海斗は相島沙希と男女関係になった。

きっかけは取材だ。

当時、海斗は旧知のプロデューサーとともに「事実婚」をテーマにした連続ドラマを企画していた。

プロデューサーの知り合いに「事実婚カップルが一組いる」とのことで取材することになり、そこに現れたのが沙希だった。

取材は滞りなく行われ、その後もメールで何度かカップルそれぞれから話を聞いた。ただ結局、その企画は放送局の判断でボツとなり、お蔵入りとなってしまう。

お詫びのメールをカップルそれぞれにすると、沙希からだけ返信が来て、会って話すことになった。

待ち合わせに指定された代官山のカフェに行くと、沙希だけが座っていた。カップルで来ると思っていたから海斗は少し戸惑った。

「驚かせてすみません。実は私たち別れたんです」

事実婚を望んでいたのは沙希だけで、実はカレシのほうは「ちゃんとした結婚」を求めていたらしい。

「価値観の差というか、すれ違いが今回の取材で浮き彫りとなって…それで別れることになりました」

取材が原因なのか…と申し訳ない気持ちになり、海斗は頭を下げた。

「いいんです。価値観の差って一生埋まらないから、私たち、いつかはダメになっていたんです。それが早まって、むしろ良かった」



それから沙希は「カレの前では言えなかったけど」と前置きし、自身の恋愛遍歴を語り始めた。

沙希が言い終わると、次は海斗の番だ。

社会の常識で物事を判断せず、自分だけのルールや考えを明確に表現する沙希と話すことが心地良く、海斗は自らの未熟な恋愛を正直に告げた。

「言葉や文章を生業にしているくせに、俺は女性と深い関係になっても、なかなか正式に付き合うことができなくて…」

「深い関係って、肉体関係ってこと?」

しっかりとした口調で沙希が言うので、海斗は少し面食らう。

「そ、そうです」

「えっ、いいじゃん。全然いいじゃん。私、そういうの理想なんだけど」

2つ年下の沙希だが、すっかり海斗に対してタメグチになっている。一方の海斗は丁寧語が抜けないままだ。

「試しに“深い関係”になってみよう、って思った女性って今までいる?」

「試しに?」

「そう、試しに」

「えーっと…」と少し迷ってから海斗は答えた。

「正直、います」

「じゃ、私とも試しませんか?」

突然、沙希が丁寧語に戻り、海斗はふたたび面食らった。それ以上に、その言葉の内容に驚かされた。

― 今、好きな人がいるわけでもないし、カノジョがいるわけでもないし、その他に男女関係になっている女性がいるわけでもないし…。

自分の心に言い訳をしながら会話を続けていると、気づけば海斗は酒を飲んでいて、目の前の沙希はすっかり酔って顔を赤らめていた。

その後は自然な形で、沙希は海斗の家に行き、二人は深い仲となった。

以来、2年半、海斗は沙希と付き合うこともなく“そういう関係”だけを続けていた。

が、その関係に変化が起きたのは半年前だ。

「実は、言ってなかったけど…」

ベッドの上、裸のまま沙希が突然に言った。

「新しいカレシができて、そのうち一緒に暮らすことになると思う。だから、釘宮くんとの“関係”は終わりにしたい」


沙希と関係は終わったかに見えたが…

海斗に未練はなかった。

いつか終わりがくる関係だとわかっていたし、正式なカレシ・カノジョとして付き合うつもりもない。

「ていうか、むしろ、もう俺に飽きたんでしょ?」

出会ってから2年と半年、海斗はそれぐらいの軽口は叩けるようになっていた。

「うん。飽きた」

出会ってから2年と半年、沙希はいつだって本音を言う。

ドラスティックに関係の変化を望んだ沙希は、驚くべきことに「新しいカレシ」を海斗に紹介した。

それだけでなく、同棲を始めたばかりの新居マンションでホームパーティーを開き、そこに海斗を招待した。

「私の会社の後輩もこれから来るんだけど、すごく可愛くて、絶対、釘宮くんのタイプだと思うから狙い目だよ。今カレシもいないし」

海斗は適当に受け流したが、内心では唖然としていた。

― 自分が飽きた男を、後輩にあてがう気なのかよ…?

だから正直なところ、沙希の後輩として現れた美加に興味を示すつもりはなかった。

美加に恋することは“禁止”だと、海斗は自らを戒めた。

しかし、人は禁じられると、その禁をどうしても破りたくなるもの。

海斗はあっさり、そして、すっかり美加に恋をした。

沙希と2年以上も“そういう関係”だったことに罪悪感はある。だが、その関係は綺麗に清算したし、そもそも好き同士だったわけではない。

― 言わないままでもいいよな。

軽い気持ちで、そう考えていた。

親友となって以来、何でも話せる間柄だったユウにアドバイスを求めたこともある。彼女は悩みに悩んでこう言った。

「沙希さんって人との関係は、墓場まで持っていくこと」

先進的な考えを持つ沙希が、海斗との関係を美加に密告するような“古臭い言動”は取らないだろう――と、ユウは考えた。

海斗も同じ考えだった。だから美加には秘密にした。

が、その考えは甘かった。

今週の水曜夜、海斗は突然に沙希に呼び出され、こう言われる。

「たしかに美加ちゃんに譲ろうと思って彼女を紹介したけど、いざ二人が付き合うってなると、私、嫉妬心が芽生えてきたみたい」

沙希に悪びれる様子はない。

「美加ちゃんのことは諦めて、私と元通りの関係に戻ってくれない?」

それはできない、と必死に海斗は伝えたが、沙希は聞く耳を持たなかった。



―日曜日―


午前中、麻布十番のカフェで海斗は沙希と会った。

水曜の夜に平行線を辿った話し合いを続ける。

「美加さんと付き合いたいと思っているから、悪いけど、沙希さんとはもう会うつもりはないよ」

海斗の主張に対する、沙希の返事は明確だ。

「だったら美加ちゃんに、私たちの2年半をバラすよ?」

バラされても構わない――と海斗は言いたい。が、言えない。沙希との関係を知ったとき美加がどういう反応をするか、海斗はイメージできないから。

それですべてが終わってしまう可能性がある。

― ならば俺の口から、美加さんに告げるしかない。

二度目の話し合いも平行線で、海斗は決意した。

― いつ美加さんに話そう。できるだけ早いほうがいい。

海斗は脳内で計画を立て始める。

が、その決意も計画も、すぐに水の泡と化してしまう。

沙希が唐突に切り出した。

「実は今日ここに、美加ちゃんを呼んでるの」

「えっ…」

「美加ちゃんは、私と釘宮くんが二人でいると思ってないから、来てみたらわたしたちを見てビックリすると思うよ」

そう言い、沙希はクスクスと笑った。

海斗は慌ててスマホを出し、美加にLINEを試みた。

けれど遅かった。

「あ、沙希さん。お待たせしました」

聞き慣れた声がした。海斗はその瞬間、身震いし、おそるおそる背後を振り返る。すでに美加が来店していた。

海斗と目が合った美加はみるみる表情が変わっていく。

「…え、なんで、海斗さんが、ここに…?」


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海斗の過去を知った美加は、自暴自棄となって…。