秋六夜「アドバイスしたい女」


イメージコンサルタントという仕事は、私の天職だと思う。「アドバイス」することでお金をいただけるのだから。

「有美先生にショッピング同行をお願いして良かったです。今まで似合わないと思ってたタイプの服が、実はこんなにハマるなんてびっくりです」

お客様に憧れ交じりにリスペクトされ、私はにっこりと微笑む。自宅のサロンでカラーコンサルもいいが、実際お買い物に同行し、あれこれアイテムを勧めて、お客様があか抜けていく姿を見るのは楽しい。

開業して3年目。

こんなふうに感謝されるシーンが日常になりつつあった。

今思えば、私はラッキーだったと思う。たまたま飛び込んだイメージコンサルタント養成スクールが本物だったから。

イメージコンサルタントは国家資格ではないので、講座と言ってもピンキリなのが実情。

私が選んだのは、半年の講座費が80万円と、決して格安のスクールではなかった。当時26歳の会社員だった私が、お稽古ごと感覚で出すにはキツい金額だ。

しかし、そのスクールを卒業した生徒の大半が、イメージコンサルタントとして実際に活躍していることを知って、私はそこに決める。

スクールに通っているあいだは、印象学やパーソナルカラーの識別法、体型に合うファッションやメイクについて必死で勉強した。

仕事をしながらの勉強は大変だったが、なんとかコースを修了。そして、自宅兼仕事場にできるタイプの古いマンションに引っ越して、壁紙などを張り替えオシャレにリフォームした。

開業届を出したのは、27歳のとき。

さらに半年後、なんとか月20万円稼げるようになったところで思い切って会社を辞めた。もうすぐ3年経つが、「よくそんなにすぐ軌道に乗ったね」と周囲は驚く。

でも、私はちっとも不思議に思わない。

この仕事に向いているという「確信」があったから。


イメージコンサルタントとして成功する原動力になった、有美の「ある特技」とは?

話術に長けた女


私は、話術に長けているという自覚が幼い頃からあった。

4人姉妹の長女で常に場をまとめていたため、人を魅了する話し方が身についていたのだろう。実家が書店で、小説から哲学書まであらゆるジャンルの本を乱読し博識であることも一役買っていたのかもしれない。

上京する前は、恋愛から美容、進路相談まで、クラス中の女子の相談に乗っていた。おそらく皆、誰かに断言して欲しかったのだろう。そういう意味で私の自信のある態度は、本当に頼りにされた。

早稲田大学に入学してからも、社会人になってからも、その傾向は続いた。なぜかヨガ教室で知り合った主婦までも、帰り道にお茶をしながら、私に夫婦関係の相談をしてきた。

そのたび、私はいつも宣教師あるいは占い師のように、皆にアドバイスし続けた。

さすがに20代半ばともなると、私は何かアドバイスの根拠が欲しいと思うようになった。

そこでツールとして、ファッションやメイク、印象のトータルプロデュース理論を学ぶことにした。ちょうどイメージコンサルタントというものが流行り始めた頃だ。

自分のアドバイスがますます感謝され、みんながキレイになり、生き生きと人生を謳歌する姿を見られるこの仕事は、間違いなく私の天職。

高揚した気持ちでクライアントと別れ、数時間ぶりにスマホを見ると、メッセージが入っている。名前を見て、私はやれやれとため息をつく。

私が、昔からどんなに助言しても一向に成長せず、あか抜けない唯一の「教え子」。幼馴染の友奈からのメッセージだった。





「わあ〜有美、久しぶり、また素敵になってる〜!その長いチョッキみたいなの、なあに?カッコいいねえ」

「ジレって言ってよね…友奈は相変わらず季節感ない服着ているわね…もう秋だよ!?」

友奈とは地元の姫路時代から一緒で、大学進学のため18歳のとき一緒に上京してきた。私は幼馴染の気安さから立て続けにしゃべり、カフェの窓際席で向かいに座った。

友奈は目鼻立ちは悪くないと思うが、いつもほぼすっぴんで現れる。安っぽいカーディガンとカットソーに、可もなく不可もないブランド物のバッグを持って。

18歳の頃から10年以上経つのに、服装もメイクもあまり変わっていない。

ひょっとすると同じ服なのかもしれない。それはそれでサスティナブルだが。

「それで、この前LINEで言ってた子、亮くん?、とはどうなったの?友奈のことだから、どうせ何も進展してないんでしょ」

私は運ばれてきたコーヒーを飲みながら、さっそく本題に入る。



「うんうん、有美に相談しようと思っていたの。同じ会社なんだけどね、職場で飲み会もなくなったから、なかなか接近できなくて。

運よくプロジェクトで同じチームになれたから、いいなと思うところは、なるべく素直に伝えるようにしてるんだけど…」

「は〜?何よ。その前時代的な行動は…。その亮くんて、モテるタイプなんでしょ?ダメ、その作戦、全然ダメ」

「ええ、ダメ?」

友奈は困り眉をさらに下げて、身を乗り出してきた。私はとうとうと説教をする。

「いい男って、褒められ慣れてるから、彼のことを持ち上げても舐められるだけよ。友奈の優れたところをプレゼンして、手に入れたいって思わせるのよ。女なんて男に追いかけられてなんぼよ」

「ええー、でも私、とくにアピールするところなんてないし」

「確かにねえ…」

私は、なかばあきれて友奈の顔を見る。

昔からこうなのだ。聞き上手ではあるが、建設的な意見や面白いことを言うタイプではない。きっとその同僚の亮くんも、友奈のことを恋愛対象としては見ていないはずだ。

「でね、有美にお願いがあるのよ。今度、営業チームで秋川渓谷にバーベキューに行こうって話になって。ところがね、女の子が2人しかいなくて、友奈ちゃんお友達連れて来てよっていうの。有美が来てくれたら、私鼻が高いんだけどなあ」

「えー、知らない人とバーベキューなんて気を使うから嫌よ」

「お願い!もう一人の女の子はかなり先輩で。男子は5人もいるのにどうにも盛り上がらないでしょ?お願い!」

そこまで友奈が言うのは珍しい。本当に困っているのだろう。

「わかった。車で迎えに来てくれるんでしょうね?」

もちろん!と友奈は満面の笑みでうなずいた。


バーベキューの日、有美が目にした衝撃の光景とは…?

アドバイス


バーベキューの日の朝は、なんと友奈の意中の亮くんが車を運転し、2人で迎えに来てくれた。

「はじめまして、友奈がいつもお世話になっております。幼馴染の有美です」

「はじめまして!今日はむさ苦しい会に有美さんや友奈が来てくれて、ホントみんな喜びます」

驚いたことに、亮くんはとてもさわやかなイケメンだった。おまけに友奈のことを呼び捨てにしている。しかもあまり違和感がない。きっと女慣れしているのだろう。



秋の土曜日、奥多摩に向かう道は少し混んでいて、2時間ほどかかった。道中3人でいい感じに盛り上がる。亮くんはイメージコンサルタントという仕事が初耳らしく、さまざまな質問をしてきた。

私はゼロからわかるように懇切丁寧に説明し、友奈もそれを楽しそうに聞いている。

― 亮くん、思ったより素敵な人だな…。これは友奈にはもったいないかも。

内心そんな風に思う。むしろ、私と亮くんのほうが話が弾み、申し訳ないくらいだった。

秋川渓谷に到着すると、すでに数台に分乗した車で皆到着していて、友奈がさっそく下ごしらえしてきたお肉や野菜を並べはじめた。

「もうあとは焼くだけだから、有美は皆と乾杯してて。女の子がいないとね」

友奈に背中を押され、私はクーラーボックスから冷えたビールを出すと、ドライバーじゃないメンバーに配ってからパラソルの下に入った。さっそくウーロン茶を飲みながら亮くんが近づいてきたので、私は笑顔で応えた。

「有美さんて、友奈の幼馴染なんですよね?」

「そうなんです、中学からずっと一緒で。大学もあの子は女子大で、私は早稲田だったけども、同じ高校から上京してきた女の子は少ないから近所に住んだりして。腐れ縁みたいなものなんです」

私が肩をすくめて見せると、亮くんはさっと周囲を見渡し、声をひそめて尋ねてきた。

「友奈って、彼氏、いないですよね?一応、親友の有美さんにウラ取っておきたくて」

「…え、友奈に?」

予想外の質問に、私は亮くんの顔を見た。

「や、実は…友奈のこと、いいなと思ってるんです。今日、大好きな親友を連れてくる、っていうから外堀から埋めようかと」

「ゆ、友奈のことが…好きなんですか?ど、どのへんが?」

思わず挙動不審なほど視線をさまよわせながら尋ねる。いろいろな意味でショックだった。

「うーん、どのへん…。考えたことないけど、そうだなあ、例えば有美さんと話してると、『有美さんてすごいなあ』って思うんですけど、友奈と話してると『俺ってすごいのかも』っていう気持ちが湧いてくるっていうか。

彼女の前では、自分がなんだか価値のある人間なんだって思えるんです」

ぐうの音もでなかった。

誰かと話すときはいつでも、自分の知識をひけらかすことに一生懸命だった私に、その言葉は深く刺さった。

絶句していると、いつの間にか友奈がサラダを取り分けて、運んで来た。

「はい、有美。ほんと来てくれてありがとうね、みんな有美の話が面白いってすごく喜んでる」

― 面白い……!?

面白い話をしたところで、おしゃれになる技を磨いたところで、気が付けば私は30年間ずっと…彼氏がいない。

そして友奈は、なんだかんだ言いながら、彼氏が途切れたことがない。

「有美なら絶対大丈夫!いつも周りを応援するばっかりで、自分のこと後回しのお人好しなんだから、そろそろ自分のことも考えて?今日はよりどりみどりだよ、いいなって思う人いたらすぐ繋ぐからね!あ、もちろん亮くん以外だよ」

これか…。これなんだ。

イメージコンサルタントがどうした。スキルを身につけることで相手よりも常に優位に立ちたい私と、本質を理解し、相手が言ってほしい言葉を与える友奈。

男の人が、もしたった一人の伴侶を選ぶとして、どちらにずっとそばにいてほしいかなんて明らかだ。

― ちっとも学ばない教え子は、私だったんだ。

あか抜けない装いなのに今日もみんなに囲まれている友奈を見ながら、完璧な装いの私は、生れてはじめて心から完敗を認めた。


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