「あの子…フツーじゃない!」

そんな風に言われる女たちが、あなたの周りにもいませんか?

― どうしても、あれが欲しい…

― もっと、私を見て欲しい…

― 絶対にこうなりたい…!

溢れ出る欲望を抑えられなくなったとき、人間はときにモンスターと化すのです。

東京にひしめくモンスターたち。

とどまることを知らない欲望の果て、女たちが成り果てた姿とは──?



早い女


「あ、男もう1人増えるかも。早紀ちゃん、あと1人女の子呼べる?」

ブルーのスーツに身を包んだツーブロックヘアの男が、早紀にそう言った。

今しがた仕事が終わった同僚あたりが、「今から飲めないか」と連絡でもしてきたのだろう。もしくは不発だった食事会かデートを抜け出してきたのかもしれない。

金曜日、23時。ここは麻布十番。ツーブロック男の自宅で、“ホームパーティー”という名のお食事会。

よくある風景だろう。…ここまでは。


おもむろにスマホを取り出した早紀は、慣れた手付きで誰かにLINEを打ち始めると、間を置かずに答える。

「捕まった、すぐ来るって」

「お、仕事早いね。さすが早紀ちゃん」

「まあね」

早紀は、得意げな表情を男に投げかけた。

しかし…。

しばらくして男から視線が逸れたことを確認すると、今度は女性陣に視線を投げかける。

何かを共有するように、目配せする女たち。

口角は、微かに吊り上がる。

意味ありげなその視線は、強固な線となり、女たちの結束を固めているようにも見える。

早紀が呼んだ女は、一体何者なのか──。


「お待たせしました〜」
「え…」

『女の子あと1人呼べる?』とオーダーしたツーブロック男が、1番にその様子に驚いた。

早紀が彼女を呼んでから登場するまで、実に5分もかかっていないのだ。15分前に頼んだUberより早い。

「随分早かったねぇ…」
「偶然近くにいたので♡」

夜23時だというのに髪はふんわりと綺麗に巻かれており、今お風呂からあがったかのようなシャンプーの香りがする。

男ウケするニット素材のノースリーブワンピースに、高すぎないヒール…。メイクもばっちりだ。

“男ウケ”や“モテ”的な意味では百点満点であろうスタイルで登場した彼女に、男たちのテンションは上がり、その場は大いに盛り上がった。

しかし、夜中1時。

気がつけば彼女は、忽然と姿を消していたのだ。





麻布十番のホームパーティーから姿を消した夏美は、西麻布にいた。

先ほどまで履いていた綺麗なヒールは、NIKEのエアフォースに履き替えられている。

西麻布交差点を六本木方面に少し上がった辺りで立ち止まると、うっすらとかいた汗を入念にふき取り、水を大量に摂取する。

鏡をチェックし、その場で化粧直し。

そして、カバンから先ほどのヒールを取り出し、エアフォースから履き替え…

再び完璧な姿へと戻った夏美は、次に呼ばれた会へと参戦するのだった。





夏美は、今年で28歳になる。

去年まで、大学時代から交際していた弁護士の恋人がいた。しかし、28歳の誕生日前に破局。

当たり前に結婚すると思っていた恋人から、突然別れを告げられてしまった夏美の焦りは、尋常ではなかった。

優しくてかっこいい、弁護士の旦那さん。当たり前に手に入ると思っていた人を失ったのだから。

そして、そう簡単にそんな人とお付き合いできるわけじゃないという実情を、別れて初めて知った。


それからというもの、夏美は呼ばれればいつだろうとどこだろうと、ハイスペックな男性がいそうな場に飛んで来るようになった。

どんなチャンスも逃さないために…。

けれど、1つ困りごとが生じたのだ。

夏美が住んでいるのは高円寺。夜遅く、例えば今日みたいに23時すぎに六本木に来いと言われても困ってしまう。

化粧して、着替えて、電車で行ったら24時を過ぎる。連絡を受けた時のテンションと変わってしまっている可能性もある。到着してすぐにお開きになるのも嫌だ。

それに、「この時間にわざわざ高円寺から来たの!?」とドン引かれたことも多々ある。

出会うことに必死であるのは事実だけど、そうは見られたくない…。

引かれることなく、より長く、ハイスペックな男性と多くの時間を過ごしたい。ちゃんと自分の魅力を知ってほしい。

でも、都心に引っ越すほどの資金力はない…。

そこで、夏美は考えたのだ。

急に呼ばれてもすぐに参戦できるよう、六本木あたりで待機していよう、と。それも、完璧な姿で。

木曜から土曜、毎日終電まで。終電後の会に呼ばれたとしても、始発まで待てばいい。

「近くで友達と飲んでて、ちょうど解散したとこだったの〜」

そんなセリフとともに登場すれば、なんら不自然はない。

誰にも呼ばれることがなければ、小綺麗にして六本木をただうろつくだけの女と化してしまうけれど、そんなリスクを負ってでも、夏美は少しのチャンスも逃したくなかった。

そして、夏美の行動は徐々にエスカレートしていった。

またとない機会にお呼ばれしたとしても、タクシーが捕まらないことも多々ある。そんな機会ロスを失くすため、スニーカーを常備した。

ちょっとの距離なら、スニーカーに履き替えダッシュした方が早い。高校時代の陸上部の血が騒ぐ。


夜中に誘っても絶対に来るという圧倒的な信頼と実績から、多くの飲み会に声がかかるようになった。

そして、驚異的な返信の速さとその異様な登場スピードで、夏美は界隈で有名な“出会い厨モンスター”と化したのだった。

夏美の登場スピードは、そこにいる男性がハイスペックであればあるほど加速度的に爆速化する…。



週末の港区。

夜な夜な、綺麗な出で立ちで走る女性を目にしたら、それは次の戦場へと向かう彼女かもしれない──。


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