“男女平等”が叫ばれている、昨今。

しかし「6歳未満の子を持つ夫婦の、1日あたりの家事・育児関連時間」は妻が平均7時間34分。

それに対し、夫は1時間23分(総務省「社会生活基本調査」)ほどだという。

日本における夫の家事参加率は、先進国の中でも最下位なのだ。

家事・育児に非協力的な夫。それに対し不満を抱き、愛想を尽かす妻たち。

これは、そんな「夫力(オットリョク)」皆無の男が、離婚を免れるために日々成長していく物語である…。

◆これまでのあらすじ

妻の柚葉とイケメンYouTuber・流星が、ホテルで密会している現場を見てしまった俊平。あまりにもショックで、ご飯も喉を通らない状態だったが…?

▶前回:「友人と会う」と言い出掛けていった妻。しかし高級ホテルで、夫が見た衝撃的な光景



夫婦とは、一体なんなのだろうか。

「健やかなるときも、病めるときも…」と誓いはするものの、結局は赤の他人同士。

だが僕は柚葉のことが大好きで、この人の側に一生いたいと思って籍を入れた。そして家族になったのだ。

しかし妻は、僕とは違う気持ちだったようだ…。

先週末、柚葉と流星がホテルで密会している様子を目撃してしまった。さらに「夫力向上委員会チャンネル」上での、流星からの宣戦布告と思われる動画。

1日の間に様々なことが起こりすぎて、僕の頭はパンク寸前だった。

結局この日はよく眠れず、僕は睡眠不足の頭をかきながら、朝日が燦々と差し込むリビングへと向かった。

「おはよう。って俊平、顔色が悪いけど大丈夫?」
「え?あぁ。ちょっと眠れなくて」

今日もキッチンのほうから、柚葉が用意してくれたコーヒーのいい香りがする。

けれども今朝は、幸せの象徴であるはずの、その香りがツラかった。


妻の浮気を知ったとき、夫はどうするのか?そして浮気男の真意とは…

仕事後。なんとなく家へ直帰したくなかった僕は、青山の地下にある、人の少ないバーへと向かった。

「はぁ。どうしようかな…」

ウイスキーの丸い氷をカラカラと回しながら、ため息ばかり出てくる。いざ浮気をされるとここまでツラいとは、想像さえしていなかった。

妻にはもちろん腹が立つ。しかし僕が腑に落ちなかったのは、流星という男の行動についてだ。

「アイツの目的は、なんなんだ?」

ふと亮太の妻・遥さんのことを思い出した。彼女もまた、流星と実際に会っていたらしい。

そしてあのとき、亮太が僕に言い放った言葉が鮮明に蘇ってきた。

「遥がリアルでも彼にハマりかけてさ。ちょっと大変だったんだよね」

居ても立ってもいられず、僕は亮太に連絡をしてみた。すると『すぐに行く』と返事が来て、30分後には彼が駆けつけてきてくれたのだ。



「シーバス、ロックで」

慌てて来たのか、亮太の息が上がっている。

「ごめんな、忙しいときに」
「いや全然問題ナシ。それより、俺も気になってたからさ…」

2人の間に、静かな沈黙が流れる。学生時代から一緒にいるが、ここまで黙り込むのは初めてかもしれない。

「あのさ。この前見ちゃったんだよね。柚葉と、流星が一緒にいるところを」
「えっ、マジで!?」

亮太の声が、店内中に響き渡る。

「おい!亮太、声が大きい」
「ごめん。で、どうしたの?」
「いや。何も言えなくて、ただその場を立ち去っただけ。家に帰っても、柚葉の顔を見るとストレートに聞けなくてさ…」

妻の口から、真実を聞くのが怖かったのだ。

柚葉が「離婚したい」と言い始めたときから覚悟はしていたが、自分さえ変わればなんとかなると思っていた。

心のどこかで「やり直せるチャンスはまだまだあって、妻も冗談半分で言ってるだけ」みたいな、甘えがあったのかもしれない。

けれども実際に柚葉がアイツと並んでいるところを見ると、悔しいけれど完敗だった。

若くてイケメンで、プチ有名人の流星。背が高くスタイル抜群な柚葉は、彼の隣にいるとよく映えた。

「…もう僕、どうすればいいのかな」

そこまで言いかけると、突然亮太に背中をバシッと叩かれた。

「イ、イタッ…」
「俊平。そんなん決まってんじゃん」

亮太に叩かれた背中が、じんわりと熱を持つ。

「ちゃんと事実を確かめること。そして、流星の本当の目的を暴くこと」
「本当の目的?」

暗い照明の下、亮太の精悍な顔立ちがより一層際立っている。その表情からは何を考えているのか読み取れないが、僕のことを思ってくれているのだけはよくわかる。

「遥の話、覚えてる?」
「うん、もちろん」
「あのとき、おかしいと思ってたんだよ。遙が急にソワソワし始めてさ。で、問いつめたら流星とコソコソ会ってたんだよね」

似ている。僕の今の状況と、酷似している。

「だけど、本当に奇妙なのはここからだったんだ…」


流星の不可解な行動の数々。暴かれ始めた、夫婦の秘密とは

閉店の時間が来てしまったので、僕たちは地上に出て静かに解散した。

「じゃあ、俊平。頑張れよ」
「うん。亮太、今日は本当にありがとう」

少し歩きたい気分だったので、すっかり秋の匂いになった夜風を浴びながら、青山一丁目の交差点に何となく向かってみる。

さっきの亮太の話が本当ならば、柚葉は被害者な気がする。けれども証拠がない。

そもそも2人はどこで出会ったのだろうか。人気YouTuberと、一般人の妻。接点が見当たらないのだ。

「いったい、どこから間違えてしまったんだろう」

結婚して幸せだと思っていた。けれども振り返れば、僕は完全に柚葉に甘えきっていたのだ。

家事なんてせず、休日もダラダラとする日々。家へ帰るといつも部屋は綺麗で、食事も準備されていて、それが“当たり前”だと思っていた。

そんな夫に対し、愛想を尽かすのも無理はないだろう。

「逃げてばかりじゃダメだな。ちゃんと向き合わないと」

そう決意し、僕は家路を急いだ。





「ただいまぁ」
「おかえり。飲みに行くの、久しぶりだったんじゃない?楽しかった?」

洗面所で手を洗っていた僕のところに、ひょっこり顔を出した柚葉を見ながら、ぼんやり考える。…例の話を、どう切り出すのがベストなのだろうか。

「あのさ、柚葉。話があるんだけど、いいかな」
「どうしたの、改まって。明日じゃダメ?」
「いや、今日がよくてさ」

珍しく真剣な僕に驚いたのか、妻は「わかった」とうなずくと、2人分の紅茶をいれてダイニングテーブルに置いてくれた。

「あっつ…」

マグカップ越しにも、熱さが伝わってくる。そんな僕を見て、柚葉は呆れ顔だ。

「気をつけてよ、熱いんだから」
「…あのさ。流星と、どういう関係?」
「えっ?」

柚葉のマグカップが、ゴトン、と音を立てた。

「ごめん。僕、見ちゃったんだよ。2人がホテルのラウンジで一緒にいるところを」

無言の柚葉に対し、僕は畳みかける。彼女を責めたいわけじゃない。ただ、あの人妻キラーから妻を守りたいだけなのだ。

「柚葉。もう彼に会うのはやめて欲しい」

何も言わない妻に、僕は次なる言葉をかけようとした、そのときだった。

「わかった。でも、これだけは信じて欲しい。私と流星くんは、そういう関係じゃないから」
「本当に?」
「うん。コソコソ会っていたこと、黙っていてごめんなさい。でも彼とは、男女の関係になんてなってないよ」

そう言う柚葉の瞳の奥には、一点の曇りもなかった。

「じゃあ、どうして会ってたの?」

ふぅ、と柚葉が大きく息を吸い込む。

「最初は彼のファンだったし、会えてラッキーくらいの軽い気持ちだったの。でも夫婦仲について相談し始めてから、だんだん要求がエスカレートしてきて…」
「要求?」
「そう。夫婦の不仲ネタが欲しい、って」

僕と柚葉の間には、ただ静かに紅茶の湯気が立っていた。


▶前回:「友人と会う」と言い出掛けていった妻。しかし高級ホテルで、夫が見た衝撃的な光景

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流星の本当の目的と、最後に夫婦が出した答えとは…?