「愛ではなく、金目当てで結婚するのは女性だけだ」という考えは、もうひと昔前のものなのかもしれない。

男にだって“玉の輿願望”があると、私たちはなぜ気づかなかったのだろう。

これは逆・玉の輿で成り上がりたいと願い、夫婦になった男と女の物語。

あなたの周りにも、逆玉狙いの男がいるのかも…?そこのお嬢さんも、どうぞお気をつけて。

▶前回:7,000坪を所有する地主の娘。資産目当ての男と結婚を決め、夫が不貞を働いても気にしないワケ



弁護士であり、代議士の公設第一秘書でもある了(35)


「ただいま」

「パパ、おかえり〜!」

仕事を終え、自宅マンションに到着したのは20時少し前のこと。帰宅した僕の姿を見た娘は、嬉しそうに足元へじゃれついてくる。

もうすぐ4歳になる史華が起きている時間に帰宅することは、ごく稀なのだ。

史華の横で、妻の香奈も「良かったわね〜」と微笑んでいる。そんな家族の姿は他人から見れば、なんていい光景なんだと思われるに違いない。

自宅は四番町にある、15階建てマンションの最上階。かわいい妻と子ども。弁護士で、次の選挙では出馬確定であろう自分。

「人生大成功ね、悩みなんてないでしょ」と言われることもあるが、それは裏側を見なければの話だ。

実は僕…。香奈と恋人だった期間も含め、彼女を“女”として見ることができないのである。

それでもうまくいっている我が家を、人は不思議に思うだろうか。


なぜ彼らは、夫婦として成立しているのだろうか

香奈との出会いは、大学時代へとさかのぼる。

岡山の進学校出身の僕は、大学進学を機に上京し、あっという間に就活の時期を迎えた。当初は大学院に進学する予定だったが、周りの友人たちと同じように就活をしてみることに。

様々な企業へOB訪問を繰り返していた頃、縁があって、香奈の父と会う機会があった。

香奈の父は僕のことをかなり気に入ってくれたらしく、その後香奈を紹介してきたのだ。

名の知れた企業の創設者で、当時から“権力とお金のある男”だとすぐわかるような雰囲気を醸し出していた香奈の父。

初対面の日、明らかにオーダーメイドだとわかる質の良いスーツに合わせていたのは、文字盤が黒の金無垢のデイトナ。

お金持ちそうな身なりとは裏腹に、まだ学生の僕にも「初めまして」と深々と頭を下げてくれるような、律儀な人だった。

それからしばらく経って、食事の席で香奈と初めて会った日。

「お父様、こちらの方は?」

「同年代の好青年だ。仲良くしてやってほしい」

彼女は当時流行していたギャル特有の濃い化粧に、ミニスカートをはきこなす、綺麗な女だった。…全くと言っていいほど、僕の好みではなかったのだが。

しかし香奈は、僕のことがタイプだったようだ。それからというもの、ほぼ毎日デートへ誘われた。

出かけるのは、ラグジュアリーホテルのラウンジや高級フレンチなど、これまで行ったこともないような場所ばかり。

いつしか“贅沢をさせてくれる”香奈に魅力を感じ、告白されてすぐ付き合い始めたのだった。



それからも交際は順調に続いたが、一度だけ今でも忘れられない大きなトラブルがあった。

香奈が地方テレビ局にコネで就職し、僕が司法修習をしていた頃のこと。元カノとの浮気が、現行犯でバレてしまったのだ。

まさかとは思ったが、彼女は僕の携帯にGPSを設定していたのだった。



お互い多忙なせいで、すれ違いが多く不安だったのだろう。

「ちょっと、何してるの!?…その隣にいる女、誰?」

ホテルのベッドで、元カノと寝ていたときのこと。なぜか突然、香奈が部屋に入ってきたのだ。

その瞬間、比喩ではなく本気で心臓が止まるかと思った。

僕がこのホテルを選んだのは、迂闊だったと未だに思う。なぜなら元カノと泊まったホテルは、香奈の父がオーナーだったからだ。

そのせいで、香奈はホテルの部屋にまで突入してきたのだった。

浮気がバレて彼女に問い詰められたとき、僕はハッキリとこう告げた。

「香奈のことは好きだ。でも女としては見られないから、こうして浮気してしまったんだ…。ごめん」


「女として見れない」発言に、香奈は…

香奈「結婚生活の鍵となるのは、お金や愛ではなく“利害”」


「アイスラテが美味しい季節になったなあ…」

娘をインターナショナルスクールへ送り出した後、近所のカフェで1人、朝食をとるのが最近のルーティンだ。今日の午後には、小学校から幼なじみの知佳とお茶をする用事もある。

― 時間も気持ちにも、もちろんお金にも余裕があってラクだわ。

地方局でアナウンサーをしていて忙しかった頃が、ちょっぴり懐かしくなる。

しかしそれには、いつも少しだけツラい思い出もついてくる。…まだ覚えている“了の浮気”だ。

あのとき彼に言われた「女として見ていないかもしれない…」という言葉。女として受ける、これ以上の屈辱は他にあるだろうか。

その言葉を投げかけられた瞬間、涙が落ちてくるのをグッと堪え、そして覚悟した。今日で了とはお別れだ、と。

「…それで、どうするの?」

冷静なフリをして聞き返すと、なんと彼は「別れたくない」と言ってきたのだ。

「女として見ていないけれど、香奈のことは好きだから」

そう言われ、私はすぐ気づいた。

― その「好き」は、私の「バックグラウンドが好き」ってことね。

了には一目惚れだったし、浮気されてもなお大好きだった。だから内心は苦しかったけれど、彼がいなくなるほうがもっとツラかったのだ。

だから彼の“思惑”を受け入れて、今がある。

それに浮気事件の直後。彼の配慮ですぐに結婚が決まったから、まだ許せたのだ。

私は了のことが好きで、了も私(のバックグラウンド)が好き。2人の利害が一致しているから、今ではこの関係に納得している。




「お待たせ〜!やっぱりいいマンションね」

午後になると一口いなりを手土産に、幼なじみの知佳が部屋へ遊びに来てくれた。

昔から変わらない、花が咲いたような彼女の笑顔にホッとする。知佳はラップワンピースと黒髪が良く似合う、天然美人だ。

「もうさ、聞いてよ…。夫が甲斐性なくて!」

「なになに?知佳は相変わらず理想が高いんだから♡」

知佳は大学時代に出会った同級生のラガーマンと数年付き合い、卒業後はメーカーに就職した彼と25歳で結婚したが、まだ子どもがいない。

今日は「どうしても自分の父親と比べてしまう」という愚痴だった。

― ほら、言ったじゃない。

彼女の父は医者で、サラリーマンである夫との財力の差は歴然。それに物足りなさを感じるまで、そう時間はかからないだろうと以前伝えたのに。

美味しいものを食べる回数が減ったとか、タクシーに乗るのを躊躇してしまうとか、要約すると「愛だけだとツラい…」と言いたいのが伝わってきた。

それに引き換え、自分たち夫婦はどうだろう…と、ふと考え込んでしまう。

かわいい娘がいて、愛しい夫がいて、彼も人としては自分を好いてくれている。

― 大丈夫、我が家も外から見ればいい家族かな…。

「聞いてる?香奈?」

「…あ、ごめんごめん。大丈夫だよ、これからもっと稼ぎだって増えるんだし」

愛だけで結婚して悩むより、最初から割り切った関係のほうがマシ。…そう思ってはいる。

でも友人夫婦の話を聞いて考え込んでしまうくらいには「愛されたい」と、心のどこかで思っているのかもしれない。


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お嬢様がお手頃サラリーマンを選んだ、唯一の意外な理由