東京では今日も、男女の間にあらゆるトラブルが発生している。なかには解決が難しい、不可解な事件も…。

そんな事件を鮮やかに解決してSNSを賑わせている、ある1人の男がいた―。

彼の名は光城タツヤ。職業は、探偵。

今日彼のもとにやってきたのは、気になる女性と音信不通になってしまった男だ。

あなたも、この事件の謎を一緒に考えてくれないだろうか…?

▶前回:飲み会の最中、上司のスマホを勝手にチェックし始める女。そのとき画面に映っていたものは…



「どう考えてもこの子、俺のこと気になってるよな?なのに2週間経っても連絡が来なくて。なんでだと思う?今からもう1回、LINEしようかと思ってるんだけどさ」

神楽坂にあるビストロ『deux feuilles』で、同僚の中村斗真や後輩の女子社員・田原夏希と飲んでいた僕。

酔って饒舌になった中村は、LINE相手である野乃花さんについて事細かに話し始める。

僕は話を聞きながら、トーク履歴にザッと目を通した。そして、このメッセージに隠された“2つの脈ナシサイン”に気づいてしまったのだ。

「中村、この女性のことは諦めたほうがイイよ」

「えぇ、なんで?メッセージにハートもついてるじゃん」

「…よくあることだよ」

僕がLINEのトーク画面を見つめながら顎に手をやると、田原が大きな目でジッとこちらを見つめてきた。

「えっ、何?」

「なんか竜也先輩、探偵みたいだな〜って」

彼女は含みのある言い方でそうつぶやくと、横にあった焼きたてのバゲットに手を伸ばした。

― いけない。今は商社マンとしての“僕”だった。

つい、恋愛探偵・光城タツヤとしての顔が出そうになる。

「え〜!竜也、推理してくれよ!出世頭のお前の意見が聞きたいよ、このLINEのどこか脈ナシなのか」

3杯目のワインを飲み干し、顔を赤らめた中村が言う。そして彼らに乗せられた僕はつい、ペラペラと語ってしまったのだった。


20代で結婚したい女・野乃花(28歳)


「かんぱーい!」

金曜日の20時。

私は婚活仲間の女子4人と、六本木ヒルズにある『RIGOLETTO BAR AND GRILL』に来ていた。目の前には、白ワインを片手に微笑む4人の男性。いずれも競合である大手商社のエリート社員たちだ。

「野乃花ちゃん、よろしくね。俺は中村。中村斗真」

「あっ、よろしくお願いします」

中村と名乗ったその男性は白い歯を輝かせながら、しきりに私のグラスを見て「足りてる?」と、ワインをつぎ足してきた。



― お酒はあんまり強くないって言ったのにな。

「あ、ありがとうございます…」

お酒が回り出したのか頬を赤くしている彼は、作り笑いを浮かべる私に気づかず甘い言葉をささやく。

「ほんと、笑顔が素敵だよね。野乃花ちゃんに毎朝迎えてもらえる岡本商事の社員が羨ましいな〜」

― この人、私のこと気に入ってる?

直感的にそう思った。

その後、中村さんと連絡先を交換。食事会が終わると、いつものようにすぐLINEを開いた。

すると2人の男性から、デートのお誘いが来ていたのだ。

1人目は、先週の食事会で会ったゴルフが趣味の高橋さん。2人目は先々週の食事会で知り合った、ハルキストの村川さん。…そう、私は絶賛婚活中だ。

― ああ、高山さんはダメだったか…。でも、落ち込んでる暇はないよね!30歳までに結婚するんだから!

残念ながら、数日前にデートをした高山さんからの返信はなかった。私にとって彼が大本命だけれど、実は3日前から連絡が途絶えている。

仕方なく、さっき知り合ったばかりの中村さんのアイコンをクリックした。そして彼の名前を「ホワイトニング中村」に変更し、LINEを送信する。

たくさんの男性と同時に会っている私。だから連絡先を登録するときには、すぐ思い出せるようにそれぞれの特徴を名前と一緒に書いているのだ。

― 中村さん、歯が白すぎてイマイチ話の内容が頭に入って来なかったんだよなあ。

だけど大手商社に勤めている彼だから、もう一度ゆっくり話はしてみたい。そう思い“いつもの定型文”を送信してみたのだった。



すると、すぐに返信が来た。1通は中村さん。…そしてもう1通は、大本命の高山さんからだった。

― えっ、高山さんからデートのお誘い来た!しかも2人とも、同じ日を提案してきたんだけど…。

私は迷いなく、高山さんとの約束を取り付けた。中村さんには「スケジュールを確認します」と連絡を入れて…。

もし高山さんがダメだったとき、中村さんには私から連絡すればいい。いわゆる“補欠要員”だった。


光城タツヤの推理を聞いて…


僕の推理。…というよりかは妄想を聞いた中村は、机に突っ伏したまま言葉を失っていた。

「いや、ツラすぎる。ホワイトニング中村って…」

「ごめん、妄想が膨らみすぎた。でも最初のお礼LINEは汎用性のある文面だし『スケジュール確認します』は、そのまま脈ナシサインだから。好きな人には代案を出すはず」

「中村さん、こんなの恋愛初級編ですよ?…この恋愛映画でも観て、勉強したらどうです?」

そう言って田原は、バーキンから1枚の資料を取り出した。それはうちの会社が出資しているアニメ映画の、北米向け配信事業についての企画書だ。

「あぁ。これ、俺観てないんだよな〜。竜也はこの映画観た?おっ、映画評論家の推薦コメントもある。この人好きだな〜」

ペラペラと資料をめくりながら、中村は青木ルミのコメントを指差した。

「俺は観てない。…正しくは、観る予定だったけど観られなかっただけどな」

「もしかして映画デート、ドタキャンされたとか?イケメンエリートの竜也に限ってそんなこと、あるわけないか〜。…はぁ、眠くなってきたな」





30分後。

「うわぁ、全然起きないな…。そろそろ帰ろうか。お〜い中村」

中村は机に顔を突っ伏して居眠りをしたまま、起きる気配がない。

「田原は先に帰りな。…恋人も心配するだろうし」

すると僕の言葉に、コートを羽織ろうとしていた田原の手がピタリと止まった。そして先ほどの資料を再び取り出し、青木ルミを指差したのだ。

「美人映画評論家の青木ルミ、ストーカー被害に遭う前に恋愛探偵に救ってもらったって、この前ネットニュースになってました」

「…そうなんだ」

僕は平静を装いながら、会計伝票に視線を落とす。

「私も、この前助けてもらったんです。恋愛探偵に。…いや、竜也先輩に」

「えっ…?」

「先輩って、恋愛探偵の光城タツヤですよね?」


▶前回:飲み会の最中、上司のスマホを勝手にチェックし始める女。そのとき画面に映っていたものは…

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