「可愛いのに、どうして結婚できないんだろうね?」

そんなふうにささやかれる女性が、東京の婚活市場にはあふれている。

彼女たちは若さにおごらず、日々ダイエットや美容に勤しみ、もちろん仕事にも手を抜かない。

男性からのウケはいいはずなのに、なぜか結婚にはたどりつかないのだ。

でも男性が最終的に“NG”を出すのには、必ず理由があるはず―。その理由を探っていこう。

▶前回:彼の女友達に対して、思わず…。人を批判することでしか承認欲求を満たせない28歳女



Vol.11 咲良29歳。サステナブルな女です。


「すみません、紙じゃなくてプラスチックのストローあります?」

大混雑の土曜日の渋谷。

映画を見たあとに寄ったカフェで、彼氏の慎吾が言う。

私たちは、期間限定のフラペチーノを注文したのだが、そこで彼はストローの変更を申し出たのだ。

「あ、すみません。そのままで大丈夫です!」

私は慌てて、それを断った。

それを聞いた彼は、その場では何も言わなかったが、飲み物を受け取ると私に問いただした。

「なんで?紙のストローってふにゃふにゃになるじゃん。咲良、飲むのが遅いから気を利かせたのに」
「それはありがとう、でも、それって時代に反してるよ!SDGs、日本は遅れているんだから」
「あ、そう」

慎吾は、苦笑いしながら私にストローを向けて冷たいフラペチーノを飲ませてくれた。

― わかる。プラスチックのストローの方が飲みやすいよね。

でも、私がこんなふうにエコを叫ぶのにはワケがあるのだ。

なんとなく駅に向かって歩いていると、慎吾が言う。

「夕飯どうしようか?道玄坂にある焼肉屋さん知ってる?」
「あ。もしかして!ずっと行きたがってたとこ?」
「そうそう。咲良、ホルモンの気分ではない?」
「ううん、食べたい!控えめに言って最高だよ」

私は、わざと大げさに喜び、慎吾の手を取って逆方向に歩き出した。


食事後、咲良の家に泊まることにした慎吾が見た、異様な光景とは…

彼は、都内のテレビ局に勤めている。

年収は恐らく1,000万円もないし、都心での一人暮らしはお金がかかるのも知っている。

だから、デートで行くお店はカジュアルなところが多いが、私は彼が大好きなので気にならなかった。

それに、お金持ちすぎると色々不安が付きまとう。

お金のある男はモテるし、女性への理想も高い。だから、浮気に使うお金だって十分にある。

だから私は、慎吾くらいの“同年代よりちょっと多めに稼いでるくらい”がベストなのだ。



― 次に付き合う子とは、別れたくないんだよね。

彼が以前、そんなふうに言っていたことを思い出す。

別れ話をするのも、新しい出会いを探すのも、“その労力が無駄だ”と。

その考えに賛同した私は、彼と結婚前提で付き合うことにしたのだ。



「あ〜、おなかいっぱい」

食事を終えた私たちは、渋谷から近い池尻大橋の私の家へ一緒に帰ることにした。

「人気店なのに、運良く入れてよかったよね。あ、咲良の家に僕の部屋着あったかな?」
「う〜ん…うん!たぶん、この前着たやつがあるはず」

私が自覚している唯一の短所は、面倒くさがりでズボラなところだ。

彼氏が使った部屋着をすぐに洗濯するのを怠ってしまうし、自分のパジャマも平気で3〜4日は着る。

でも、それは見方を変えれば、エコだ。

洗濯の回数を減らすことで、洗剤が下水に流れる量を減らせるのだから。

そうやって、私はこの性格をうまく変換している。

彼が担当しているテレビ番組では、たびたび環境問題やSDGsについて取り上げている。だから、エコを気にしている私の習慣も慎吾は理解してくれるはずだ。

もちろん、ただズボラなだけなのだけれど。

「おじゃましま〜す」

家に着くと、慎吾はトイレに向かった。

私は、その間に、彼が以前泊まった時に貸した部屋着に消臭スプレーをかけ、急いで綺麗にたたみ直した。

「よし、これで大丈夫」

疲れた私は、そのままベッドに横になった。

いつもならこのまま寝落ちしてしまいそうだが、今日はメイクもちゃんと落としシャワーも浴びなければ…。



そんなことを思っていたら、いつの間にか寝てしまった。

そして、気づくと、お風呂上がりの慎吾が隣にいた。

「気持ちよさそうに寝てたから。バスルーム借りてたよ。部屋着もありがとう」
「あ、うん」
「咲良、服のままベッドで寝るのはやめな?今日は焼肉屋さん行ったんだし、シーツに臭いがついちゃうよ」

慎吾に言われ、私は慌ててベッドから下りた。

ここは自分の家なのだから、本来は何をしても自由だ。だけど、将来一緒になることを考えるのなら、そういうわけにもいかない。

「じゃ、私もお風呂入ってきます〜!」

私は逃げるようにバスルームへ向かった。

そして、ドアにかかっているバスタオルを眺め、一瞬考える。

― これ、使ったの昨日だっけ。一昨日だっけ…?

「まあいいや」

私は、それを使うことにしてシャワーを浴びた。



実家では、母が毎回バスタオルを洗ってくれていた。しかし、一人暮らしだと洗濯機を回すのは週に1回。

そうなると、一度だけ使ったタオルを洗うのはもったいないという感覚になってしまうのだ。

― これって、普通じゃないのかな…。

一人暮らしが長いと、もはやマイルールが常識になっている。

だから、誰かに指摘されない限り、それがおかしいと気づけないのだ。

髪をさっと乾かし、慎吾がいる寝室に戻ると、彼がなぜか神妙な面持ちでこちらを見ていた。

「どうしたの?」
「…ごめん。俺、やっぱり咲良とは無理かもしれない。別れてくれないかな」
「えっ!?急になんで。私、何かした?」

すると彼は、重たい口を開いた。


咲良は、なんとか別れを逃れようとするが…

咲良との結婚を躊躇してしまう理由〜慎吾の場合〜


半乾きの髪の咲良が、目の前で呆然と立っている。

僕がいきなり別れを告げたから、そうなるのは当然だろう。しかし、感情的に言っているわけでは、もちろんない。

「咲良、とりあえず座って」
「…うん」

何度言っても、寝る前にキチンと髪を乾かさないのは、まだ可愛い。

特に夏はドライヤーが暑い。咲良は髪が長いし、途中でやめたくなるのは、仕方がないだろう。



しかし、それ以上に咲良に対して許せないところがたくさんあった。

「どうしたの?言ってくれなきゃ、わからないよ」
「…このシーツ、汚れているの気づいてるよね」
「う、うん……。でも週に何回も洗濯したら、エコじゃないでしょ」

咲良は、どう考えても苦し紛れな言い訳をする。その感覚が無理なのだ。俺が嫌だと思うことを、彼女は全く気にしていないことが。

確か、先週泊まりに来た時にも、シーツの同じところに汚れがついていた。

エコだのSDGsだの言う前に、まずはそのズボラな性格を顧みて身の回りのことをちゃんとしてほしいのに…。

「わかった。これから気をつける。だから…」

咲良の目には、うっすら涙が見える。

「はぁ…泣かないでよ」



彼女とは、友達の紹介で出会った。

明るくて元気でポジティブ。人の悪口を言わない素敵な子。というのが最初の印象で、そこからどんどん惹かれていった。

見た目も可愛らしいし、一緒にいるのは楽しい。

でも、生活スタイルというか、特に衛生面で無理だと思うことがたくさん出てきたのだ。

今僕が着ている部屋着も、咲良が洗濯していないことは、すぐにわかった。



「僕らが将来結婚して一緒に住むとしよう。その場合、僕が洗濯と掃除を担当することになるだろうね。じゃあ、料理は?咲良できる?」
「やるよ!やればできるもん!!」

そう咲良は答えたが、彼女は普段料理をしない。

家事は得意な人がやればいい。そういう考えの人もいるだろう。でも、それだとほとんどの家事を僕がやることになる。

「そっか。あとは?シンクに使ったお皿やグラスがずっとあるのも、咲良は気にならない?Amazonのダンボールがずっと玄関にあるのも…言い始めたらキリがないよ」
「そんな…」
「あと、僕は毎回バスタオルを替えたいし、シーツや枕カバーも頻繁に洗濯したい。その方が単純に気持ちいいから」

咲良と結婚生活を送ることになったら、彼女に気になるところを伝えて、生活スタイルを僕に合わせてもらい、料理も習ってもらおうとも考えた。

しかし、そんなことをしたら、彼女は疲れてしまうし、きっと長くは続かないだろう。

ということは、僕が毎日洗濯をして、片付けをして掃除機をかけ、ゴミをまとめて捨てに行く。仕事終わりにスーパーに寄り、夕食を作り、食器を洗う。

それを毎日すべて僕がやるのかと思ったら、鳥肌が立った。

「女の子なのに、いろいろ言ってごめんね」

僕は泣き出してしまった咲良をなだめながら、早く自分の部屋の清潔なシーツのベッドで寝たいと思ってしまったのだった―。


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