「結婚するなら、ハイスペックな男性がいい」

そう考える婚活女子は多い。

だが、苦労してハイスペック男性と付き合えたとしても、それは決してゴールではない。

幸せな結婚をするためには、彼の本性と向き合わなければならないのだ。

これは交際3ヶ月目にして、ハイスペ彼氏がダメ男だと気づいた女たちの物語。

▶前回:彼氏と初めてのお泊まり。翌朝、目を覚ますとベッドから彼の姿が忽然と消えていて…?



Episode 4:花音(28歳・アパレル会社勤務)の場合


「花音ちゃん、この前菜…とても美味しいわ!」

私が去年の母の誕生日に予約したレストランは、表参道にある『レストラン カシータ』。

色鮮やかで創作性の高い本格イタリアンが楽しめるとあって、よく利用しているレストランだ。

この日のコースは、炙り真鯛の前菜と空豆のリゾット、しらすのパスタ、メインの牛フィレ肉にデザート。そのどれもが、味覚だけでなく視覚も楽しませてくれる。

元客室乗務員でテーブルマナー講師の資格を持つ母も、美しい姿勢と所作ですべての料理を完食した。

そんな満足げな母に、私もすっかり嬉しい気持ちになったところで、用意していたプレゼントを差し出す。

「はい、これ!お誕生日おめでとう!」
「あら、嬉しい!開けてもいい?」

半年前から、ポーセラーツ教室に通い始めて忙しいという母に贈ったのは、ルイ・ヴィトンの手帳「アジェンダ・ビューロー」だ。

「ありがとう、これでスケジュール管理はバッチリね。ところで花音ちゃん、今ってお付き合いしている相手はいないのよね?」

母はプレゼントを丁寧にしまうと、唐突にこんな質問を投げかけてきた。


母から恋人の有無を確認された28歳の花音…その真意は?

「彼氏は…いないけど。お母さん、いきなりどうしたの?」
「それなら、花音ちゃんに紹介したい人がいるのよ。もし、興味があったらでいいんだけどね」

母からこんなことを言われたのは、28年間で初めてだ。だから、私は突然の質問に動揺しながらも、この話に興味を持った。

「どんな人?お母さんの知り合い?」
「ううん、ポーセラーツ教室で仲良くなった人の息子さんなのよ。お父様が建築会社を経営されていて、そこで役員として働いているんだって。年齢は、確か30歳って言ってたかしら」

聞くと、その彼は1年前に彼女と別れたきり、浮いた話がないのだそうだ。

私も、彼氏いない歴1年半。そろそろ、婚活に本腰を入れようと思っていたところだった。それに、親からの紹介なら安心という気もした。

「うーん、会ってみようかな」
「じゃあ、早速お友達に連絡してみるわね」

こんないきさつで出会ったのが、健斗だった。



待ち合わせ場所は、母親たちが通うポーセラーツ教室に近い銀座のカフェ。4人で簡単なあいさつを交わし、それから別のテーブルに分かれて健斗と2人で話をすることになった。

「花音さん、すみません。うちの母親が勝手に盛り上がっちゃったみたいで」
「いえ、それを言うなら私の母もです。だけど、教室で親しい友人ができたって言って、最近すごく楽しそうにしていて。私も一緒に嬉しくなっちゃって」

私がそう言うと、健斗は切れ長で知的そうな目元を緩めて微笑む。その表情は、優しそうな彼の母親とよく似ていて、好印象だった。

― 雰囲気が柔らかい人。お母さんもほんわかした感じだし、ふたりは仲がいいんだろうなあ。

昔から、恋人よりも両親との祝い事を優先するところがある私は、付き合う相手にも家族を大切にしていてほしいと思っている。健斗は、まさにそんな人だと感じた。

そして、その日は彼とLINEを交換して別れた。2度目のデートの約束は、何度かのメッセージのやり取りのあと、すぐに決まった。

ふたりの共通の知り合いは、お互いの母親のみ。それもあってか、彼からは母の面白い話や失敗談などを聞かされることが多かったが、どれも微笑ましい。

彼から交際を申し込まれたのは、4回目のデートの帰り道。私は、素敵な相手との出会いに心の中で感謝しながらOKしたのだった。





初めて健斗の部屋に呼ばれたのは、交際が始まってから1ヶ月たったころだった。

彼は家業に就いているが、大学卒業と同時に永福にある実家を出てからずっと、池尻で一人暮らしをしているという。部屋のリビングは、壁一面が本棚になっていて、建築家の作品集や写真集がずらりと並んでいた。

「すごい、こんなにたくさん…!?」

私が圧倒されていると、彼がコーヒーを運んできた。

「花音ちゃん、コーヒーは飲めるんだよね?」
「うん、好きだよ!ありがとう」

「よかった、うちの母親はコーヒー飲めなくてさ。家や職場でたまに一緒にお茶するときなんか、別の飲み物を用意するのがちょっと面倒なんだよね」
「そう…なんだ?」

健斗の母親に対する物言いがとげとげしく、違和感を覚えた私は何となく目線を下げる。すると、キッチンのシンクの下に保冷バッグが放置されているのが目に留まった。

「健斗くん、その保冷バッグって、出しっぱなしで大丈夫なの?」

私がこう質問すると、彼から返ってきたのは衝撃的な言葉だった。


母親想いの素敵な彼氏…だと思っていたのに?

「保冷バッグ?ああ、これ。母親が夜ご飯にって、たまに持たせてくれるんだ」

健斗は保冷バッグをヒョイッと持ち上げると、中を見もせずに、そのままゴミ箱の方へと持っていく。

「待って!それ、いつもらったの?」

母親が作ってくれた料理をないがしろにする彼に、私は思わず声を荒らげてしまった。

「確か、3日くらい前かな。ここに置いたままだったから、もう食べられないでしょ?え?花音ちゃん、お腹空いてた?」
「そうじゃなくて!だって、それ、お母さんがせっかく…」

だが、このときは疲れていて、うっかり置きっぱなしにしてしまったという健斗の言葉を信じたのだった。

それから2週間後。

彼の家を訪れた私は、またしてもキッチンに置かれた保冷バッグを目にした。それも、3個も無造作に置いてある。

「健斗くん、これ…」
「そうだ、片付けなくちゃ!夕食なんて、外で済ませるからいいのに。もう、作らなくていいって言ってるんだけど、どうしたらやめてくれるんだろうね?」

小さくため息をついたあと。健斗は、おもむろにスマホを手に取ると、電話口でこう言った。

「もしもし、母さん?僕だけど、あのさ、もうご飯とかわざわざ作らなくていいから」

― そんな言い方って…。健斗くんって、お母さんに冷たくない?

そういえば、初めて会ったときも、その次のデートのときも、母親の話はするけれど、褒めたり感謝したりはしていなかった。それを、照れ隠しか、一種の愛情表現なのかと思っていた私は、大きな勘違いをしていたのかもしれない。



数日後。

仕事を終えた私は、三田にある実家に立ち寄った。

胸にチリチリと焼きついた違和感を相談したのは、母だった。

「健斗くんって、あちらのお母さんと仲良くないのかな?冷たいっていうか、対応が雑っていうか」
「そう?そんな話は聞いたことなかったわ。だけど、親子っていっても生い立ちや関係性はそれぞれだし、難しいところよね」

「うん。それと、男性が母親に取る態度は、将来の妻に取る態度と同じ…って聞いたことがあって。これから先のことを考えると、彼とのお付き合いがちょっと不安になっちゃった」

「それも一概には言えないわよ。けど、どうするかは花音が決めなさい。お母さんやお友達のことは、何も気にする必要はないからね」

母と話して少し気が楽になったのも、つかの間。母の日の前に、健斗とデートをしたときだ。



「健斗くん、お母さんには何をプレゼントするの?」

カーネーションのイラストや写真とともに、“母の日”と書かれた看板が街中で見られる時期に、彼から返ってきた言葉はこうだった。

「母に?どうして?」
「次の日曜日って、母の日だよ」
「そうだっけ?」

さらに健斗は、淡々と付け加えた。

「母の日にプレゼントだなんて、小学生のころにしかしたことないな!僕は、特に何もしないよ」
「でも、母の日って、お母さんに敬意とか感謝を伝える大事な日じゃない?」

「うーん、今は一緒に暮らしてるわけでもないし、改めて感謝っていうほどのこともないしな。花音ちゃんは、お母さん、お母さんってよく言うけど、僕がそんなふうに言ってベタベタしてたら嫌でしょ?ははは」

軽い感じで言い放った彼に、私は決定打を放たれた気がした。

「私、自分の母親のことが大好きなの。もちろん、父親もなんだけど。家族の優先順位ってすごく高いんだ。だから、健斗くんがそんなふうに言うのって、ちょっと悲しい気持ちになる…」

「いや別に、母親が嫌いって言ってるわけじゃないよ!…それより、今日のランチ楽しみだね」

すでに食事を楽しむどころではなかったけれど、向かいの席に座る彼に、私はもう一度聞いてみることにした。

「ねえ、健斗くん。気づいてると思うけど、私、家族の記念日とかにはうるさいし、こだわるよ。それって面倒くさい?」
「…それは花音ちゃんの自由だし、僕が何もしなくてもいいなら口は出さないよ」

これが、交際3ヶ月目の出来事だった。

その日の夜。昼のモヤモヤした感情が晴れない私は、彼に素直な自分の気持ちを伝えるためにLINEを送ったのだった。

花音:ごめんなさい。価値観の違いがあるのは仕方ないって分かってるけど、大事な人へのプレゼントを選ぶ横で、健斗くんが無関心だったり、退屈そうにしたりしてるのってちょっと耐えられない…。私たち、別れよう。

健斗:僕も家族は大事だと思ってるけど、花音ちゃんとは温度差があるかもしれないね。分かった、今までありがとう。

後日。

母から、私がプレゼントした『BRUNO』のホットプレートでパエリアを作った写真が送られてきた。

母:次はきっと、花音ちゃんに合う相手が見つかるわよ。そのときは、みんなで一緒にプレート料理でも食べましょう。

母の言う通りそうなったらいいな、と私もしみじみ思うのだった。


▶前回:彼氏と初めてのお泊まり。翌朝、目を覚ますとベッドから彼の姿が忽然と消えていて…?

▶1話目はこちら:「今どのくらい貯金してる?」彼氏の本性が現れた交際3ヶ月目の出来事

▶NEXT:6月2日 木曜更新予定
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