年収が上がるのに比例して、私たちはシアワセになれるのだろうか―?

ある調査によると、幸福度が最も高い年収・800万円(世帯年収1,600万円)までは満足度が上がっていくが、その後はゆるやかに逓減するという。

では実際のところ、どうなのか?

世帯年収3,600万の夫婦、外資系IT企業で働くケンタ(41)と日系金融機関で働く奈美(39)のリアルな生活を覗いてみよう。

◆これまでのあらすじ

3歳の息子の教育のために、ケンタから米国カリフォルニア州への移住を提案された奈美。しかし、奈美はこれまで積み上げてきたキャリアを手放すことが考えられず、思い悩んでいたが…。

▶前回:「2億の損失か、それとも…」シッターからのLINEに泣き崩れる39歳女。キャリアママに迫られる選択



Vol.5 米国移住の決断


― 元日 ―

「ケンタって、厄年は気にするんだね。“これだからドメは…”とか言って、いつも日本の慣習を馬鹿にしているくせに」

夫からカリフォルニアへの移住を提案された2ヶ月後、奈美たちは、代々木八幡宮に初詣に来ていた。

そこで厄年の看板をみて、去年が本厄だったと知ったケンタが厄払いをしたいと言い出したのだ。

「一応ね!厄ってよくわからないけど、何か悪いことが起きるんでしょ…?」

「なに、その適当な感じ」

奈美は、笑いながら返す。

― ケンタって、普段は口が悪いくせに、こういうところが憎めないんだよなぁ…。

ケンタと笑いあいながら、奈美はふと思った。

― やっぱりケンタと翔平と家族3人で笑って暮らすことが、私の幸せだな…。

そして、奈美は心に決めた言葉をケンタに伝えた。

「私、米国に移住する決心がついたよ!決断までに、時間がかかってごめんね」

「本当に?奈美、ありがとう!ちょうどお正月休みが終わったら、上司に相談したいと思っていたんだ」

満面の笑みを浮かべるケンタを見つめながら、奈美は自分に言い聞かせていた。

― これで、よかったんだよね…。私が仕事に執着したところで、家族みんなが幸せになるわけじゃないし。

迷いながら、ようやく米国行きを決断した奈美。

しかし、これが前途多難な人生の幕開けだということを、このときはまだ知らなかった。


米国行きを決断したものの、待ち受けていたできごととは…?

それから1週間後の土曜日。

奈美は青学時代の同級生・美貴と代々木上原にある中華レストラン『REI』を訪れていた。

外資系金融機関に勤める美貴は、2ヶ月前に男の子を出産したばかりで今は育休中だ。今日は夫に留守番を任せて、出産後初の外食だと喜んでいる。

奈美が米国行きを決断したのに対して、美貴は、夫が年明け早々バンコク転勤の内示を受けて、帯同することを決めたらしく、今日はお互いの近況報告をするために急遽ランチをすることになったのだ。

「まさか夫が、バンコクに転勤になるなんて。私、息子を通わせるプリスクールまで決めていたのに、せめて英語圏がよかったな…」

熱々の中華粥を食べながら、美貴はため息をついた。

「でも、美貴ついて行くって即決したんでしょ?迷わなかったの?」

奈美が問いかけると、美貴は一口水を飲んでから答えた。

「そりゃあ迷ったよ…、東京の生活が好きだし。でも、子どもの幸せのためには、家族そろって生活するのが一番かなって、考え直したんだ。とりあえず育休の2年間は、向こうに行ってくるよ」

美貴の夫は、愛媛県出身で地元の公立高校から東京大学に進学し、今は大手商社に勤めている。

一方の美貴は、渋谷区松濤出身。初等部から大学まで青山学院で、今も実家から徒歩圏内に住んでいる。慣れ親しんだ都心の生活を手放すことに、抵抗があったという。



「それより、奈美こそよく決断したよね。あれだけ仕事を辞めたくないって言ってたのに…」

美貴の問いかけに、名物のよだれ鶏を食べ終えた奈美は、晴れやかな表情で答えた。

「私が今の仕事に固執して、ずーっと日本で暮らしたところで、なんか先が見えちゃったんだよね。だから、移住っていう決断をして翔平やケンタの可能性を広げるのもいいかなって。それに…」

一息吐いて、奈美は続けた。

「私、今回のことで思い知らされた。結婚して子どもをもつ選択をしたら、いつまでも自分が人生の主役ではいられないんだって。受け入れるのに時間がかかったけど…」

奈美の言葉をうなずきながら聞いていた美貴が言う。

「昔は会うたびに『ボーナスで何買う?』『どこに旅行行く?』ってことばかり話してたうちらが、『子どもの幸せのために…』って話してるなんて。大人になったね…」

「40歳目前にしてやっとね…。って、遅すぎるからっ!」

奈美の言葉に2人は笑いあった。

― 決断するのも大変だったけど、本当に大変なのはこれからなんだろうな…。

奈美はこれからのことを考えると、不安と期待で胸がいっぱいだった。


移住に向けて準備を始める奈美だったが…。早速壁にぶつかる…!?

米国移住って月々いくらかかるの?


「今さらなんだけど、米国で生活していけるの?カリフォルニアって、物価も税金も高いって聞いたことあるけど…」

帰宅後すぐに、奈美は、リビングでパソコン作業をしているケンタに問いかける。

「もちろん!色々考えた上で奈美に提案したから、心配ないよ。今ちょうど、向こうの物件見てたんだけど…」

そう言いながらケンタが見せてきたのは、カリフォルニア州ロサンゼルス郊外のアーバインにある2ベッドルーム、広さ約120平米のきれいな部屋だった。

「ここで月40万円くらいで、駐車場代が2台で3万円かな」

「へえ、こんなに広くて?そう考えると、東京に住むより割安な感じがするね」

ケンタは続いて、自分で作ったエクセル表を見せながら説明してくれた。

それによると、医療・生命保険料は、会社経由で加入して7万円、食費・ガソリン・水道光熱費・通信費で、20万円。翔平のプリスクール代が20万円。

「ざっと合わせると月の経費は、トータル90万円くらい。俺の収入は手取りで月150万円弱くらいだから、大丈夫だよ」

「そっか、よかった…」

ほっとしたのも束の間、ケンタの言葉に、奈美は耳を疑った。

「でも、翔平の学費のことを考えると、油断はできないよ!奈美って、米国の大学の学費がどれくらいか知っている?」

「…検討つかないかな。どれくらいなの?」

「州立と私立でだいぶ違うけど、私立の高いところだと4年間で2,000万円くらい。遠方の大学に行けば、プラス下宿代も500万円くらいかかるからね」

「そ、そんなにかかるの!?」

驚愕の事実に、奈美は目をパチクリさせる。

「だから、米国では裕福じゃない家庭の子どもは、奨学金を借りるから、多額の借金を抱えて、社会人生活をスタートするわけ。まあ、俺も例外じゃなかったけど…」

「そうなんだね…」

改めて、米国で子育てをすることの大変さを実感した奈美は、身が引き締まる思いがした。



「この家はどうするのがいいんだろうね…。売るか、貸すか?」

一息吐いた奈美は、ケンタに問いかけた。

「俺は、売るほうがいいかなって思ってるよ。もし仮に賃貸にして、空き家のままだったら、米国での生活費+この家のローンで月々25万円もかかるからさ。それはキツイよね…」

ケンタは続けた。

「それに、何かあった時のためにキャッシュは手元に持っておきたいし。せめて、さっき話した米国での月々の生活費90万×3年分の3,240万円くらいはね。だから、この家を売却できるのがベスト」

「確かに、キャッシュも必要だよね…。私、前の家の売却をお願いした不動産屋さんに早速連絡入れてみるよ!」

ケンタに明るく声をかけた奈美だったが、米国移住前に立ちはだかる壁に怖気づいていた。

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