TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。2月26日(土)の放送では、「大倉集古館」に伺いました。

◆大倉集古館で四季を感じさせる古美術を堪能

今回の舞台は、東京都・港区虎ノ門にある大倉集古館。ここは、大倉財閥の創始者・大倉喜八郎が収集したさまざまなジャンルの古美術品を収蔵・展示するために1902(明治35)年に開館した「大倉美術館」が前身で、1917(大正6)年に財団法人大倉集古館に。

現在の建物は、関東大震災後、1927(昭和2)年に築地本願寺などを手がけた建築家・伊東忠太により造られ、国指定の登録有形文化財となっており、片桐は思わず「すごい建物だな……」と息を吞みます。

同館の学芸員・四宮美帆子さんの案内のもと、大倉集古館へと向かうと、建物の外には大きな灯籠、宇田川藤四郎次重による「灯籠」(江戸時代・1681年)が。

これは、上野の寛永寺にあった徳川将軍の霊廟に奉納されていたもので、さらには銅像、武石弘三郎「大倉鶴彦翁像(喜八郎像)」(1913年)も。なお、「鶴彦」とは喜八郎の号(美術的な書を書いたりするときの署名)です。

片桐が伺った際に行われていたのは、季節の風情を古美術品によって感じることができる展覧会「季節をめぐり、自然と遊ぶ〜花鳥・山水の世界〜」。そこでまずは「初春」を感じられる作品から鑑賞します。

最初に注目したのは「清朝名人便面集珍」(中国/明〜清時代・16〜19世紀)。これは中国・清時代の皇帝の従者が集めた扇のコレクションの一部で、実際に使われていた扇を分解したもの。当時、扇は流行のファッションアイテムで、書や絵が描かれていたそうです。

片桐は、「平面で飾ると面白いですね。形が独特で」とその趣に興味を示します。

李之洪の「梅椿に白頭翁図」(中国/明〜清時代・18世紀)に描かれている梅と椿は中国の花暦で1月初旬に咲く花とされ、つまりまだ寒い時期に咲く花=春を呼ぶ花というイメージで用いられています。さらに、鳥が2羽いますが、これは中国の絵によく描かれる「シロガシラ」で、頭部が白いため老人を表現。それも2匹いるので老夫婦とされ、年老いた両親が実りのある1年で送れますようにという思いが込められているそう。

片桐は「見入っちゃいますね。動きのある感じとか。四角い枠ではないところにうまく配していて」と感心しつつ、さらには「(扇上部の)カーブに合わせた独特な様式。この形の小窓から覗いているような気持ちになりますね」とも。

次に鑑賞したのは、「桜に杉図屏風(右隻)」(桃山時代・16世紀)。タイトルに「桜」、「杉」とあるものの、実際には「檜」や「樫」のような常緑樹が描かれ、桜も青い葉と花が一緒に咲く「山桜」。そして、手前には大きな土の山があり、遠くの木がこちらを覗いているような感が。

一方、対をなす「桜に杉図屏風(左隻)」(桃山時代・16世紀)を見て、片桐は「地面に木の幹が出ていて、だいぶ近い感じがしますね」と両者の違いを指摘。こちらは屏風の左側から右側につれての色合いで、新芽からの時間の経過が表現されており、戦国のおおらかかつダイナミックな気風の右隻に比べ、お花見をしているかのような臨場感があります。

絵画の他に、書も展示され、そのひとつが西郷隆盛(南州)の「梅花の詩」(明治時代・19世紀)。「これは西郷隆盛の字ですか」と目を丸くする片桐。

その内容は、中国の南宋末〜元時代にかけて活躍した楊公遠の詩から抜粋されたもの。当時の人たちは中国の官僚を見習い、書や絵を描いていたそうで、西郷の書は気迫があるものの、角が丸く、どことなく温かみが。鷹揚とした彼の人柄を偲ばせる作品となっています。

◆室町、江戸時代の夏を描いた山水画

続いては「夏」を感じられる作品へ。まずは「夏景山水図」(室町時代・16世紀)。これは小田原・北条氏周辺で活躍した絵師が描いたと言われ、襖絵、もしくは屏風だったものの一部を切り取り、掛け軸にしたものと考えられています。

こうした山水図は、どこを見たらいいのかわからないという方もいますが、そうしたときには人物を探して見るのもひとつの手だとか。早速探してみると「海から上がってくる漁師さんと、奥の家のなかにも(人がいますね)。漫画っぽくて面白い」と片桐。ちなみに、漁師は山水画でよく描かれるモチーフのひとつ。自然を生業とする漁師は、中国の老荘思想の無為自然の思想を体現するような知識人といったイメージがあり、山水図によく描かれているそうです。

一方、書と画がセットになった「五言絶句・山中煎茶図」(江戸時代・1824年)は、書が思想家である頼山陽、画は京焼の陶工で絵師でもある青木木米の手によるもの。2人とも江戸時代の煎茶の世界の中心人物で、ここにもお茶を楽しむ人たちが描かれています。

片桐は、画面中央でお茶を楽しむ人たちを発見し、「お茶の鉄瓶のようなものが描かれていますね」と言っていましたが、それは携帯用の炉で、当時は屋外でお茶を嗜んでいたことが窺えます。

彼らは中国の文人の世界を理想とし、当時最新の流行であった煎茶を楽しみ、コミュニティを築いていたそう。そして、夏には喉が渇けば川の水を汲み、お茶を煎じて飲み、暑くなれば滝などに避暑をし、さらには緑が青々としているところから、これが夏だということがわかります。

◆秋のもの悲しさ、ものの哀れを感じる逸品

「春」、「夏」ときて、次は「秋」を感じられる作品。狩野美信による「打乱箱」(江戸時代・18世紀)には紅白の菊が。この箱は時代によって使い方が異なるそうで、今で言うトレイ、お盆に近いもので、その由来は髪の毛を梳く際に落ちた乱れ髪を入れたからだとか。

表面は煤けてしまっているものの、よく見ると菊の部分は盛り上がり立体的で、なんとも豪華。さらに、裏側には山水画が描かれており「置いたら置いたで気をつかいますね、裏も作品だったら」と心配する片桐でしたが、使った形跡を発見し「こういうところにも贅を究めたということですね」と驚きます。

また、「琵琶」(江戸時代・18〜19世紀)は撥面に牡鹿、女郎花と萩が描かれ、秋の物悲しさを表現。鹿は秋に繁殖期を迎えることから、秋のモチーフと言われ、万葉集の頃から萩と一緒に歌われているそう。

片桐が「この鹿、すごい描き込みがされていますね」と目を見張っていたように、かなり擦れているもののとても美しく、さらには秋の景物とされる鹿の鳴き声が琵琶の音色と共鳴することで、より秋を彷彿とさせるなんともオシャレな作品です。

片桐は「楽器の絵が美術館に飾られるというのはあまりないですよね。しかも、秋がテーマで、琵琶と秋がいい感じ。ものの哀れというか、冬に向かっていく、物悲しい感じが琵琶の音と合っているというか」と感慨深そうに語ります。

なお、こちらの作品は所々破損していますが、修理をすると風合いが損なわれることもあるため、あえてそのままにしてあるそう。文化財の修理は良くて現状維持、修理に用いた溶剤が後々悪影響を及すこともあるため、いたずらに修理するのが良いというわけではないそうです。

大倉集古館で季節を感じる名品の数々を味わった片桐は、「初めて来たんですけど、ビルばかりのなかにポツンと昭和2年の建物があり、中に入った瞬間に絵のなかの世界に入り込むような別世界になる。しかも、並んでいる作品がさまざまな時代のものなので、別世界感覚を味わえましたね。素敵な体験をさせていただきました」と感謝。

そして、「都会のど真ん中で不思議な体験をさせてくれた大倉集古館、素晴らしい!」と絶賛し、時間と空間を超え、季節の風を吹かせる名品の数々に拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「墨蘭図画賛」

大倉集古館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは、「墨蘭図画賛」(1890年)。

「すごい方たちが何人もで書いた作品だというんですが……」と片桐は恐縮していたこの作品は、幕末明治の皇族・有栖川宮熾仁親王、明治時代には政府高官となった三条実美、東久世通禧、壬生基修の4人の合作。1890(明治23)年、純和風会員制高級料亭「紅葉館」での酒の席で描かれたものだとか。お酒が入っていたこともあって、漢詩もオリジナルとは若干違うそうです。

最後はミュージアムショップへ。片桐はメモがぶら下げられる雀と文鳥の置物、さらには「初めて見ました!」とトイレの排水溝カバーにも興味津々。

また、立体物のポストカードを見つけると「これは普賢菩薩の前身ですよね。そして、顔の寄り、背中のキレイな模様が残っている部分、このポストカードは滅多にないですね!」と目を輝かせます。さらには、イチゴ型の鉛筆削りに「これは女の子が喜ぶやつ〜」と興奮しつつ、結局この日は6点、4,928円のお買い上げ。

お会計で「いきましたね……」と苦笑いしつつ、カメラの前では「思ったより安かったと思います」と余裕を見せる片桐にスタッフからは笑いが起きていました。

※開館状況は、大倉集古館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週金曜 21:25〜21:54、毎週日曜 12:00〜12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/