「あのコは、やめた方がいい」

恋人との交際を友人から反対されたら、あなたはどうしますか。

愛する人を、変わらずに信じ続けられますか。

そして、女が隠す“真実”とは…?

これは、愛と真実に葛藤する男の物語。

◆これまでのあらすじ

誠は親友・圭一の婚約者・真紀に、恋人・咲良のことを「やめた方がいい」と言われてしまう。誠は咲良を信じ、結婚を決意する。だが、そのなかで咲良と真紀が中学の同級生だったことを知り…。

▶前回:婚約者の実家で目にした「ありえないモノ」とは?次々と暴かれる“自称お嬢様”の驚きの過去



真紀の寝室で、誠は彼女に寄り添っていた。真紀の手には、意図的にボロボロにされた中学時代の写真が握られていた。

「地獄だった。本気で死のうと思っていた…」

直接的なことは言わないが、同じ過去のある誠は十分理解できる。

真紀は、咲良にいじめを受けていたのだ。

「絶対見返してやろうってここまで来たのに、忘れてる…?!その上、幸せになろうとしてるって…」

ひきつけを起こしたようにパニック状態になる真紀。

「大丈夫。無理して話さなくてもいいよ」

誠の言葉を頼り、彼の腕をさらにぎゅっと掴んだ。

「ありがとう。誠くんならわかってくれると思ってた」

「じゃあ、はっきり言ってくれればよかったのに」

「ごめんなさい…。かわいそうだと思われたくなかったの。自分が悪者になってでも、あのコの目に入らないようにしたかったけど、無理だったね」

そのとき、玄関から何か音がした。しかし、それどころではない誠は、気のせいだと自ら言い聞かせた。

「圭一にはこのこと、言ってあるの?」

「ううん。思い出そうとするとこんな無様な姿になっちゃうし…」

時折、バーに誠を呼び出していたときの真紀の様子が、脳裏によみがえる。

涙目になったり、もたれかかりそうな弱さを見せたり…。

ことあるごとに嫌な思い出がフラッシュバックしたのだろう。彼女の色気のせいで、変な勘違いをしてしまった自分の浅さを悔やんだ。

すると―

暗がりの寝室に、廊下の明るい光が一気に差し込む。

そこに現れた男の姿に、2人は目を見開いた。


寄り添う誠と真紀の元に現れたのは…

寝室の入り口に立っていたのは、圭一だった。

婚約までしている恋人同士だ。突然訪ねてきてもおかしくはない。

「お前ら、なにしてるんだよ…」

ベッドで寄り添う誠と真紀の姿に、彼は冷たい視線を向ける。感情がすべて死んだような、そんな目の色だった。

「いや、違う。そうじゃないんだ」

「大丈夫。あとは、俺達だけで話すから」

圭一は廊下に置いてあった誠の荷物を勢いよく突き返し、玄関へと促した。真紀はただただ、おろおろしている。

「でも…」

カン違いされても仕方ない状況なのは当然だ。誠は言い訳をしようとするが、何から言っていいのか迷った。

「いいから、帰れよ」

これ以上、自分がいても話がこじれるだろう。真紀のフォローを信じながら、素直に退散するしかなかった。


2020年2月


それから1週間。彼らからは何の音沙汰もない。

その空白期間は――

不思議とあの出来事が、証言が、幻と感じる錯覚をもたらしてしまう。



その日の誠は、咲良と休日恒例の結婚式場巡りに赴いていた。

「どうしたの?浮かない顔して」

恵比寿にあるラグジュアリーホテルのラウンジ。心配そうに顔を覗き込む咲良の顔は女神のように優しい。

「もしかして、金額に怯えている、とか?」

「そんなことないよ。ちょっと気がかりなことがあって」

主な悩みの種は別のところにあったので、口ではそう言ったが、正直、提示された見積りは予想を超える金額だった。

愛する人のためを思えば払えない金額ではない。

一生に一度の式なのだから、普通のことなのだろう…。

「嫌じゃなければ、なんでも相談してね。これから夫婦になるんだから」

穏やかに微笑む咲良。その美しい笑顔…。

― 本当に、彼女が真紀さんを…?

真紀の証言が頭によぎりつつも、いざ本人を目の前にすると、どこか信じられなくなってしまう。真紀にも咲良にも、双方に厚いフィルターがかかって判断がつかない状態だ。

「そういえばさ。全然違う話だけど…」

誠は2人が同級生だったことについて、改めて尋ねてみることにする。すると、うんざりしたような顔で彼女は答えた。

「同級生だったけど、本当に記憶にないのよ。顔も変わったみたいだし」

「顔が?」

咲良は暗に「整形をした」と、揶揄したそうな口調だった。確かに、あの集合写真の真紀はあどけなく雰囲気が違う。しかし、当時から美しかった彼女にその必要があったのだろうか。

「誠さんだって、クラス全員と仲が良かったわけじゃないでしょ?…あ、もしかして式に呼ぶつもり?」

「そりゃ、もちろん…」

だが、真紀は出席しないだろう。いじめの事実が本当なら。

「きっと、私の友達は誰か覚えていると思うよ。今度の集まりで、そのこと聞いてみるね」

次の週に、彼女の友人たちが婚約お祝いパーティを開いてくれるという。誠のお披露目会のようなものだ。

気乗りはしなかったが、半年前に自分も同じようなことを彼女にお願いした身。当然ながら断ることはできなかった。


咲良の同級生に真紀のことを尋ねると、思いもよらぬ反応が…

新たな裏の顔


咲良の婚約お祝い会は、恵比寿のダイニングレストラン『ラグシス』で行われた。

参加したのは15人ほど。中高の同級生・ツグミさんが幹事となり、会社の同僚や大学時代の友人にSNSで声をかけて集めたという。

「彼が、奥久保誠さん。超大手企業のエンジニアよ」

「はじめまして。今後ともよろしくお願いします」

咲良は誠を自慢げに紹介したのち、久々に会うという大学時代の同級生がいるテーブルへすぐに移動した。

「え?ちょっと…」

知らない女性たちのなか、置いてけぼりにされた誠。何を話したらいいか見当もつかない。

「今日は、一段と寒い日ですね」

目の前にいた中高の同級生とおぼしき女性たちに、とりあえず天気の話題を振る。その言葉を聞いた途端、彼女たちは一斉に笑い出した。

「咲良がSNSで書いてた通りだ。誠さん、かわいい人ですね」

「そうそう。不器用だけど、いい旦那さんになれそうって」



引っかかる部分はあったが、悪い印象ではないことに誠は安堵する。聞けば、Instagramで誠のノロケ話をよく書いているのだという。

― 咲良さん、インスタやってるんだ…。

そういえば、以前代官山のレストランに行ったときや、手作りの夕食を作ってくれたとき、スマホで写真を何枚も撮影していた。イマドキの女性なら当然だろう。

そんな会話の糸口もあり、誠は彼女たちと会話を弾ませることに成功した。思えばこれだけの女性に囲まれているのは生まれて初めてかもしれない。

― いいコたちだし、咲良にはこれだけ人が集まる魅力があるんだから、あんなひどいことするわけないよな…。

誠は自分に言い聞かせる。目の前の女性たちは当時のことを知る当事者だ。自分が信じたいことを確かめる絶好の機会を逃すまいと、誠は真紀の件を口に出してみた。

「咲良と同じ学校にさ、中学1年のときにいた杉田真紀さんって覚えているかな?」

「え…」

シン、とその場が一瞬沈黙した。その戦慄した空気に、誠は嫌な予感を抱く。

「…彼女、僕の親友の恋人なんだ。結婚式にも招待する予定で」

理由を説明すると、幹事のツグミが不安げに口を開いた。

「本当に、来るんですか?」

誠が頷くと、別の1人が隣の女性に耳打ちする。その内容は小声を意識しているようだが、うっすら誠の耳にも入ってきてしまう。

(復讐するとか?)

(いや、結婚式に来るなら、もう忘れてるんじゃない?)

(咲良が言ってたけど、今売れない音楽家なんだって)

どこか悪意を帯びた口調。どうやら、“信じたくない方”が真実なのかもしれないという不安が胸の中を侵食する。

「ちょっと、お手洗い行ってきます」

誠は席を立ち、場を離れて頭を冷やすことにした。

― 咲良のなかでは、なかったことになっているってことか…?嘘、だろ…。

本当であっても、所詮過去のこと。こうやって割り切ろうと思う反面、自分も過去に受けた真紀と同様の傷がいまだ癒えていない分、収拾がつかない。

ふと気になって、スマホを取り出した。

贔屓の野球選手をフォローするため登録したInstagramを開き、位置情報で今いる店の投稿を見る。

すると、最新の投稿に咲良の写真が掲載されていた。恐る恐る、誘われるようにそのアカウントを開いてみる。

誠は、その内容にさらに驚愕したのだった。


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咲良のInstagramに書かれていた、衝撃の内容とは…?