女にとって、経験豊富な年上男性は魅力的に映る。

だが、その魅力ゆえこだわりの強いタイプが多く、女は年を重ねていくうちに気づくのだ。

― 頑張って彼に合わせるの、もうしんどい…。

年上ばかり選んできた女が、自然体でいられる相手は一体どんなタイプの男なのだろうか?

これは、アラサー独身女がこれまでの恋愛観をアップデートする物語。

◆これまでのあらすじ

12歳年下の彼氏・颯とこじれてしまい、別れた多佳子。年上だけでなく、年下の相手ともうまくいかなかった彼女は、同年代の男友達からも手厳しい言葉を投げかけられてしまう…。

▶前回:「問題があるのは彼氏じゃなくて自分」男友達からの厳しい恋のアドバイスに、アラサー女が思ったコト



Vol.13 年上でも年下でもない、私に合う相手って…


日曜日の13時。

皇居の緑を望むことができるパレスホテル東京の『ザ パレス ラウンジ』に到着すると、1通のLINEが届いた。

『ごめん、10分遅れる!何か飲んで待ってて』

待ち合わせの相手は、一樹だ。

彼と会うのは、2ヶ月ぶり。黒木さんと美智子の結婚祝いの食事会以降、顔を見ていなかった。

一樹から彼女ができたと聞かされると、これまでみたいに気軽に誘うのはよくないと思うようになったからだ。

それもあって、昨日の夜。彼から急に誘われたときは、断ろうとしたのだけれど「ランチをおごるから」という言葉につられて、しぶしぶOKしてしまった。

「あ、すみません!グリーンルイボスティーをお願いします」

先に到着した私は、ドリンクメニューに希少性の高いグリーンルイボスティーを見つけると、迷うことなくオーダーして一樹を待った。

― それにしても一樹って、こんなに秘密主義だった?今日だって、どうせ彼女にドタキャンされたか何かでしょ!あー、のろけ話とかだったら聞きたくないなあ…。

一樹と彼女のことを考えると、自分でもよくわからないけれど…モヤモヤする。

飲み物がテーブルに届くまでの間。大きな窓に目を向けて、外を眺めながらこんなふうに考えていると、突然、私の顔の前に紙袋が差し出された。

驚いて持ち主のほうへ視線を移すと、そこには疲れた顔をした一樹が立っていた。

「ちょっ…一樹?」


疲れた顔の一樹に驚く多佳子。彼が憔悴している理由とは…?

待ち合わせのときは「10分遅れる」と言いつつも、いつもその少し前にやって来る一樹。だが、この日は珍しく、予定時間の15分後に現れた。

手には、遅刻のお詫びに買ってきたという『スイーツ&デリ』のチョコレートが入った紙袋。

さりげなくフォローを入れるところは、昔から変わらない。

「多佳子、ごめん!遅くなって」
「ううん、全然!それより、一樹…何かあったの?疲れてるんじゃない?」

目の下には、三日月形の濃いクマ。それに、顔も少しやつれて見える。その憔悴した姿に驚いた私は、一樹が席に座るや否や、彼の分のコーヒーをオーダーして矢継ぎ早に話を聞いた。

「ん?ああ、ちょっと仕事が忙しくて…」

一樹は、何か相談したいことがあると、指先で眉をかくクセがある。

「仕事ねえ、ふーん。本当は、それだけじゃないんでしょ?」
「…多佳子には隠せないな。いや、彼女がさ…なかなかすごいんだ。この間も、言い合いになって」

聞くと、交際4ヶ月になる5つ年下の彼女は、一樹と同じ会社で働いているらしい。

事の発端は、ある日の終業後。

同僚から彼女のInstagramの存在を知らされて、それを見てひどく驚いたのだという。

「俺と撮った写真とか、俺が見切れた写真とか…俺の部屋や小物の写真を勝手にあげてたんだよね。あと、自撮りなんかも毎日してるみたいで…。あ、最近っぽい加工したやつね。いや、自撮りは別に…いいんだけどさ」

ここまで一気に話すと、一樹は両手で顔を覆いながら「はあ…」と大きなため息を漏らしたのだった。



Instagramのアカウントは持っているものの、投稿は一切しない一樹。

はやりものにはあまり手を出さない古風なタイプで、そんなところも私たちは似ている。それに、私も颯のInstagramにはいろいろと悩まされた。だから、一樹のため息の理由はよくわかる。

「そ、それは…なかなかの彼女だね。それで、けんかしちゃったんだ?」

「うん。俺さ、自分のことは載せないでくれって言ったんだ。そうしたら彼女から『やましいことがあるんでしょ?』って。怒りだしたと思ったら、泣いちゃって大変だったよ」

さらには、そのけんかの翌日。

彼女は自分の同僚に一部始終を話したらしく、一樹は遊び人だという根も葉もない噂を社内に広められてしまったのだという。

「それって、一樹は悪くないでしょ!?」

あまりにも一方的で、自分勝手な彼女の行動にいら立った私は、語気をつい強めてしまった。

一樹も同じことを思っていたのか、私の次の言葉を待つような視線を投げかけてくる。

「それで、一樹はその彼女とどうしたいの?これからも付き合い続けるの?…無理でしょ」

「うーん、ここから関係を立て直すのは難しいかもしれないな。社内にいるときのまわりからの視線は痛いし、参ったよ」

彼の前に置かれたローストビーフサンドウィッチは、手つかずのまま食パンから水分が飛んでパサパサになっている。

いつもだったら真っ先に食べ終える一樹なのに、食欲がないだなんて本当に参っているのだろう。

「もう1回言うけど、一樹は悪くないよ!変な噂なんか気にしないで、堂々としていれば、みんなそのうち気にしなくなるから。今日はご馳走するっ!だから、元気出して」

「そうだといいんだけどな。でも、多佳子がズバズバ言ってくれて、スッキリしたよ。よし、食べるか!」

そう言って、軽めのランチを済ませた一樹は、ほんの少しだけ元気を取り戻したように見えたのだった。



その1週間後。

『多佳子、今週ご飯に行こう』

文末に笑顔の絵文字が3個もついた、妙に明るい一樹からのLINE。そこには、こんな続きがあった。

『俺、彼女と別れた。やっぱり、多佳子といるのが一番落ち着くよ』

― ちょっと、それって…。“友達として”って意味…だよね?


一樹の思わせぶりな言葉に、多佳子は…

一樹が予約したのは、乃木坂駅に程近い高級鮨店。

グルメサイトにもよく取り上げられている人気店で、なかなか予約が取れないことでも有名だ。

「多佳子、お疲れ!よし、じゃあビールからいくか!乾杯っ」
「うん、乾杯!一樹、元気になったみたいだね。安心したよ」

カウンター8席の落ち着いた空間では、絶妙なタイミングでつまみや握りが提供される。それに合う日本酒がまた名酒ぞろいで、一樹も私も上機嫌で飲み進めていく。

すると、少し酔った一樹が、私のことをジッと見つめてこんなことを言い出した。

「前、多佳子に“まずは自分がどうなのか見つめ直せ”とか偉そうなこと言ったけど…。俺も、人のこと言えないな」
「あー、あれね。痛烈だったけど、言ってくれたのが一樹でよかったよ」

「俺たちがこれから付き合う相手ってさ、価値観が合うとか一緒にいて居心地がいいとか、そういう人がいいんだろうな。多佳子と俺みたいな…」

「えっ?それって、どういう…?」



一樹の口から出た、予期せぬ言葉。

が、しかし、かすかに動揺する私とは反対に、一樹は何てことない顔をして、大将と楽しげに世間話を始めた。

― これってやっぱり、一樹は私のことを…?

大将から手渡しされたプリプリの白子の握りをうっかり落としそうになりながらも、私は一樹から目を逸らすことができずにいた。

そこで、ふとこんなことを思った。

確かに一樹とは、ツボにはまる話題や食べ物の好み、お酒を飲むペース、行きたい場所がピタリと合う。

ここ最近、私たちを悩ませたSNSとの付き合い方だって、考え方が似ているおかげで変な勘繰りや余計な心配をする必要がなくていいだろう。

もちろん、私たちが長年の友達だから分かり合えていることも多いのだけれど、これは“同年代”ならではの不思議なしっくり感とでもいうのかもしれない。

一樹となら、気を張ることがなく、肩の力を抜いて自然体でいられるのだ。

お互いに、さまざまな年代・職種の相手と付き合ってきた末に、最終的にたどり着いたのがここなのではないか、とも思う。

改めて、一樹の顔をじっくり見つめると、バチッと目が合った。

― あっ、もしかしたら…私も。

そして、隣に座る彼にこう切り出した。

「ねえ、もし、私たちが付き合ったらどんな感じなのかな?」
「えっ…?」

日本酒のせいだけではない上気した顔の一樹を見て、私は次に付き合うのは彼しかいない…。

いや、彼を逃がしたらいけない…と思ったのだった。

Fin.


▶前回:「問題があるのは相手じゃなくて自分」男友達からの手厳しい言葉に、アラサー女は…