明治。青山学院。立教。中央。法政。そして、学習院。

通称、「GMARCH(ジーマーチ)」。

学生の上位15%しか入ることのできない難関校であるはずが、国立や早慶の影に隠れて”微妙”な評価をされてしまいがちだ。

特に女性は、就活では”並”、婚活では”高学歴”とされ、その振れ幅に悩まされることも…。

そんなGMARCHな女たちの、微妙な立ち位置。

等身大の葛藤に、あなたもきっと共感するはず。

▶前回:“ザ・無難”と評判の法政大学。優秀な法政女子がインターンシップで見つけた新しい進路とは?



File6. 恭子、学習院大学。「学校の警備は当たり前」高等科まではそう思っていた


「松野さんって、小学校から大学まで学習院なんだって?やっぱり皇室の方とも知り合いなの?ご実家もきっとお金持ちなんだろうなぁ」

「いえいえ、別にお金持ちじゃないですよー!遠くからお見かけするくらいです」

今までの人生で、何十回も何百回も聞かれた質問だ。

しかし、社会人4年目を迎えた今となっては、微笑みとともにこうして適当にかわすことができるようになっていた。

― こうやってうまく振る舞えるようになったのは、大学時代の苦い経験があるからだわ…。

今となっては、恭子はあの苦い経験にも感謝できるようになっていた。



「普段から学校でお見かけするけど、本当はとても遠い存在の方々なのよね…」

高等科時代までの恭子は、皇室関連のニュースを目にするたびにそう思っていた。

初等科から学習院に入学し、女子中等科・高等科を経て学習院大学に入学した『生粋の学習院生』である恭子。

華族のための学校として開校された旧制学習院。その創立の経緯もあり、今でも学習院には多くの皇族が通学する。

そんな恭子にとっては、入学式や卒業式などの行事のたびにマスコミが来るのも、“ただの日常”にすぎない。

学習院の校内は、SPの導線が確保されるなど警備に配慮した設計になっている。それもすべて当たり前のことで、どの学校でもそういった配慮があると信じて疑わないでいた。

恭子にとっては、それが普通のことだったのだ。


生粋の学習院育ちの恭子。大学入学で“庶民”を目の当たりにする…

『世の中には様々な人がいる』ということを、大学で初めて知る


「学校の警備がしっかりしているのは当たり前」

「経済的に困窮することなんて想像できない」

初等科から高等科まで学習院で過ごした恭子は、こう信じて疑わなかった。

高等科までは、もちろん多少の程度の差はあれど、世間的には“お嬢様”とされる子ばかりに囲まれていた。

実際に、恭子自身も品川区で生まれ育ち、何不自由なく生きてきた自覚もある。

お嬢様特有の邪気のなさもあり、周りと比較することなく伸び伸びと生きてきたのだった。

しかし、大学進学をきっかけに、これまで自分が過ごしてきた環境はとてつもなく特別だったのだと、否が応でも認識することとなった。



今から8年前の4月。恭子は、学習院大学に入学した。

入学直後といえば、クラスやサークルの勧誘などで様々な学生と知り合うことができ、楽しいイベントも多い時期だ。しかし、そういう場で先輩や同級生と話すと、決まってこういう話になる。

「恭子ちゃんは、高校どこなの?」

「はい、高等科です」

「そうなんだ。あ、もしかして初等科から?」

「は、はい…」

「うわー!俺初めて会った、初等科からの子。俺らとは別格って感じ」

― 別にそんな言い方しなくてもいいじゃない。ずっと学習院なのは、別に私だけじゃないのに…。

困惑した恭子は、その場で何も言えなくなってしまう。大学から学習院に入学した多くの学生にとって『初等科から学習院』というのは、どうやら絶大なインパクトを持つようだ。

高等科までは全員が同じ環境だったが、付属の大学入学後に待ち受ける奇妙な“別格”扱い。

恭子は、自分の居場所だったはずの学習院で、居心地の悪さを感じることが増えていくのだった。





入学式から1ヶ月後。

― 何がいいかなぁ…。初めてのバイトだしやっぱりカフェかしら?

「大学に慣れてきたら、世の中を知るためにアルバイトをしてみたら?」

という両親の勧めもあり、恭子はスマホでアルバイトを探し始めたのだった。

そして、大学から離れたあるカフェでアルバイトを始めることになった恭子。しかし、このアルバイト先でも、また“あの”やり取りに遭遇することになるのだった。

「へー!小学校から学習院なんだ!やっぱり皇室の人とお友達なの?」

「すごいお嬢様なんだねー!きっとお金に苦労したことないんでしょ?ってか、アルバイトする必要ある?」

最初の自己紹介では大学名しか言わなかったが、次第に自分のことを話すようになると、初等科から学習院であることも言わざるを得ない。

そうすると、決まってこんな会話になってしまうのだった。

恭子にとっては、初等科から学習院であることは何も特別なことではない。しかし、こう何度も言われると「そんなに自分は人と違うのか」と、意識してしまうようになっていった。

特に、ここは学習院ではなく、様々な大学生が集まるアルバイトの場。だからこそ、この“お嬢様扱い”を、より一層強く感じてしまうのだった。



「新しい子が入ってくれて嬉しいわ!よろしくね!」

バイトを始めてから間もなくして、恭子によく話しかけてくれる紗矢という子がいた。

紗矢は他大学に通う2年生。北関東出身で、1Kのアパートで一人暮らしをしている。

「恭子ちゃん、今度バイトの帰りにご飯食べにいかない?私おいしいお店知っているの!」

1つ年上の紗矢は、次第にバイト帰りに恭子をお茶などに誘ってくるようになった。

しかし、ある日のバイト帰り。

紗矢に連れて行ってもらった店は、お世辞にもキレイとは言えない、古びた構えの店だった。

― えっ…こんなお店で紗矢ちゃんご飯食べるの?

喜々として店内に入る紗矢をよそに、恭子は戸惑いを隠せない。メニューにある値段を見ると、恭子が通うお店に比べて確かに安かった。

下町の定食屋のようなそのお店は、恭子にとって「存在は知っているが、自分は絶対に足を踏み入れることはないだろう」と思っていた場所だったのだ。

「恭子ちゃん、どうかしたの?」

オーダーした後も店内をきょろきょろ見回して落ち着かない恭子に、紗矢はこう尋ねた。

「あっ、ううん。こういうところにあまり来たことがなくて。つい見てしまって…」

― 「こんなお店…」って思っているなんて、とても言えないわ…。

微笑みを絶やさぬよう恭子は答えたが、内心は居心地の悪さを感じていた。正直、早く店から出たいとばかり思っていたのだった。

「このお店ね内装とかはイマイチだけど、安くて助かるの!ほら私、一人暮らしじゃない?料理するといっても、東京は食料品も高いし、光熱費とかもかかるからさぁ…」

「そ、そうね……」

食料品が高いとか、光熱費がいくらかなんて言われても、恭子にはまったくわからないし、そもそも気にしたこともない。

こう話す紗矢に、恭子は返す言葉がなかった。

とにかく、恭子は一方的に紗矢の話を聞きながら、できるだけ早く食事を終わらせて帰ろうと必死になっていた。



― あんなお店に行っても落ち着かないし…。あまり紗矢ちゃんとはご飯行きたくないなぁ…。

この出来事をきっかけに、紗矢から誘いがあっても恭子は適度にはぐらかすようになっていた。

そして、態度の変化を敏感に感じた紗矢は、恭子に嫌がらせを始めるのだった。


紗矢から嫌がらせを受ける恭子。バイト先の店長に相談するが…?

もしかして、私が原因…?


翌月のシフト表が出された日。

「あの…翌月のシフトでご確認したいのですが、ホールは私1人だけなのでしょうか?」

こう尋ねた恭子に、店長は答えた。

「そうなの、他の子がどうしても都合つかないみたいで…。この日は私も入ってサポートするから、ごめんね」

― おかしいなぁ…。この曜日でこの時間なら、紗矢ちゃんとかいるはずなのに。

そう思いながらも、しばらくはやり過ごしていた。しかし、シフトで同じようなことが続いただけでは済まなかった。

恭子のシフト前には重い荷物の補充が残っていたり、休憩の場でも恭子が入ると話を止めたりといったことが、頻繁に起こるようになっていたのだ。

こうなると、恭子もさすがに気がついた。

― 私、もしかして嫌がらせされてる…?

紗矢をはじめ、少し前まで仲良くしてくれていた子たちが、自分を避けるようになっていたのだ。思い悩んだ恭子は、思い切って店長に相談を持ち掛けたのだった。

「あの…ご相談があるのですが…」



恭子の話を一通り聞いた店長は、言いにくそうに話し始めた。

「話してくれてありがとう。嫌な思いをさせていたことは申し訳ないわ。私も薄々気がついていたし、できる範囲では注意もしたのだけれども、故意にやったかどうかわからないものは対応できなくて…」

そして、店長は続けた。

「ただね、紗矢ちゃんたちがしたであろうことは悪いことだけれども、何となく恭子ちゃんを避けたい気持ちもわかるの。

前に恭子ちゃん、紗矢ちゃんのバッグを『角が擦れているし買い替えたら?』って話していたじゃない?でもね、あのバッグは紗矢ちゃんがお母さんに買ってもらった大切なものなの。

特に大学生はお金がなくて節約している子が多いけれど、『そういう苦労は自分には関係ない』っていう雰囲気を恭子ちゃんから感じるのよ。私ですらそう思うから、彼女たちはもっと感じていたんじゃないかしら」

「えっ…」

自分が発した言葉や態度で、紗矢をはじめ周りの人を傷つけているとは夢にも思わなかった。

しかし、もちろん悪意はなかったとはいえ、恭子のさりげない言葉1つ1つが確実に紗矢の心を傷つけていたのだった。

そして、店長までもが恭子の態度について苦言を呈している。紗矢たちの非を認めた上で、店長がここまで言うというのは、つまり「恭子の発言は思慮が足りない」と言いたかったのだろう。

― 私、別にそんなつもりじゃなかったのに…。

その日のバイトに入った恭子だったが、頭の中は店長との会話のことで一杯になっていた。



夏休みに短期留学をすることにした恭子は、紗矢たちとの気まずさもあり、ほどなくしてそのカフェのバイトは辞めることにした。

もちろん、紗矢ともそれっきりだった。

しかし、恭子は頭のどこかでいつもあの出来事を振り返るようになっていた。

― 私には、意識せずに人のコンプレックスを刺激していたところがあったんだわ…。

店長からの言葉は、自分の思慮の至らなさと世間知らずを指摘され、とても耳が痛いものだった。

裕福な環境で育ち、嫉妬という感情と無関係で生きてきた恭子にとって、自分の言動が思わぬかたちで人を傷つけかねないということを、思い知らされた出来事だったのだ。



『初等科から学習院』

この自分の育ちを変えることはできない。

しかし、ありきたりな言葉だが、世の中には様々な人がいる。

学習院育ちであろうが何だろうが、人間関係における思慮と配慮の大切さは不変だ。

自分が発した言葉や態度で誰かを傷つけることがないよう、最大限に周りを尊重しなければならない―そんなことを、恭子はあの出来事で学んだのだった。


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