高いステータスを持つ者の代名詞の1つともいえる、都内の高級タワーマンション。

港区エリアを中心とした都心には、今もなお数々の“超高級タワマン”が建設され続けているが…。

では果たして、どんな人たちがその部屋に住んでいるのだろうか?

婚活中のOL・美月(28)と、バリキャリライフを楽しむアリス(28)。2人が見た“東京タワマン族”のリアルとは…?

▶前回:気になる彼との初デート。食事を終えて店の外に出た直後、男が放ったまさかの一言は…



美月「ここはホテル…?」


2月にしては、珍しく暖かい日曜だった。雲1つない清々しい青空を見上げながら、大学時代の同級生である里香から送られてきた住所を目指す。

指定されたのは、青山一丁目駅から程近いタワマンだった。

これぞ、まさに成功者の証とでも言うのだろうか。優美な曲線を描いた美しい外観はデザイン性に優れていて、部屋の窓もとてつもなく大きい。

「ここ、だよね?」
「うん…」

会員制のレストランかのような、一見どこから入るのかわからないエントランス。アリスと私は思わず、ピンと背筋を伸ばしてしまった。

今までいくつかのタワマンへ行ったけれど、その中でも特に緊張感あふれる空気に包まれる。深呼吸をしてから、私はエントランスにあるインターホンを押した。

中に入ってからも想像通りのハイセンスさに圧倒されながら、エレベーターホールを抜ける。

もう一度インターホンを押してからようやく辿り着いたその先には、まるでホテルのような豪華な部屋が広がっていた。


Case3:青山一丁目、超豪邸タワマン夫婦の実態


「いらっしゃーい♡」

すぐにハイブランドだとわかるような、大きなロゴ入りのニットを着た里香が笑顔で迎え入れてくれる。けれども私たちは、部屋の奥に広がる圧巻の眺望に息をのんだ。

「すごい…」
「これ、お家?」

これまで見てきたタワマンとは、別格だった。

赤坂方面から六本木方面までグルリと見渡せる、大きな窓。大理石のリビングルームは、もはや外資系高級ホテルのスイートルーム以上だ。

言葉を失ってその場に突っ立っていると、隣でアリスが私の腕を揺さぶる。

「さすがだわ…。ここ調べたんだけど、分譲で5億以上するみたい」
「ご、5億以上!?」

東京には、どうしてこんなにすごいお金持ちたちが集まっているのだろうか。

数々の経営者にも出会ってきたけれど、5億もする家をポンと買える強者はたしかに存在する。

その事実を突きつけられ、家賃18万の賃貸に住んでいる今の自分が悲しくなってきた。



「いい眺めでしょ?そういえば馴染みのお鮨屋さんに、特別にランチを用意してもらったの。2人はお酒飲めるよね?せっかくだから白ワインでも飲もうよ」

そう言う里香の横には、これまた豪勢なダイニングテーブルが鎮座している。その上には、かの有名なお鮨屋さんのテイクアウトランチが並んでいた。

「このお店って、テイクアウトやってくれるの!?」
「うーん、どうなんだろう?まあ大将や女将さんと仲良しだから、オーダー受けてくれたのかもしれないな」

さも当然かのように言い放つ彼女に、私たちは返す言葉もなかった。

里香はもともと、華やかで目立つ子だったのだ。

学生時代からずっと年上の彼氏が絶えないような子で、くりくりっとした大きな瞳に小ぶりな唇。そして華奢なのに胸だけは大きくて「そりゃモテるよね」と皆から言われていた。



とりあえず勧められるがまま椅子に座らせてもらうと、彼女が大きなワインセラーから高そうなワインを取り出して開けてくれた。

「里香すごいね」
「うん、すごいよ。正真正銘のセレブだね」

しかし興奮気味の私とアリスとは対照的に、彼女は平然としている。

「そう?この景色も毎日見てたら当たり前になってきて、飽きてくるよ」
「なんて贅沢な…」

そんな会話をしながらしばらくして、私はふと気がついた。

そういえば、旦那さんの姿がない。今日は日曜なのに、もしかしたら私たちのために遠慮して家をあけてくれたのだろうか。

「そういえば旦那さんは?もしかして、私たちご迷惑だった…?」

すると先ほどまでニコニコ笑っていた里香の表情が、急にシャッターを下ろしたかのように冷たくなった。

「知らない。どうせ、どっかほかの女の家にでも行ってんじゃない?」


「えっ…?」
「最近顔も合わせてないから、知らない」

これ以上突っ込むなと言わんばかりの里香の態度に、私もアリスも黙り込む。

聞きたいことは山ほどある。けれど人のプライベートにズカズカと土足で踏み込むような真似をするほど、私たちもバカではない。

「そっか。…ねぇ、このワイン美味しいね!どこの?」
「美味しいよね、これ」
「最近、里香は何してるの?元気だった?」
「元気だよ〜。とは言っても専業主婦みたいなもんだから、何もしてないけど」

そう言い放つ彼女の左手薬指には、最低でも3カラットはありそうなとんでもなく大きいダイヤが。そして腕にはハイブランドの時計が輝いている。

正直、羨ましいという思いしかない。



「いいなぁ…。こんな素敵な家で悠々自適な暮らしができて。本当に憧れちゃうよ」
「最高だよ〜。早く美月も結婚して、こっち側においでよ」
「そ、そうだね…」

どう返事をしたらいいのか、わからなくなってきた。彼女のことは羨ましいと思うし、こんな生活ができるならば人生最高だ。

でもさっきから、里香がどこか寂しそうに見えるのは気のせいだろうか。

「里香、今の旦那さんと結婚できて幸せ?」

アリスの急なツッコミに、私は慌てふためく。

「ちょっとアリス、どうしたの突然」

しかし里香は、いつものようにニッコリと微笑みながらこう言ったのだ。

「うん、幸せだよ」



この後は結局3人でワインを2本空け、里香にマンション内も案内してもらったのだが…。共用部分もちゃんと期待を裏切らなかった。

プールやジャグジーはハイセンスな美しさとスケールで、ここに住めば一歩も外に出たくなくなるだろう。

「ここなんて滅多に使わないんだけど。というか、初めて来たかも」

そう言いながら案内してくれたラウンジスペース。「ここで仕事ができたら最高だな…」なんて思いながら、もう一度里香の部屋に戻り、少しお茶をしてからタワマンを後にした。

先ほどまで晴れていたのに、いつの間にか日が暮れ始めている。すると急に風が冷たく感じ、私は思わず身震いをした。

「里香、すごいね。こんな暮らししてるなんて」
「そうだね…」

2人して黙り込んで、もう一度下からタワマンを見上げてみる。東京の空に向かって緩やかな曲線を描きながら、悠々と佇む姿は惚れ惚れするほど美しい。

「ちなみに賃貸だと、月120万くらいだね」
「120万か…。さすがです」

ここまでの生活レベルになると、自力ではもう無理なことは目に見えている。

宝くじを当てるとか、株で大当たりするとか。もしくは信じられないくらい稼ぐ男性を捕まえるか…。“人生大逆転”が起きない限り、このレベルは無理だろう。

都内でもほんの一握りの人しか住めない、タワマンという夢の城。

でもそこに住んでいる人々にはそれぞれの生活があって、ドラマがある。抱えている悩みも違うだろう。

先日の赤坂タワマン男に出会って感じたこととは、また違った気づきを得たタワマン訪問だった。


▶前回:気になる彼との初デート。食事を終えて店の外に出た直後、男が放ったまさかの一言は…

▶1話目はこちら:気になる彼の家で、キッチンを使おうとして…。お呼ばれした女がとった、NG行動とは

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六本木のシンボル的存在!?元祖・港区タワマン族