「あの子…フツーじゃない!」

そんな風に言われる女たちが、あなたの周りにもいませんか?

― どうしても、あれが欲しい…

― もっと、私を見て欲しい…

― 絶対にこうなりたい…!

溢れ出る欲望を抑えられなくなったとき、人間はときにモンスターと化すのです。

東京にひしめくモンスターたち。

とどまることを知らない欲望の果て、女たちが成り果てた姿とは──?

▶前回:「もしもし、御社の斎藤さんですが…」友人の会社に電話する女は、ある密告をして…



マッチする女


<はじめまして、真由子と申します!>
<マッチありがとうございます〜、健二っていいます。よろしく〜>
<健二さん、普段休みの日は何されるんですか?>
<僕は飲み行ったり、映画が好きなので家でひたすらネトフリ見たり。真由子ちゃんは?>

「あ〜!!!疲れたっ!」

真由子はスマホを投げ出し、ベッドにダイブした。

マッチングアプリでひたすら条件に合う男性にイイねをし、メッセージを送る。その骨の折れる単純作業に疲れ切ってしまったようだ。

真由子は今年で33歳、絶賛・婚活中。ちなみに、マッチングアプリ歴6年の玄人だ。

なかなか可愛らしい見た目をしているし、スタイルだって悪くない。大手企業でシステムエンジニアとして働き、コミュニケーション能力も高い。

ちゃんと、モテる。

しかし、実は彼氏いない歴=年齢。

理由はシンプル。めちゃくちゃ理想が高いのだ。

理想の年収は3,000万、身長も175以上がマスト、顔だってかっこいい人がいい。

そういう人たちは競争率が高いということも頭ではわかっている。年齢が上がるにつれ、自分が不利になることも…。

けれど、真由子はどうしても諦められないのだ。

フカフカのベッドに身体を埋め、終わりのない婚活地獄に心が折れそうになっていた、そのとき──。

真由子は、いいことを思い付いたのだ。




真由子にとって、マッチングアプリは願ってもないツールだった。

だって、東京中の男をフィルターにかけ、条件に合致する男性を一覧で見ることができるのだから。

これをリアルでやるなんて、とても無理な話。

コロナ禍という情勢もあいまって、マッチングアプリが主流になったのはとてもありがたい流れだったのだが…。

いくらやり方が効率化されようと、結局は人対人だ。

オンライン上でも、超高条件の男性とはなかなかマッチしない。メッセージを送っても返ってこない。返ってきたと思っても続かない。会う約束が取り付けられない!

結局、恋愛に苦労することには変わりなかった結果、真由子はひらめいたのだ。



3ヶ月後、真由子はるんるんとした表情でマッチングアプリを開く。

<はじめまして、真由子と申します!>
<マッチありがとうございます〜、誠っていいます。よろしく〜>

今までと違い、超高条件の男性たちとすいすいと連絡がつく。スムーズにアポが取り付けられる。

<マッチありがとうございます、真由子と申します!>
<智司っていいます。よろしくです!真由子さんは、どの辺りに住んでるんですか?>

気が早いようだが、婚活の出口が見え始めた気がしていた。



実は真由子、マッチングアプリを自分で開発したのだ。

『ハイスぺ美女と出会える、マッチングアプリ』

そう題したマッチングアプリをリリースし、かなりの予算を投下して、広告も回した。

そして、ハイスペック男性の登録者を募ったのだ。

ポイントは、ここ。登録者は男性だけ。

アプリ上では女性の登録者もたくさんいるように見せかけているが、実はそのすべてが真由子なのだ。

写真はネットから拝借してきたものも多々ある。

会ってみて、写真とまったくの別人だとバレて、引かれてしまうかもしれない。けれど普通にやっていたら、真由子の求めるハイスペック男性とはそもそも中々マッチしない。メッセージが続かない。会えない。

どんな人間関係も、結局はリアルで会わなければ始まらない。

オンライン上ではピンとこなくても、写真と違っても、実際に会ってみたら、自分をいいと思ってくれるかもしれない。

その一縷の可能性に託し、とにかく条件に合致する男性と一人でも多く会うチャンスを作るべきだと考えたのだ。

そのためには、市場に自分しかいないマッチングアプリを自分でつくるしかない。魅力的にみせて、より条件のよい男性を募るしかない。

そうひらめいたが吉日、真由子は速攻でアプリ開発に着手したのだ。



今日は、はじめて自分が開発したアプリでマッチした男性と会う。

アプリの登録審査時に提出してもらった運転免許証で本名ももう知っている。Facebookで調べて、大学も会社もわかっている。

彼の肩書が本物であるということは裏どりできているのだ。

― さぁ、あとは私の魅力をわかってもらえればいいだけ。

真由子は、喜々として待ち合わせ場所へと向かっていた。しかし、そのとき不思議なものを目にする。

なにやら片手に紙を持ち、全力疾走する男性。と、それを追いかける女性とすれ違った。

なんとも異様な光景だった。

「あの女の人、なんかすごい顔してる…」

少しの間呆然とその様子を眺めていた真由子だったが、すぐに気を取り直し、彼との待ち合わせ場所へと急ぐ。

彼女もまた、元気で明るい婚活モンスターだったのだ。



モンスターは思いがけないところに、潜んでいるもの。

そして、ひょんなきっかけで、人は知らぬ間にモンスターと化すのです。

もしかしたら、明日にはあなたも…。



Fin.


▶前回:「もしもし、御社の斎藤さんですが…」友人の会社に電話する女は、ある密告をして…

▶1話目はこちら:15分前に頼んだUberより早く、食事会に駆け付ける女。彼女のまさかの移動手段とは…