女にとって、経験豊富な年上男性は魅力的に映る。

だが、その魅力ゆえこだわりの強いタイプが多く、女は年を重ねていくうちに気づくのだ。

― 頑張って彼に合わせるの、もうしんどい…。

年上ばかり選んできた女が、自然体でいられる相手は一体どんなタイプの男なのだろうか?

これは、アラサー独身女がこれまでの恋愛観をアップデートする物語。

◆これまでのあらすじ

12歳年下のプロサッカー選手、颯と付き合うことになった多佳子。その日の夜、10年来の友達である一樹から来た『彼氏できた?』のメッセージにドキッとしてしまう。そして、一樹との2年ぶりの再会をすることとなり…?

▶前回:33歳女がひと回り年下男の告白をスルーしようとしたら、グイグイ押され…



颯と付き合うことになった夜に、LINEでやり取りを続けたのは颯ではなく別の男だった。

その男とは、大学時代からの友達・一樹だ。

彼の物事をハッキリと言う性格は、私とよく似ている。変に気を使うこともなく、本音で語り合える貴重な存在だ。だから、学生時代はもとより、社会人になってからも月に何度かは会う関係が続いていた。

だが、最後に顔を合わせたのは、2年前。

なぜなら、一樹は先日まで、勤め先である大手銀行のニューヨーク支店に赴任していたのだ。

『帰ってきたら、まず多佳子に会わないとな!今週末は空いてる?』

『空いてる、空いてる!ていうか、一樹のためなら予定があっても空けるから』

そう言って、帰国早々に私との約束を取り付けると、神楽坂にある懐石料理店『ふしきの』のURLと待ち合わせ時間をすぐにLINEしてきた。

私も一樹との再会を心待ちにしていた上に、店のチョイスもさすがだとすっかり浮かれ気分になっていた。

だが一瞬、颯のことがふと頭をよぎった。

― あ、でも男性と2人で会うのはダメかな…。まあ、相手は一樹だし、いっか。

友達と会うだけだから颯には言わなくてもいい、そう思った。

そんな軽い気持ちで、一樹との約束の日を迎えたのだった。


付き合ったばかりの彼氏に内緒で、男友達と2人で会うことに…

神楽坂の落ち着いた街並み。

そこからさらに奥まった道に入ると、店の近くに一樹の姿が見えた。

「一樹!」

「おー多佳子、久しぶり!」

2年ぶりに会う一樹の笑顔に、ホッとする。だけど、雰囲気が少しだけ変わったようにも感じる。ニューヨーク帰りの自信に満ちているのか、前よりも貫禄のようなものが滲み出ているのだ。

― 日本にいた時は、もう少しチャラい感じだったのに。

早速ジャブを打とうとしたのだが、私の鞄をサッと手にして店内へとエスコートする一樹に調子が狂った。だが、こうやって女性として扱ってもらうのは悪くない。

「一樹、おかえり!ニューヨークはどうだった?」

「うん、ただいま!いやー慣れるまで長かったよ。ここだけの話、最初の半年くらいは日本が恋しかったしさ」

そう言いながらも、海外で十分な仕事の手応えを感じたことが、佇まいから伝わってくる。カウンター席に隣り合わせで座る一樹は、目を輝かせながらニューヨークでの話を聞かせてくれた。

ちょうどそのとき、最高のタイミングで八寸がテーブルに置かれた。趣向を凝らした旬の食材が美しく盛りつけられ、店主オススメの日本酒との相性も抜群だ。

「多佳子が好きだと思って、八寸。俺もずっと食べたかったんだよ」

「うん、好き!さすが一樹、わかってるよね」

気心の知れた一樹との時間は、心地がいい。美味しい料理と日本酒も手伝って、いつもより早く酔いが回りかけた。

ところが、次の質問でホワホワとしたいい感じの酔いがサーッと醒めてしまう。

「で、多佳子は彼氏できたの?」



先日、一樹からのLINEで『彼氏できた?』と聞かれたときは、別の話にすり替えた。が、しかし、面と向かって聞かれると、口ごもってしまう。

「えー、いいよ。私のそういう話は…」

ひと回りも年下の彼氏ができたとは、いくら相手が一樹でも言い出しにくい。

「あ、その感じだと、彼氏はできたけど、あんまり人に話したくない相手なんだろ?」

10年来の友達は、すべてお見通しのようだ。続けて、一樹はこう言った。

「あのさ、俺にも話せないような相手と付き合ってるの?それなら、なおさら聞くのは俺しかいないでしょ」

「…うーん、じゃあ話す!えっと、実は付き合い始めたばかりなんだけど。彼、21歳なんだよね」

予想外の返答に、一樹は目を見開いて驚いた。

「おお…。それは、確かに言い出しにくいかも。でも、多佳子がいいなと思った相手なんだよね?」

「いいな…か。正直、勢いもあるんだけどね。しかも、彼はサッカー選手なの」

颯の職業のことを話すと、一樹のテンションが急上昇した。

そういえば一樹は大学時代、サッカー部に入っていた。かつては本気でプロを目指していたと、言っていた。

「よし、彼の試合を見に行こう!いいよな、多佳子?」

「ちょっと待って!それは急すぎるよ、彼に言ってからのほうがいいんじゃないかな?」

すぐにでもチケットを購入しそうな勢いの一樹を、私は何とかしてなだめたのだった。

こうして食事が終わり、彼と別れた。少し面倒なことになったな、と思いながらタクシーで帰宅しシャワーを浴びる。

ソファに座って一息つくと、時計はすでに24時。しばらくするとスマホが鳴り、画面を見てみるとLINEが20通も届いていた。


20通のLINEは、一体誰から…?

一樹との食事からずっとスマホの存在を忘れていた私は、慌ててLINEを開く。

『練習終わったー!』
『多佳子さん、今日休みだよね?』
『あとで電話してもいい?』
『おーい!』
『何かあった?』

颯からのLINEが何通も届いていた。ちょうどそのとき、電話が鳴る。

「もしもし?多佳子さん?LINEがなかなか既読にならないから…。何かあったの?ていうか、何してたの?」

「ごめん!友達とご飯食べに行ってて、さっき帰ってきたところ」

いら立った声で矢継ぎ早に質問され、動揺した私は、彼のことをさらに怒らせてしまう。

「あのね、友達に颯くんのことを話したら…試合、見に行きたいって」

「え?いいよ、見に来てよ!友達って、美智子さん?」

今がチャンスだとばかりに一樹のことを話すと、颯はさらに不機嫌になってしまった。

「もう寝る」と言って、ブツッと電話を切った彼に、私は無視を決め込まれることになったのだ。



それから1週間後。

『今日、この前話した一樹と一緒に試合見に行くね。彼は本当にただの友達だから…。試合、頑張って!』

颯に送ったLINEは既読になったけれど、返事はこなかった。



久しぶりのサッカー観戦に気合が入った一樹。彼が購入したチケットは、ピッチに近い指定席だ。

「彼氏からはまだ連絡ないの?今日のことは言った?何か申し訳ないな、ごめん」

「ううん、一樹は悪くないよ。私がちゃんと話しておかなかったから…」

この日も後半に選手交代をして、試合に出場した颯を間近で見る。

「だけどさ、いい選手だよなー守谷くん。生意気そうだけど」

「“生意気そう”じゃなくて、ちょいちょい生意気だよ。でも、すごく真っすぐな人なんだよね。だから、もう1回ちゃんと謝ってみるよ」



その日の夜。3度目の電話で、ようやく颯につながった。

「もしもし、颯くん?私、謝りたくて」

「…一樹は本当にただの友達だから。でも、2人で会うことは、先に颯くんに話しておくべきだった。ごめんなさい」

「俺も…イラッとして、連絡もしないで無視してごめん。あー、だけど今日も一緒に来てたんだ?ちょっと嫌だな…」

確かに、逆の立場だったらイライラするだろうと私も反省した。

けれども、無視を決め込む颯を子どもっぽいと思ってしまった自分もいる。何の解決にもならないし、お互いに嫌な気持ちを引きずったまま過ごすのは生産性が低い。

「ねえ、私から言うのもなんだけど、これからはお互いに嫌だと思うことはしっかり話し合っていきたいな」

これには、颯もしぶしぶ納得してくれた。

ただ、電話を切る直前に突然切り出してきた言葉は、私を激しく動揺させた。

「…次のオフは、多佳子さんの部屋に行ってもいい?」

― それって、お泊りってこと…?


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「部屋に行ってもいい?」と言ってきた年下の彼。それって…もしかして…