結婚・出産・転職。

20代には人生を大きく変えるイベントがぎゅっと詰まっている。

そんな大きな決断をまえにすると、多くの人は悩む。

世間一般で言われる“幸せ”と、「わたしはわたし」と考える“セルフ・ラブ”はズレるから―。

これはさまざまな葛藤を抱えながら、自分だけの正解を見つけようともがく、20代女子の内面を描いた物語。

まず紹介したのは、外資コンサル企業勤務 27歳・進藤ミアのニューノーマルな真剣交際。

そして今回お届けするのはこじらせ女子、26歳マイのストーリー。

▶前回:「男は日替わりカクテル」の27歳女子が見つけた、ニューノーマルな真剣交際とは?



File2 川口マイ(26) 大手金融勤務の場合


小さい頃から、大人になったら周りに自慢したくなるくらい大好きな彼と結婚して、温かい家庭を築くものだと思っていた。

けれど、今は違う。そんな相手と結婚できる人なんてどれくらいいるのだろうか。

結局、いろいろなところでよく耳にするけど「結婚は妥協」なのかな。



「ザ・結婚に向いてる男性って感じの旦那だね」

共通の友人の結婚式に一緒に参加したカナが、嫌味っぽく耳打ちしてきた。

「わかる、きっとこの会場にいる誰もが思ったよね。良い意味か悪い意味かは置いといて」

披露宴に登場した2人に、口角をキュッとあげて拍手を送る。

特にかっこいいわけでも背が高いわけでもなく、社交的で一緒にいたら楽しそうな旦那さんだ。

今日は大学の2年間、同じ語学のクラスだった女友達の結婚式。彼女は、クラスでは1番かわいいと言われていたし、ノリもよく、彼氏はいつもイケメンだった。

「大学卒業してもモテただろうにね。なんで彼なんだろう」

カナが相変わらず笑顔を保ったまま、小さく首をかしげ、また耳打ちしてきたので、私も新郎新婦から視線を外さずに答える。

「うちらもそろそろ目を覚まさなきゃいけないのかな。かなり妥協して探していると思うんだけどな…」

「いや、確実にマイの妥協は妥協ではないよ」

「そうかな?超絶イケメン!とまではいかなくていいから普通に顔立ちが整ってて、お金持ちとは言わないから自分より収入があって、一緒にいたら楽しくて、私のわがままを聞いてくれる優しい人。すべてにおいてハイレベルを求めてないと思うんだけど。あ、あと身長は譲れないわ」

カナは何も言わず、代わりに呆れた様子でため息をついている。

早く結婚して家庭を持ちたいと思っていた私は、もうすぐ27歳になるのに彼氏がいない状況に焦っている。

彼女とは大学卒業以来疎遠になっていたが、今すぐにでもどうしてその旦那さんを選んだのかを聞きたかった。

人気者だった彼女が言うことなら、結婚はそういうものだと受け入れられる気がする。

私は、2次会でそのチャンスが来ることを祈った。


男にモテる女が、見た目イマイチな旦那を選んだ理由

「2人とも来てくれてありがとう!」

「結婚、本当におめでとう!全然会えないまま結婚報告LINEがきて、びっくりしたよ!」

「スピード婚だったから、全然みんなに言えないまま気づいたら結婚しちゃってた」

これまでで1番綺麗で嬉しそうな笑顔に、こっちまで嬉しい気持ちになった。

きっと心の底から幸せに思っているんだろうな。イメージしているような妥協婚には見えないもの。

「旦那さんとの出会いとか、馴れ初めとか、教えてよ!」

カナは待ってましたと言わんばかりに、質問を投げる。

「旦那はね、会社の上司で、私のメンターだったんだよね。旦那の前の彼氏とうまくいかなくなったり、家族が病気になったりして精神的にきつかった時に、いつも一緒にいてくれて。いつも私を笑わせてくれる人だなって気づいて、大切な人になったって感じかな」

「素敵だね。付き合った時から結婚意識してた?」

カナは自分が気になっていることを、ガンガン聞いている。

「うん、してたかな。私結婚願望あったし、この人が旦那さんだったら、辛いことも一緒に乗り越えられるだろうなっていう確信があって」

出産とか病気とか、結婚したら今では考えられないような悩みを抱えたり、壁にぶち当たったりするんだろう。

そんな時、一緒に乗り越えられるかが大事なのかもしれない。

「2人ともっと話したいんだけど、そろそろ行かなきゃ。またみんなで会おうね!今日は本当にありがとう!」

「うん、本当におめでとう。末永くお幸せにね」

私は私よりもずっと先を行く友達に、精一杯の祝福を送った。



「辛いことも一緒に乗り越えられる相手、って言ってたね。それを踏まえてどうですか、マイさん」

帰りの電車で、カナがニヤニヤしながらこちらを見ている。

「やっぱ既婚者の言葉は胸に刺さるわ。そういう観点で探してみようかな…」



新しい男性に会うことに疲れてしばらくお休みしていたアプリを、久しぶりに起動する。

「ケン、29歳。同じ金融系。子供好き、趣味はカフェ巡り、性格は明るくポジティブと言われます… こういう人?」

「うん、結婚向きの男性って感じやな」

カナのテンションは上がらないようだったが、この妥協は合格のようだ。

「右スワイプっと…。うわ、速攻マッチしたわ。…初めまして、とても魅力的な女性でお話してみたかったのでマッチして嬉しいです!休日は何されてるんですか?だって。はあ…」

思わずため息がもれる。

「休日何してますか?」「趣味は何ですか?」「仕事忙しいですか?」「どんな人がタイプですか?」アプリあるあるのこの手の会話を、もう何十回とやってきた。

合わなければ話を広げられず、なんかつまんないなと思って会話が終わってしまうのがオチだ。

「ケンさん、私が言ったこと全てに触れながら返信くれるし、話を続けようと努力してくれてるのはすごく伝わってくるんだけど…。なんかなあ」

「会ってもない人と盛り上がる方が稀なんだから、修行だと思って続けてみなさい。ここで培ったトーク力は、今後の婚活に絶対活きてくるって!」

無理矢理のようにも聞こえる、カナからの励まし。ひとまず飲み込むことにした。


憧れの結婚のために、マイは妥協できるのか!?

「次いつ空いてるかな?できれば1日かけてデートしたいな」

携帯の画面をチラッと見る。「Ken」と表示されていた。

「今電話できない?」

ケンからのLINEは未読のまま、カナにLINEを送る。

すぐにカナから電話がかかってきた。

「なになに、どうしたの。もしかしてケンのこと?」

「そう、そのケンのことです。ケンを選べば、絶対に傷ついたり不幸になったりしないんだろうなとはすごく思うのね。思うんだけど、どうしても男性として見れないというか…。男性的な魅力を感じないんだよね」

「なるほどねえ…。あっちは気に入ってくれてる感じなの?」

「うん、次のデートに行ったら、告白されるかもって思ってる。この間飲んだ帰りに、手をつなぎたいって言われてあまり気が乗らなくて、男性としては見れてないんだな、って実感したんだよね」

「なるほどね。いくら妥協するって言っても、相手の気持ちと差があるとお互い苦しむから難しいね」

「妥協してでも結婚したいって思うのに、どうしてもこれでいいのかって思っちゃう。もー!私、面倒くさっ!」

自分で自分が嫌になる。

「まあ、もう気持ちが決まってるなら、思わせぶりな態度も失礼だしきちんと思ってることを伝えた方が良いかもね。マイは可愛いし人間として尊敬できる人だから、まだそこまで妥協しなくてもいいんじゃない?」

こういうときに、親友の存在が大きい。矛盾ばかりで同じところをぐるぐるしている私。その気持ちを理解してくれる親友には、ひたすら感謝だ。

私はひとつ息を吐くと、ケンを傷つける前にお断りしなくてはと、苦い気持ちで決意した。





その1ヶ月後。ケンとお別れした私は、再び婚活市場に出陣していた。

「今回の人はかなり私好みだった。というかもはや理想。身長差もいい感じだし」

予想外にルックスがかなり好みのマサキとマッチし、今は彼が第一候補だ。

妥協するとは言っても、しなくて済むならそれに越したことはない。独身のイケメンを見つけたら、そりゃ飛びついてしまう。

「でもさ、なんていうか天秤にかけられてる感がすごいんだよね。昨日もドタキャンされて。電話で必死に謝られたから許したものの、私のことすごい気に入ってたらこんなことしないよね、普通」

「うーん、まあ独身イケメンは争奪戦だろうね。彼にとったら選び放題だし」

「だよね。あんなにイケメンが良いって思ってたけど…私をよく見てくれないならキツイのかもなあ」

ピロン。携帯が鳴った。

「あ、ダイキだ。今夜ドライブでもどう?だって。行こうかな。なんか、本命で傷ついてるときにちょうどいい存在って感じなんだ。気楽に話せるし、笑わせてくれるし」

ダイキは、初めて会った時からストレートに好意を寄せてくれている、タメの営業マンだ。はっきり言って見た目は可もなく不可もなく。一重が涼し気と言えないことはない。営業マンらしく清潔感はある。

「まあ、見た目は普通〜だけども、行っておいで。男と女は何があるかわからないもんね」

ダイキの写真を見たカナにそう言われて、その時はないない、と笑った。

しかしさすが親友。カナの言葉は、その後の展開を暗示していた。

1ヶ月後、私はカナにまたしても、予想外の報告することになる。

「カナ、私ダイキと付き合おうかと」

「え!?どうしたのその心境の変化は」

お天気のいい土曜日のブランチ。いつも通り、お気に入りのフレンチレストランのテラス席で、私は照れて早口になる。

「いや、全然なしだったんだけどさ。いつの間にか5、6回会ってて。最近、一緒にいる時間けっこう楽しいかもって思い始めたんだよね。意外な一面が多すぎて、魅力に感じるっていうか…」

「恋愛するぞって意気込んで誰かを見るより、フラットにみてたら突然恋愛感情芽生えるってあるよね。いいじゃない、まさかのマイの成長に驚きだけど」

カナはニヤニヤしながらこっちを見ている。

「噂をすれば、今週末海辺のほう行かない?だって。行きたい!っと」

ダイキの誘いに即答した後で、ケンとの1日デートはずっと渋っていたことを思い出した。

「…即答してんじゃん、私」

自分でも意外で、なんだか嬉しくて、久しぶりの胸が高まる感覚に口元が緩んだ。私の魅力に初めから気づいて、どうしても私がいいと何度も伝えてくる男性がいるなんて、幸せすぎる。

「さっ、お腹も満たされたし買い物いこ!海に合う服買いたい!」

「もう、単純なんだから」

だんだんわかってきた。傷つくだけの恋なんて、いらない。自分を大切にしてこその恋愛なのだ。妥協という感覚とはあきらかに違う気持ちを、私は存分に味わった。



「マイも結局あっち側にいったか…」

マイとの買い物を終えたカナは、ひとりつぶやいた。あんなにイケメン好きだったマイだが、やせ我慢をしているようには見えない。自分が妥協と思わない限り、それは妥協なんかじゃないのだ。

でも。頭ではわかっているけれど。

「あーんな可もなく不可もない男、私は絶対やなんだよなあ」

カナの嘆きは、いくあてもないまま、ぽっかりと宙に浮かんだ。


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