美人か、そうでないか。

女の人生は“顔面偏差値”に大きく左右される。

…それなら、美しく生まれなかった場合は、一体どうすればよいのだろう。

来世に期待して、美人と比べられながら損する人生を送るしかないのか。

そこに、理不尽だらけの境遇に首をかしげる、ひとりの平凡な容姿の女がいた。

女は次第に「美人より、絶対に幸せになってやる!」と闘志を燃やしていく。

◆これまでのあらすじ

広告代理店の営業として働く“さえない女子”の園子。企画した個性派女優・五十嵐ハルヤを起用したキャンペーンで、世の中に賛否両論を巻き起こした。

仕事へのやりがいを強く感じイキイキと働く彼女に、ある一報が届く。

▶前回:「世の中を変えちゃうかもしれないね」SNSの影響力に26歳OLが震えたワケ



『女の子が、無事に生まれました。育休は取得せずに復帰します』

それは、産休に入っていた上司・清華からの報告メールだった。彼女は無事出産を終え、早くも2週間後に仕事に復帰する予定だという。

清華が産休をとっていた約半年間で、ようやく自分らしくのびのび仕事を回せるようになっていた園子は、彼女が復帰してくることに正直ガッカリした。

清華の横で仕事をしていると、何かと気を使い、働く気力ごと消耗してしまうのだ。

― せっかく1人で快適だったのになぁ。それももう終わりか。

そんな本音を心にしまいながら『おめでとうございます!』と返信した。



2週間後。

清華は予告通り復帰してきた。しかし、彼女は産休に入る前とはまるで別人のように変わっていたのである。


久々に会った清華の、思わぬ変化とは?

「わ!清華さん」

「ご出産、おめでとうございます!」

久々に顔を見せた清華に、フロアのみんながこぞって声をかける。

園子もその輪に加わってお祝いの言葉を伝えた。すると、清華は園子の目をまっすぐ見ながら、今までにないにこやかな表情で話しはじめる。

「久しぶり、山科さん。色々と負担かけたでしょう。ごめんなさいね」

園子はその笑顔を見て固まってしまった。産休期間中にかつての棘が抜けたのか、柔らかな雰囲気の女性に変わっていたからだ。

「赤ちゃんの写真、見せてくださいよ!」

固まっている園子をよそに、みんなは清華に生まれたばかりの赤ちゃんの写真をリクエストした。

清華はスマホを取り出して、満足げに1枚の写真を見せる。彼女と夫、そして赤ちゃんとの3ショットだ。

「…うわあ!」

その写真を見て場は一気にざわめき、みんながこぞって“同じセリフ”を口にした。

「やっぱ、両親が美男美女だと違いますね!」

清華の夫は、彼女と同じくらい目鼻立ちがハッキリとしていて、整った顔立ちをしている。まるで、俳優にいそうなレベルの顔だ。

そして、そんな美しい両親に大切に抱かれた女の子は、まだほんの小さいのに鼻が高く、すでに美人の雰囲気を醸し出していた。

「えへへ…。そうなの、可愛いでしょ」

清華は、照れ笑いをしてみせた。





清華が職場に復帰したので、業務量が減り負担も減るだろう。けれど、すでに園子は1人で堂々と仕事を回せるようになっていた。

ハルヤを起用したキャンペーンの成功によって、今や園子はかつての清華を上回る勢いで、三木谷から信頼を寄せられているのだ。

三木谷はプロモーションのアイデアがひらめくたびに「ちょっと思いついただけなんだけどさ…」と、園子に電話をかけるようになっていた。

園子もふらっと三木谷のオフィスに立ち寄って、次のアイデアを探るための雑談を気軽にする関係である。

今、三木谷の視線は、完全に園子の方を向いているのだ。

それは清華からすると、面白くない状態だった。

せっかく早々に職場復帰して、また最前線で働きたいと思っているのに、三木谷からの電話はもっぱら園子にかかってくる。

不満を覚えた彼女は園子に着信があるたび、チラリと嫉妬の混じった目線を送ってくるのだった。

徐々に冷徹な昔の性格に戻ってしまった清華は、請求書の処理をしていると、園子にこんな言葉を吐いてきた。

「今のプロモーションの発想には、平凡な感性が大事って本で読んだの。本当にそうね。平凡が重宝される時代かも」

鼻にかかった声で、人のことを平気で“平凡”と言う清華。意地の悪いその表情に、園子は曖昧に笑ってから席を立った。

― なんなの!

ただ一生懸命に仕事をして得意先の信頼を手に入れただけなのに、なぜ喧嘩を売られるのか。

園子は気持ちを落ち着かせるために、トイレに駆け込んで冷水で顔を洗った。顔をあげ、鏡を見て自分の顔を確認する。園子は冷静な表情で、落ち着きを取り戻した。

すると、同じフロアの先輩がテクテクとこちらに近づいてきて、衝撃的なことを言ったのだ。


先輩が言い放った、衝撃の一言とは?

「お疲れさま。なんかさ、清華さんピリピリしてるね」

「…ですね」

困ったように園子が笑いかけると、先輩は神妙な顔で言うのだった。

「ていうか清華さん、かなりふっくらしたよねえ。あんなに綺麗だったのに」

先輩のその口調は、ひそひそとしていながらも、楽しそうである。





園子は定時の18時に退社し、電車の座席に腰をおろしてため息をついた。

― どこもかしこも「見た目」ばっかり!

見た目についてグチグチ言われているのは自分だけだと思っていたのに、清華のような元から綺麗な人であっても「太った」などと中傷される。

その事実は、園子にとって意外だったのだ。

誰も、見た目からは逃れられない。綺麗に生まれた人だって、努力を重ねてそれをキープしないと、すぐに指を差されてクスクスと笑われる。

この社会に対して、園子は疲れきった気分となった。

帰りの電車の中でさえ、車内のいたるところに貼られた広告が、いやでも目に入る。

『痩身』『二重術』『シミひとつない肌』『毛穴レス』『小顔』

広告に散りばめられた言葉たちが、ただでさえ日々の仕事や育児などで疲弊している人間にプレッシャーをかけている。

園子は思う。

「綺麗になること」を心から楽しめるならいいのだ。

でも自分みたいに、細かい部分で努力をいくら積み重ねても“綺麗”に手が届かない人は、どうすればいいのだろう。

何をやっても悪あがきのようになる人は、どこにモチベーションを探せばいいのだろうか。

いっそのこと“綺麗”に対して、無関心になってしまおうかと思う。そうすれば、楽に生きていけるはずだ。けれどもこの世界で、そこから完全に自由になることはできそうにない。

― だからこそ、この仕事でちょっとずつでも世の中を変えるんだから!

園子はこっそり意気込む。

その決意は、こんな自分自身のため。

それから…。将来の自分の子どものためでもある。

清華の赤ちゃんの写真を見て、思ったのだ。

自分もいつか子どもが欲しいとぼんやり思っている。でも、もしいつか産むことができたとして、その子は清華の子のような美形ではないだろう。

そうであったとしても自分のような思いをせずに、堂々と生きていける社会になっていたら、どんなにいいだろうと思うのだ。



自宅の最寄り駅である神楽坂に着き、地上に続く階段を上っていると、幼なじみの晋から電話が入った。

「もしもし?」

「園子?…突然だけど、今からどっかで話せない?」

晋に彼女ができてから、2人はなんとなく疎遠になっていた。でも彼女がいようと連絡が来て嬉しく思う気持ちは、昔と変わらない。

「いいよ!ちょうど神楽坂駅にいるよ」

「わかった。駅まで行くわ」

園子はソワソワしながら電話を切り、マスクの下で笑みをこぼしたのだった。


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