「彼って…私のこと、どう思っているんだろう」

連絡は取り合うし、ときにはデートだってする。

自分が、相手にとっての特別な存在だと感じることさえあるのに、“付き合おう”のひと言が出てこないのはどうして?

これは、片想い中の女性にとっては、少し残酷な物語。

イマイチ煮え切らない男性の実態を、暴いていこう。

▶前回:「この手、まさか…?」残業を理由にデートを断った夜。女がSNSで見つけた、衝撃の写真



外見がタイプって言ってきたのは、そっちなのに…(晴佳・33歳の場合)


「今回も、ナチュラルな平行眉にしてください。眉頭の毛流れはいかして…」

仕事終わりの19時。

私は、銀座にある行きつけの眉毛サロンで、鏡とにらみ合っていた。

「このあと、まつエクのお直しもできたりします?」

目尻のまつげエクステのカールが緩くなってきているのが、どうも気になったのだ。

この部分がクルンと上がっているのと、そうでないのとでは、目の大きさがまるで違って見える。

そこで、上には140本のCカール。下には、40本のJカールのエクステをつけ直してもらった。

カーキブラウンのエクステは、自然なのにあか抜けた印象になっていい感じだ。気分もグッと上向きになる。

その翌日は、ヘアサロンで、カットとトリートメント。

お風呂上がりには、人気のアナウンサー兼タレントも使っているという美容液を肌に吸い込ませる。使い始めてもうすぐ1ヶ月。肌が滑らかになり、メイクのノリもいい。

― 完ぺきね。

こうして臨んだ、航太との5回目のデート。

待ち合わせをしたイタリアンレストランにやってくるなり、彼は満足げな表情で言った。

「晴佳ちゃん、今日もすごくきれいだね」

食事の最中も、ずっと頬を緩めて楽しそうにしていて、何度も熱い視線を向けてくる。

「晴佳ちゃんみたいなきれいな人と食事ができるなんて、最高に贅沢な時間だよ」

だが、食事を済ませて店を出たあと。まだ21時前だというのに、私はひとりで家路についていた。

今日こそは告白されるに違いないと、期待していたのに―。

しかも、この日を境に、航太からの連絡はパタッと途絶えてしまったのだ。

私は、このデートで、彼に嫌われるようなことでもしたのだろうか…。


航太とは、友人・真依の紹介で出会った。

真依:晴佳のこと、紹介してほしいって人がいるんだけど。会ってみない?
晴佳:ほんと!?真依の友達?どんな人?

前の彼氏と別れてから、1年。これといった出会いもないまま、30代も折り返し地点に近づいてきていた私は、焦っていた。

航太の情報を前のめりに聞き出そうとしたのは、そのせいだ。

航太は、真依が前に勤めていた会社の1つ上の先輩だという。34歳のウェブデザイナーで、品川在住。彼女は2年近くいないそうだ。

真依:私のインスタに載ってる晴佳の写真を見て、会ってみたいって言ってるんだ!

深掘って聞いてみると、航太は有名なデザインの賞を取ったこともある、優秀な人物だということもわかった。

晴佳:私もぜひ会ってみたい!

さっそく次の週、食事会がセッティングされたのだった。



「先輩、こちらが晴佳です」
「晴佳さん、今日はありがとうございます。僕が航太で、彼は同僚です」

懐石料理店『乃木坂 しん』の座敷に通されると、航太ともう1人の男性がすでに到着していた。

私と晴佳は、あいさつを済ませてから席に着く。

次々と運ばれてくる美しい椀やお造り、海と山の幸が鮮やかに盛り付けられた八寸。テーブルも会話も、徐々に盛り上がる。

「この“はちすん”、食べるのがもったいないくらいですね」
「ちょっと、晴佳!“はちすん”じゃなくて、“はっすん”だから」

言い間違いは恥ずかしかったが、航太はそんな私を微笑ましそうに眺めていたからホッとした。

「ところで、晴佳さんはどんな男性がタイプですか?」
「う〜ん、マメな人…ですかね。航太さんは?」

彼は、短く整えられたひげに触れながら、ほんの一瞬考え込むとこう答えた。

「好奇心がある人、かな!外見は、晴佳さんがまさにタイプです」

ストレートに外見を褒められ、照れてうつむく。すると航太はすかさずLINEのQRコードを表示して見せてきた。

「よかったら、今度2人で食事に行きませんか?」

私の理想どおり、航太は連絡がマメ。週に1回は、食事に誘ってくれる。

お店選びは航太がしてくれて、そのどれもがラグジュアリーで雰囲気のいい、大人のデートにふさわしいレストランばかり。

そんな素敵な空間で「今日もきれいだ」とか「素敵だ」とか褒められると、すっかりその気になってしまうのだった。



4回目のデートで、初めて昼から会った。

航太が、よく行くという美術館に連れて行ってもらったのだ。

彼は、時おり小声で絵画の説明をしてくれるのだけれど、唐突に距離を縮められると緊張で体がこわばる。

しかも、美術館の中は、思いのほか暑い。ゆっくりと歩いているだけなのに、じんわりと汗がにじんでくる。間違いなく、メイクが崩れていると思った。

だからといって、ここで鏡を出すのは気が引ける。

そこで、私はバッグからスマホを取り出し、画面が鏡になるアプリを立ち上げて、こっそりとメイクをチェックしたのだった。

やっとの思いで化粧室に駆けこむことができたのは、30分後。

入念にメイク直しをしてから、にこやかに待つ航太のもとへ戻ったのだが、なぜかこの日は食事もせずあっさりと解散する流れになった。

5回目のデートの連絡がきたのは、しばらくたってからだった。



デート当日。

前のデートから少し間が空いたのをいいことに、眉毛サロンに通い、まつげエクステもつけ直した。

ヘアサロンにも行き、毎日のスキンケアにもいつも以上に力を入れた。

この日のために買ったくすみピンクのニットのセットアップも、控えめに言ってよく似合っている。ボディラインが上品に強調されるところも、露骨でなくていい。

イタリアンレストランの窓際の席に向かい合って座ると、航太はいつものように“すごくきれいだ”と言ってくれた。

ふとした沈黙のときでさえ、熱い視線を向けてくる。

告白されるなら、今日に違いない―。そんな空気が、2人のあいだには流れていた。

ところが次の瞬間、彼が口にしたのは予期せぬ質問だった。


「晴佳ちゃんは、ネットニュースとかよく見るほう?」
「えっ?」

これまでの甘い空気は、どこへやら―。

航太は、いきなり真面目な話題を振ってきた。

「僕、仕事柄いろいろなサイトを見るんだよね。今って、時事系のサイトもオシャレになってるんだよ」
「そ、そうなんだ」

突然の展開に顔がこわばる。

「参考までに、晴佳ちゃんは普段どんなサイトを見るのかなって」
「…私は、サロンのサイトが多いかな」
「そうか。じゃあ、読書は好き?」

航太は、笑顔を崩さずにそう聞いた。

「えーっと…」
「活字だけっていうのが逆に、想像力を掻きたてられると思わない?」
「あの…私、あまり本読まないんだよね。ネットドラマなら、たまに見るけど」



告白こそなかったものの、またひとつお互いを知り合うことができて満足していたのは、私だけだったのだろうか。

晴佳:今日はありがとう。また、ご飯いこうね。
航太:こちらこそ、ありがとう!

それっきり、航太から連絡が来なくなってしまった。

私には、フェードアウトされてしまった理由がまったくわからない。

デートのために、こんなにも自分磨きを頑張ってきた。そもそも、見た目がタイプだと言って近づいてきたのは、彼のほうなのに―。

一体なにがいけなかったのか。

今、私はその理由を、真依を通して聞いてみようか迷っているところだ。



外見だけで選んだ自分が悪い(航太・34歳の場合)


仕事が早く終わった日の夜。

僕は、1ヶ月ぶりにInstagramを開いた。

目にとまったのは、1年前に退社した後輩・真依の投稿。そこには、“きれい”と“かわいい”の絶妙なバランスを保った美女が写っていた。

僕は、勢いのままに真依に連絡をすると、運よくすぐに彼女を紹介してもらえることになった。

それが、晴佳だ。

パッチリとした大きな目に、透明感のある肌。ツヤツヤとした髪は、写真で見るよりも何倍も美しく、吸い込まれるようだった。

八寸のことを“はちすん”と言い間違えて、顔を赤くしている姿もたまらなかった。

すっかり彼女に心を奪われた僕は、積極的にデートに誘ってみたのだが―。

わりと早い段階で、ちょっとした違和感を覚える。

― どうにも会話が盛り上がらないな…。

レストランで食事をしているときは、料理やお酒の力もあって、そこまで気にならない。

けれど、昼間に美術館へ行ったのが決定的だった。

晴佳は、静かに僕のうんちくを聞いてくれていると思っていたのだが、鞄の中からスマホを取り出し、画面に自分の姿を映して見入っていたのだ。

どこか上の空で、何回も…。

これには、そんなに退屈だったのかとガッカリした。

しかも、そのあと彼女は、化粧室に行ったきり、20分も戻ってこなかった。

僕は、具合が悪かったのか?と本気で心配した。だから、彼女がメイクを完璧に直して戻ってきたときは、あきれてそのまま解散しようと言ってしまった。

それでも、いざ晴佳を前にすると、どストライクな外見につい頬が緩んでしまう。

これではいけない―。そう思った僕は、最後にもう一度だけ彼女をデートに誘ってみた。

外見のことばかりに触れてきた自分が悪かったのだと、いつもより少しだけかしこまった話題を振ってみる。

が、撃沈。

会話はまったく盛り上がらなかった。

よく「美人は3日で…」というが、今まで僕はそうは思っていなかった。

ただ、晴佳の場合は、自分の外見にこだわりすぎるあまり、いろいろなことが見えていないように思えてならない。

盛り上がろうにも盛り上がれないと、もはや諦めるような気持ちになる。

外見だけで彼女を選んでおきながら、こんなことは言いたくないのだが…。

どうしても、晴佳のことを次のデートに誘う気にはなれずにいるのだ。


▶前回:「この手、まさか…?」残業を理由にデートを断った夜。女がSNSで見つけた、衝撃の写真

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