男と女は全く別の生き物だ。それゆえに、スレ違いは生まれるもの。

出会い、デート、交際、そして夫婦に至るまで…この世に男と女がいる限り、スレ違いはいつだって起こりうるのだ。

—果たして、あの時どうすればよかったのだろうか?

できなかった答えあわせを、今ここで。

今週のテーマは「ワインバーのデート後、女の態度が豹変した理由は?」という質問。さて、その答えとは?

▶【Q】はこちら:デート帰り。タクシーで「家まで送るよ」と男が言っても、女が家のちょっと前で降りたら…



金曜24時を過ぎて、タクシーに揺られながら私は考える。

「麻布十番の二の橋までお願いします」

隣にいる昌也がそう行き先を告げると、私の顔を覗き込んだ。

「本当に二の橋で大丈夫?家の前まで行くよ?」
「遠回りになっちゃうので、大丈夫です。昌也さんのお家、広尾ですもんね?」
「そうだけど…別に家に上がったりしないから、本当に遠慮なく言ってね」

私より8つ上で40歳、バツなし独身の昌也はいい人だなと思う。大手IT企業に勤めていて、年収は1,000万は余裕で超えているだろう。気遣いもできるし、私に対してとても優しい。

「ありがとうございます。昌也さんって、優しいですね…」

そう言っている間に、タクシーが目的地に着いた。

「ここで大丈夫です!ありがとうございました」

一旦笑顔を保ったまま、私はタクシーを降りる。すっかり寒くなった東京の夜。でも、今日は一段と寒く感じる。


A1:40歳バツなし未婚。それは別に構わない。


8つ年上の昌也と出会ったのは、女友達の洋子に連れて行ってもらった食事会だった。洋子の彼氏である陸斗が連れてきてくれたのが、昌也だった。

「昌也は僕の大学時代からの友人で。本当にいいやつなんだけど、奇跡の独身だから」

そう言って陸斗から紹介された昌也は、線が細くて少し小柄だけれど、清潔感もあるし顔もいい。陸斗の言う通り、とてもいい人そうだった。

「昌也さんは、本当に独身なんですか!?」
「うん、そうだよ」
「こんな素敵な人がまだ独身でいてくれたなんて…」

一見、悪い点が見当たらない昌也。どうして今まで独身なのか、今のところわからない。

「昌也さんは、離婚歴も一度もないんですか?」



何度も確認するのは失礼かとも思ったけれど、最近「独身だ」と偽る既婚者男も多い。だから念のため、確認しておきたかった。

「うん、一度もないよ」
「そうなんですね…。世の中の女性は、見る目がないですね!」

食事が進み、話が進んでも昌也は穏やかで、もっと彼のことを知りたくなる。そしてみんなでもう1軒行くのかと思いきや、2軒目に行く前に幹事の二人は帰ると言う。

「とりあえず、後でLINE繋げるから、あとは勝手に二人でやってね」

残された私と昌也は、互いの顔を見る。

「えっと…この後、どうする?もし時間あれば、もう1軒どうですか?」
「もちろんです!行きましょう!どこか良いお店知っていますか?」
「僕が好きな店で良ければ」

そして昌也が連れて行ってくれたのは、『ウォッカ トニック』だった。



西麻布交差点からすぐの地下にあるお店は雰囲気があって、思わず胸が高鳴る。

「昌也さんって、お洒落ですね。普段からこういう素敵なお店でよく飲まれているんですか?」
「いやいや、全然。普段はもっとカジュアルな店で、ひとりでビール飲んだりしているよ」

最初は少し距離感があったけれど、2軒目ではもう少し昌也の話を聞きたいなと思い、私はたくさん質問を投げかける。

「じゃあ昌也さん、お料理得意なんですか?」

しかし話を聞いているうちに、私は昌也がいまだに独身な理由が見えてきた。

「いや、得意というほどじゃないけど…。ひとり暮らしも長いし、なんでもできるよ。あと料理すると同時に片付けもするから、基本的にキッチンはピカピカかも」
「すごい…家も綺麗なんですか?」
「家も綺麗なほうかなぁ」

昌也の家が綺麗なことが想像できる。

「奥さん、いらないですね(笑)」
「いや、それとこれは別だけど(笑)。でも、ある程度は家事ができる人がいいかな」

― この人、もしかして細かい人なのかな。

そう思った。でも、この時はまだ、昌也の表面的な部分しか見えていなかった…。


A2:一見いい人だけど、思いやりが足りていない…


そしてこの翌々週。昌也が予約してくれていたのは、西麻布交差点近くにあるカウンター席のみの和食店だった。

「ここのお店、全部美味しそうですね」
「うん。何を食べても美味しいよ。とりあえず適当に決めちゃっていいかな?」
「はい、お願いします」

この1軒目では、昌也がお店もメニューも全部決めてくれた。だから私は気がつかなかったのかもしれない。

「桃子ちゃんって、今は彼氏いないんだよね?」
「はい、いないです。昌也さんは?今誰かいらっしゃるんですか?」
「まさか。誰もいないよ!」
「そうなんですね。良かった」

そんな会話をしているうちに食事は終わり、2軒目へ行くことになった。しかし今回も昌也がお店を選ぶのかと思ったけれど、意外にも私のオススメのお店を聞いてきた昌也。

「桃子ちゃん、どこか良いお店知ってる?あればそこへ行こうよ。桃子ちゃんがどこへ行くのか、知りたいな」
「六本木に、よく行くワインバーがあって。そことかどうですか?」
「行こう!」

近くに、行きつけのお店がある。とりあえず私たちはそこへ向かうことになった。



お店に入り、私は顔馴染みの店員さんと軽くキャッチアップをする。昌也は、微笑ましくその様子を見ていた。

「桃子ちゃん、行きつけなんだね」
「行きつけというか、実はオーナーが知り合いで。昌也さん、何飲みますか?」

しかしこの次の発言に、私は椅子から転げ落ちそうになる。

「どうしようかな…ここ、ワインバーか…。実は僕、ワイン弱いんだよね」
「え!?そうなんですか?」

どうして、今このタイミングで言うのだろうか。「ワインバーだ」と、たしかに私は言ったはず…。

「早く言ってくださいよ〜」
「いや、一旦ワインで大丈夫」

― ちょっと待って。“一旦”ってなに?

私の知り合いのお店に来て、この態度はなんなのだろう。もし苦手なら、お店に入る前に言ってほしかった。しかもこれだけでは終わらない。

「なんかすみません…ちなみに、ここつまみも美味しいんですよ!」
「そうなんだ。せっかくだし何か頼もうか。オススメはなんですか?」

そう言って、店員さんにオススメの一品を聞いてオーダーした昌也。しかし頼んだキャロットラペが出てきた途端に、昌也の顔は曇っていく。

「あ…これ、もしかしてレーズン入っているタイプだった?」



「昌也さん、レーズン苦手でした?」
「レーズン、ダメなんだよね…。あとクリームチーズと野菜が混ざっているのもダメで」

一応、ここは私の知り合いのお店だ。私の顔を立てるとか、そういった配慮はできないのだろうか。

「このキャロットラペ、全体的にダメじゃないですか」
「想像していた物と違ったな」
「とりあえず、ワイン飲みましょう!」

店側と昌也との間に立っている私としては、恥ずかしい気持ちと申し訳ない気持ち、両方の気持ちが湧いてきた。

どうして一言、先に言えなかったのだろう。私の知り合いのお店で、もう少し違う言い方はできないのだろうか…。

― この人、こだわりが強いうえに頑固だから独身なんだろうな。

独身が悪いわけではない。

でも、昌也が今まで結婚してこなかった理由も、なんとなくわかる気がする。

一見優しいけれど、実は何も他人のこと…いや、他人が「これを言ったらどう思うかな」とか、相手の気持ちになって何も考えられない。

昌也が失礼な発言をしないかヒヤヒヤしながら飲んだお酒の味は、いつもより美味しくなかった。

この先一緒に過ごすなら、楽しい人がいい。そして自分の知り合いや友達の気持ちも考えられる人がいいなと思った。

早くデートを切り上げたくて、家の前まで送ると言っている昌也に、「二の橋まで」と伝えて私はタクシーを後にした。


▶【Q】はこちら:デート帰り。タクシーで「家まで送るよ」と男が言っても、女が家のちょっと前で降りたら…

▶1話目はこちら:「この男、セコすぎ…!」デートの最後に男が破ってしまった、禁断の掟

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