「愛ではなく、金目当てで結婚するのは女性だけだ」という考えは、もうひと昔前のものなのかもしれない。

男にだって“玉の輿願望”があると、私たちはなぜ気づかなかったのだろう。

これは逆・玉の輿で成り上がりたいと願い、夫婦になった男と女の物語。

あなたの周りにも、逆玉狙いの男がいるのかも…?そこのお嬢さんも、どうぞお気をつけて。

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モテたい一心で慶應に入学した、広告代理店勤務の塁(31)


― 俺の目の前にいる子だけ、なんか地味だな。

5年前の2016年。ある食事会で出会った紗英の第一印象だ。

大手航空会社に渋谷のIT企業、秘書や商社の一般職…。当時は、様々な女子との出会いを楽しんでいた。

そして、少しばかり飽きが出てきた頃。鉄鋼商社との食事会で、紗英と知り合ったのだ。

社会人4年目の25歳というと、結婚や同棲という話もチラホラ聞こえてくる時期。

「おまえも、そろそろ落ち着いたら?」

慶應中等部からの仲間には、会う度にそう言われる。商社のヤツは海外赴任前に彼女と入籍したり、外銀に入ったヤツは大学の同期と早めに身を固めたりしていた。

一方で、俺はどうしてもそれを聞き入れられずにいたのだ。

「落ち着きたい子に出会えないんだよなあ…」

モテたくて慶應に入ったし、代理店にも入社したのに。自分の理想とする女子から“モテた”ことがないのだ。


「モテたい!」と悩む塁が出会ったのは…

食事会では最初、紗英以外の女子を気にしていた。…実は女性陣の中で、俺のことをチラチラ見てくる子がいたのだ。

パッと見ただけで“お嬢様”だとわかるその子は、ツヤのある暗めの髪を丁寧に巻いており、ヴァンクリのアルハンブラがよく似合っていた。

― 可愛い子だなあ。

しかし彼女が俺のことを見ていたのは、気のせいだったらしい。なぜなら食事会の終盤で、親友の健二と親密そうに話していたから。

仕方なく俺は、紗英に話しかけようとした。すると彼女は別の男女の会話に混ざり、上品に頷いていたのだ。

その仕草に不思議と、好感を持ったのを今でも覚えている。よく見ると紗英の肌は透明感に溢れ、スッとした鼻筋も綺麗。どことなく品がある雰囲気だった。

思わず俺はジッと紗英を見つめたが、彼女はそれに気づいていない。そのときふと、テーブルに目を向けた。

すると紗英の皿だけ食べ残しもなく、綺麗に整えられていたのだ。

― もしかして、この子…。育ちがいいのかもしれない。

「彼女は、アリかも」そう思った俺は、食事会後すぐに紗英へメッセージを送った。

『今日はありがとう。上品な紗英ちゃんが素敵だなって思ってました。今度、2人でご飯でもどう?』



「ん〜。大したことないんだけど、地主なの」

そして食事会の翌週、2人でランチに行った。「大したことない」と言いつつ、彼女の実家は23区内や埼玉に、計7,000坪ほどの土地を所有しているらしい。

紗英がお手洗いに立っている最中に調べてみると、その規模に脱帽した。

― 嘘だろ、東京ドーム半分の建坪って…。

彼女の家は、かなりの資産家だったのだ。それに家族仲も良いらしく、特に兄のことを慕っているようだった。



紗英の育ちがいいと知ってからは、それはそれはわかりやすいくらいに猛アタックした。

「ねえ、俺たち付き合おうよ」

「う〜ん。…ありがとう。でも、もうちょっと考えてもいいかな」

自分の中では「イケる」と思い、モダンフレンチの店で告白したのに。ちっとも手応えがない反応で戸惑った。

職業や学歴だけで近づいてくる女たちとは違う、お嬢様の手強さを感じたのだ。

その後、無事付き合えることになったが、紗英は清澄白河にある俺の部屋に泊まっても、荷物を置いて帰ることなどなかった。

一緒にいると楽しいのに、どこか距離がある紗英。

手に入ったのに、手に入っていないかのような感覚に、俺はいつまでも焦っていた。


焦った塁が、次に取った行動とは…

付き合って半年後。俺は焦りのあまり「早いけど…」とダメ元でプロポーズした。すると紗英から、すんなりとOKをもらったのだ。

これには驚いたが、そのせいで俺は盛大な勘違いをしてしまった。

― なーんだ。紗英はちゃんと、俺のこと好きだったんだ。

そうして紗英と結婚してから約5年が経つが、まだ2人の間に子どもはいない。

彼女の実家の資産があるから、金銭面ではそれなりに満たされた生活ではあるけれど。最近の俺は虚しさから、他の女性でストレスを発散するようになっている。



紗英「私が好きなのは、たった1人だから」


「まじ女って楽勝だわ、紗英も気をつけてな」

私が食事会を毛嫌いしてしまう理由は、兄からよくこの言葉をかけられていたからだ。

5つ上の兄は当時、頻繁に食事会へ参加していた。そして帰ってくるたびに、その裏話をまだ高校生だった私にしてきたのだ。

塁と出会った食事会も、同期のあかりから誘われて本当に渋々参加した。そのせいで、塁に対する第一印象は決していいものではなかったことを覚えている。

― あ、私には興味ゼロだろうな。

最初からあかりの方ばかりをチラチラ見ていて、こちらには見向きもしなかったから。

だから食事会後、個別に連絡が来て驚いた。そこから夫婦になるまでトントン拍子で進んだのは、あるキッカケがあったのだ。



「紗英ちゃんも、早くいい人と出会えるといいわね」

学生結婚をした母は、いつも口癖のようにそう言っていたが、私の内心には気がついていないようだった。

…実は、私はずっと兄のことが好きなのだ。

仲の良い家族だから、家族愛ではないかと考えたこともあるが、間違いなく恋だった。大学までは女子校に通っていたせいで、男子=兄だったということも大きな理由の1つかもしれない。

兄は身長が180cm以上あり、テレビ局に勤務している。大学時代はラグビー部に所属し、周りの女の子からも大人気だった。

ハイスペックでとにかくモテる、まさに完璧な男なのだ。そんな兄が理想的すぎて、いつも恋人と兄を比較しては別れを繰り返した。

…だから、ある日突然。兄が「結婚しようと思うんだ」と告げてきたときの絶望感は、今でも忘れられない。

その日から、すべてがどうでもよくなった。実家の資産に目がくらんだ塁からのプロポーズも、あっさり受け入れた。

今でも一番好きなのは兄で「誰と結婚しても、どうせ一緒」という想いは変わらない。

だから子どもがいなくてもなんとも思わないし、塁が遊んでいようと私には関係のないことなのだ。

「私が夫のことをちゃんと愛してる」と信じて疑わない塁は、きっと一生、このことに気づかないだろうけど。


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「人としては好きだけど…」ある夫婦の、普通とはかけ離れた日常