恋人や結婚相手を探す手段として浸透した「マッチングアプリ」。

接点のない人とオンラインで簡単につながることができる。

そう、出会うまでは早い。だけど…その先の恋愛までもが簡単になったわけじゃない。

理想と現実のギャップに苦しんだり、気になった相手に好かれなかったり――。

私の、僕の、どこがダメだったのだろうか?その答えを探しにいこう。

▶前回:「他の女性の存在を完璧に無くした部屋なのに…」5回目のデートの後、女が何もせずに帰ったワケ



Episode07【Q】:西田 恵子(28)
いつかはインスタの収入だけで生活したい


「誠治くん!食事中に話してた、代々木上原のビストロいつ行く?」

神楽坂でのディナーを終え、私はデート相手の誠治に聞いた。

彼とはこれで3回目のデートだが、今日のお店は最高だった。

きっと、誠治も私のことが気になっている。

そうじゃなきゃ、こんなにいいお店に連れてくるはずがない。そう確信していた。

しかし、彼の発言に私は固まってしまう。

「あ〜、そうだね。そしたらお互い友達誘って行く?2-2。いや、3-3でもいいね」

― えっ…?それって、つまり…。

「そ、そうだね!たまには、そういうのも楽しいかも」

無理やり笑顔を作ったが、彼はこう言い放った。

「ケイちゃんって、どんな人が好き?俺、人脈だけは自慢できるから、任せてよ」

私の精いっぱいの笑顔もむなしく、完全に突き放されてしまったのだった。



『空間デザイナーをしてます。3年前にデザイン会社を立ち上げ、今年は自分が手がけたレストランの経営も行っています。独立してから仕事が忙しくて恋愛どころじゃありませんでした。今は少し余裕が出てきたので、絶賛彼女募集中です!笑。美味しいものを食べに行きましょう』

― ふ〜ん。空間デザイナーね。

誠治に出会ったのは、登録してはやめて…を繰り返していた、マッチングアプリ。

『Kさん、初めまして。船越誠治といいます!よろしく』

― 船越…誠治…っと。

私は、Safariの検索窓に文字を打ち込んだ。

「見〜つけた。株式会社 オーロラヴァース、代表取締役 船越誠治。これね!」

私は、経歴に嘘がないことを確認してから、彼に連絡をした。

『こんにちは。恵子といいます。ケイちゃんって呼んでください^^』

『ふなこし:お返事ありがとう、ケイちゃん。仕事、フリーランスって具体的に何をされてるんですか?』

『恵子:ファッション系のInstagramをしていますよ〜!』

『ふなこし:おぉ、すごい!仲良くなったら、アカウント教えてくださいね』

本当はまだ完全なフリーランスではなく、本業でIT企業の営業事務をしている。

でも結婚したら会社を辞めて、Instagramだけにするつもりだ。

だから嘘じゃないし、自己実現のためにも、早く結婚相手を見つけなければならない。





「わぁすごい〜!私、ウニ大好きなんです〜〜!おいしそうっ」
「僕も好き。喜んでくれてよかった」

誠治との初デートは、期待以上だった。

「お魚が食べたい」とリクエストしたら、荒木町にある『鮨 わたなべ』に連れてきてくれたのだ。

店選びのセンスがいいと、付き合ったあとのデートも安心できる。

私は、「ウニ4種盛り」はもちろん、握りもいくつかスマホで撮影をした。

「へ〜。さすがインスタグラマー。写真撮るのうまいんだね!」

「え〜?そんなことないですよ。被写体が素晴らしいだけです」

そう答えると、誠治は笑った。


― なんだか楽しいし、いい雰囲気…。

お鮨も美味しいし、実物の誠治はアプリにあげていた写真よりもかっこいい。つまり、最高のデートだ。

「恵子ちゃん、また会える?」
「うん。誘ってくれたら嬉しい」

私たちは、自然と敬語をやめていた。

「はい、これ」

二軒目で近くのバーに行った後、誠治はタクシーに乗る私に1万円札を手渡した。

「え!多すぎるよ」
「じゃあ…そのお釣りで今度コーヒーおごって」

― はぁ、優しい。

私は、車内でお鮨の画像をストーリーズにアップしてから、誠治にお礼のLINEを送った。



『価値観が合わない』
『理想が高すぎる』
『僕よりもっといい人がいるよ』

そんなことを言い放ち、私のもとを去った元彼たち。

誠治は優しいし、価値観が合う。

理想的な彼氏ができれば、すべてがうまくいくだろうし、傷ついた心も癒えるはずだ。



翌週の土曜日。

「お待たせ!ごめんね、道が混んでて」
「ううん、大丈夫。席に案内される前でよかったよ」

誠治との二度目のデート。

お昼に会うことにした私たちは、田町のホルモン屋さんで待ち合わせた。

彼が以前から気になっていた店らしい。

かなり並ぶお店だと聞いていたので、私はカフェでひと休みして向かう。この暑い中、誠治はひとりで先に並んでいてくれた。

30℃を超える夏日に炭火で焼くホルモンとビール。最高の組み合わせだ。

私が着くとすぐに店内に案内されたので、ふたりで相談しながらメニューを選んだ。

「すごく美味しそう!」
「絶対うまいでしょ。ケイちゃん、ビールおかわりする?」
「そうだね。ありがとう〜!」



誠治は、網の上のホルモンを嬉しそうに撮影している。

「めちゃくちゃうまそうに撮れたわ」

そう言って、私に画面を見せる姿は少年のようで可愛い。

「本当だ!それ送って」
「うん!!」

オシャレな店内とは言えないが、ホルモンはおいしいし、彼の意外な一面も見られたので、大満足だ。

― この感じだと、次くらいに告白あるかな?

恋愛経験がある大人同士。互いに好意は言わなくてもわかる。

私は、さらりと会計を済ませる彼をジッと見つめながら、ふたりの未来に想いを馳せた。

「誠治くん、次は神楽坂行かない?」
「いいよ。行きたいところある?」

ふたりとも、お腹がはちきれるくらい食べたので、この日はランチだけで解散することにした。

「任せる…けど、和食かなぁ」
「ウニは必須?」
「バレちゃった?お願いしますっ」

笑いながら、誠治は配車アプリで呼んだタクシーに私を乗せてくれた。

― 早く付き合いたいなぁ…。

カジュアルなデートでも、最後まで男らしく対応をしてくれるので、彼への気持ちは大きくなった。

『ふなこし:ここどう?ウニが出てくるか、わからないけど。笑』

誠治が送ってくれたURLは、ずっと行ってみたいと思っていた和食屋さんだった。

『恵子:行きたい〜!ありがとう♡』

私は、彼に対して初めてハートマークを送った。今できる精いっぱいの意思表示だ。

そして迎えた、三度目のデート当日。



神楽坂の石畳を歩いて店に向かう。大人のディナーにぴったりなこの過程に思わず高揚する。

男女の恋が始まるのに、こんなにふさわしい場所が他にあるだろうか。

食事を終えたあと、私たちはなんとなく夜道を歩いた。

もしかしたら、誠治は告白するタイミングを探しているのかもしれない。

そう思うとドキドキした。

「ケイちゃんのインスタ、おすすめに出てきたから見ちゃったよ」

しかし、彼は他の話題ばかり話す。

「え...?」
「知り合いにSNS運用のプロがいるから紹介しようか」

― そんなことよりも、あなたの彼女になりたいです。

心から願ったのに…誠治はトドメに、「次は食事会にしよう」と提案してきた。

これは、遠回しにフラれたのと同じ。

そのあと帰ってから何をしたのか、私は覚えていない。もちろん、連絡もしなかった。

覚えているのは、彼の最後の笑顔だけだ。


▶前回:「他の女性の存在を完璧に無くした部屋なのに…」5回目のデートの後、女が何もせずに帰ったワケ

▶1話目はこちら:狙い目の“新規会員の男”と初デート!途中までは順調だったが…

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SNSが原因!?誠治の心の内とは