「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

2019年の夏。誠は久々にできた恋人・咲良の存在に浮かれていた。中学時代の親友・圭一とその婚約者の真紀に、恋人を紹介したところ、真紀の態度が豹変。彼女から「あの子はやめた方がいい」と、理由もわからず忠告されてしまう…

▶前回:ハイスぺ地味男の新恋人に、態度が豹変した女がささやく“禁断の一言”とは…?



「このシャンパン、美味しいですね♪おかわり頂けますか」

誠がテラスに戻ると、咲良は楽しそうに圭一と話していた。初対面同士で気まずいだろうからと慌てて戻ったのだが、その必要はなかったようだ。

「どうぞどうぞ。なんなら、クリコも開けちゃう?」

「え、やったぁー!」

テラスランチ日和の爽やかないい天気。お酒が進んでしまうのも仕方がない。

しかし、誠は重い気持ちを引きずっていた。

―『あのコは、やめた方がいいと思う』

そっと囁かれた真紀の言葉が、頭の中でぐるぐる回っている。

咄嗟に言い返そうとしたが、できなかった。じっと自分を見つめる、彼女の吸い込まれそうな美しい瞳…。それは、誠の言葉の全てを抑えこんだ。

― 咲良と楽しそうに話す圭一が嫌だった、とか。

確かに彼の真紀に対する気遣いは足りないように見えた。しかし、すでに夫婦のような信頼関係のある2人にこんな心配をすること自体、野暮な気もする。

― まさか、真紀さんって実は僕のことが…?


真紀の行動について考える誠。その時、スマホに一件の通知が…

「そんなわけないよな…」

誠はふっと思い浮かんだ自分本位の妄想に、ツッコミを入れるようにつぶやく。その挙動不審さは、圭一と咲良の盛り上がっていた会話を止めるほどだった。

「あ、ごめん。何でもない」

慌てて取り繕うも、ほろ酔いのふたりは素直に受け入れる。ホッとするが、気持ちは変わらず重いままだ。

その後、真紀は席に戻って来たものの、すぐ「仕事に呼ばれたの」と、帰ってしまう。

急な演奏依頼と言ってはいたが、やけに言い訳じみていると誠は疑念を抱いたのだった。



数時間後。圭一と咲良の2人は、相当飲みすぎてしまったようだ。

酔っぱらってリビングのソファーで眠りに落ちる圭一。咲良もどこかうつらうつらとしている。

やれやれと思った誠は、咲良に帰りを促そうと立ち上がる。すると突然、スマホに一件の通知が届いた。

『もう、終わった?』

真紀からのLINEだ。『いま帰る』とだけ返信すると、すぐ返事がきた。

『今度、2人きりで会えないかな。誠くんと』

『あ、圭一には内緒で』

誠はメッセージの内容が見えないように、スマホの画面を咄嗟に伏せる。そして、そのままポケットに忍ばせた。

今まで真紀から個別に連絡が来ることなど、圭一が絡む事務連絡しかなかった。しかも、2人で会うなんて初めてなのだ。

咲良を見てから急変した、真紀の態度。

咲良に何か問題でもあるのだろうか。それとも、真紀は彼女の“何か”を見抜いている…?

「ただいま」

その時、圭一の8つ歳下の妹・沙耶佳が、博物館学芸員の仕事を終え帰宅してきた。

「ごめんね。お兄さん、こんな感じなんだ」

「すみません!すぐ兄の部屋まで、連れて行きます」

沙耶佳は圭一をよろめきながら担ぎだす。誠も肩を貸し、部屋まで運ぶことになった。

「…仕方ないですよね。今日は兄もすごく楽しみにしていたので」

そう苦笑いをする沙耶佳。聞けば、圭一は誠から「恋人ができた」と報告された日に、帰るなり家族中に報告していたのだという。

誠の幸せを自分のことのように喜ぶ親友に対して、胸が熱くなった。だが、その一方で理不尽な忠告で横槍を入れる、親友の恋人…。

やはり、どうも理解できない。

「沙耶佳ちゃん。最近、真紀さんに会った?」

誠は何かヒントを探ろうと、沙耶佳に尋ねた。

「はい。昨晩は真紀さんも一緒に家族で食事しましたよ」

昨晩の彼女の様子を伺うが「別にいつも通りでした」と、あっけらかんとした回答のみ。結局、何もわからなかった。

誠は頭を抱えつつ、眠る咲良を家に送るためタクシーへ運ぶ。そして、彼女に背を向け真紀に『わかった』と返信した。

― とりあえず、会ってみようか。


真紀との密会でよみがえる、誠の過去の“想い”とは?

真紀の真意


数日後。誠は会社帰りに、虎ノ門にあるバーで真紀と会うこととなった。

彼女が指定した店は、地上52階からの夜景が圧巻のホテルバー。窓際のソファー席で、真紀は1人グラスを傾けていた。

「何なの。急に」

真紀を警戒する誠は、距離を適度に取りつつ彼女の隣に座った。しかし、真紀はそんなことなどお構いなしの様子で、誠に接近してくる。

「誠くん、何か食べる?私は、つまむ程度かな」

「いや…。そこまで長居する気はないから…」

「なーんだ。つまんない」

真紀は口をへの字にしながら、メニューを閉じた。誠は店員を呼び、ジンジャーエールを注文して、早速本題に入る。

「今日はどうして呼び出したの?」

単刀直入な言葉に、真紀は呆れた顔でフフっと笑った。

「会いたかったの。この前、ゆっくり話せなかったから」



「だけど、2人きりじゃなくても…」

「ダメ?」

胸元があいたワンピースの真紀は、誠にぐいと身を寄せる。目のやり場に困った誠は、視線を彼女の手首を飾るエルメスのバングルに合わせた。

「いつもは圭一と一緒だろう」

「彼には、このこと知られたくないし…」

真紀は髪をかきあげてつぶやく。白く細い手首に存在感を醸し出すゴールドの金具が揺れた。

「このこと…?」

「私が、誠くんの彼女を好きじゃないってこと」

誠は思わず顔を上げ、真紀を睨んだ。

「1回しか会ってないのに、なんでそんなこと言えるんだよ」

「私にはわかるの。どうしてもあの人はムリ。雰囲気も話し方も、生理的に受け付けなくて」

咲良のことであるが、自分を否定されているような気がした。

― まさか、それだけのことで?

“親友の彼女”を超えて“親友”だと思っていたのに…。誠の頭にじわじわと血が上っていく。

「圭一は祝福してくれているのに…。どうして?」

「ごめんなさい。ぶっちゃけて言うと、誠くんは無理に彼女作らなくてもいいと思うのよ。また3人で楽しく遊びたいし…。大切な人だから」

怒りで震える僕の拳を、彼女の手がなだめるように包んだ。

― 大切な、人…?

きめ細やくなめらかな感触の彼女の手…その冷たさは、わき上がる感情を自然と冷静にさせる。しかし、ふと気が付くと真紀の身体が密着し、寄り添うような体勢となっていた。

誠は冷静さを取り戻そうと、手元のジンジャーエールを一気に飲む。そして、むせた。

「大丈夫?」

背中をさする優しい声。顔を覗き込む上目遣いに、誠の心が動いてしまうのは仕方ない。

実を言うと、誠はかつて真紀に好意を抱いていた時期があった。

…と言っても、圭一と真紀の交際が始まるまでの短い期間だが。2人が付き合うきっかけとなった食事会に、誠も参加していたのだ。

浮世離れした優美さがありながらも気さくで、海外帰りのお嬢様。近くにいれば誰もが一度は憧れる麗しい女性だ。

しかし、多くの男はすぐ高嶺の花だと諦めてしまう…。誠もそのうちの1人だった。

「ごめん。帰るよ」

幻滅と同時に、必死で気持ちを抑えている自分がいる。誠は静かに立ち上がり、真紀に背を向けてそのまま店を出て行った。

― 3人で遊びたい、って…。一生そういうわけにもいかないだろう。

自分には自分の人生がある。人格を無視されているようで悔しかった。しかし、その一言で、真紀の本心が見えたような気がしたのも事実だ。

― 2対1でずっとちやほやされ続けていたい、ってことかな…。

彼女は一人っ子で、同性の友人も少ない。美しく才能もある女性ゆえ、周りから特別扱いされることが当然の環境だったはず。

要するに、自分の取り巻きを誰かに取られたくないのだろう。だからきっと、焦っているのだ。

“小悪魔”という言葉が、誠の頭に浮かぶ。

自分は騙されないと心を戒めながら、そんな小悪魔に一生を捧げようとしている圭一のことが心配になる誠であった。


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小悪魔・真紀に翻弄される誠。そんな彼を見て咲良は…?