TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週土曜日 11:30〜)。この番組では、多摩美術大学卒業で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。8月14日(土)の放送では、「太田記念美術館」で開催されていた“天気”をテーマにした浮世絵の展覧会に伺いました。

◆浮世絵に数多く描かれる“雨”は絵師の腕の見せどころ

今回の舞台は、東京・渋谷区にある浮世絵専門の美術館「太田記念美術館」。1980年に開館したこちらに展示されているのは、生涯に渡って1万点以上の作品を収集した実業家、五代 太田清藏氏のコレクションです。現在は所蔵数がさらに増え、その数は約1万5,000点。世界有数の規模を誇ります。

ただ、浮世絵というのは非常に退色しやすいため展示できる期間が短く、同館では毎月展示する作品を変えています。そのため、企画展の切り口は多種多彩で、どれも新しい浮世絵の楽しみ方を教えてくれるもの。今回同館で開催されていたのも今までになかった「江戸の天気」がテーマ。片桐は「天気を気にして浮世絵を見たことはあまりない」と期待を寄せます。

学芸員・赤木美智さんの案内のもと、まず片桐が注目したのは葛飾北斎「富嶽三十六景 山下白雨」(1830〜1833年頃)。“白雨”というのは夕立、にわか雨のこと。この作品から北斎の壮大な発想力が感じられるのは、富士山の頂上付近と山麓では異なる天気が描かれているところ。

山頂付近は晴れやかな一方で、山麓に雷があることで大雨を表現しています。この対比が富士山の巨大さ、自然の雄大さを物語っており、デザイン化された雷の赤と背景の黒い雲とのコントラストが大きなインパクトを生み出している、雨を描かずに激しい雨を表現した北斎の傑作です。

こうした“雨”を描いた作品は浮世絵に数多くあり、例えば渓斎英泉「江戸八景 吉原の夜雨」(1843〜1846年)は雨が際立ち、斜めに描くことでその強さを表現しています。

また、薄墨を使って描かれている雨が特徴的な歌川広重「東海道五拾三次之内 庄野 白雨」(1833〜1836年頃)は、雨と坂が対角線になっており、そのおかげで雨の強さが強調され、さらには画中の走っている人々から突然の雨の慌ただしさ、躍動感が出ています。雨というのは形にしづらく、さらには小雨から土砂降り、夕立などさまざまな種類があり、表現がとても難しいそうで、だからこそ絵師としては腕の見せどころだとか。

そして、明治時代になると雨の表現はより多彩になり、小林清親「梅若神社」(1880年頃)は「完全に構図が洋画になりましたね……」と片桐が言うようにこれまでの作品とは一線を画したものに。

これは光と影、光の揺らぎを効果的に用いた「光線画」というもので、雨の線を白抜きで表現し、さらには輪郭がありません。片桐も「だからどこか違う感じがしたのか……輪郭がないからより立体的に見え、ふわっとしている」とその違いに目を丸くしていました。

◆葛飾北斎の“晴れ”…青を使わずに晴天を表現

雨の次は「晴れ」の作品。そこで注目したのは、気持ち良い日本晴れが描かれた葛飾北斎「冨嶽三十六景 江都駿河町三井見世略図」(1830〜1833年頃)。非常に青が鮮やかで、これは当時浮世絵で使われ出した「ベロ藍」というもので、この青と和紙の白で冬の澄んだ空気と晴れた日に見える美しい富士山を表現しています。

一方、同じ北斎でも「絵本隅田川両岸一覧 白髭の翟松 今戸の夕烟」(1801〜1806年)では青を使わずに晴れを表現。そこには赤い夕焼け空が描かれており、左下には瓦を集める人々が。これはその日1日干していた瓦を集めている様子で、この作品が意味しているのは「日中の天気は良かった」ということ。乾かしていた瓦で日中の晴天を表現する、北斎の見事な才気が感じられます。

◆浮世絵で雪景色が多い理由、江戸時代は今より寒かった!?

雨、晴れときて、最後は「雪」。歌川広重「東都名所 日本橋雪中」(1832〜1839年頃)では、そんな雪が降り続けていると思わせる細やかな表現がなされています。例えば、振り続ける雪を表現するために、墨(黒)が吹き付けられていて、色は黒いものの雪が重なって降っているようにも見え、そこから雪が降っていることがわかるというもの。さらには、雪の白と墨の黒、そして水の青の色の対比が大変美しい作品となっています。

雪景色も浮世絵でモチーフとされることが多く、その理由は江戸時代の大半が小氷期と言われる、今よりも寒冷な時代だったためと考えられており、天候の影響から雪景色がたくさん描かれたそうです。また、当時使っていたのは和紙で、雪を表現する際は何も塗らず、素地の色、つまり和紙の色がそのまま雪となります。和紙の風合いは雪の柔らかな質感に似たところもあり、すごく相性が良かったとか。

最後は三連の大きな作品、歌川国貞の「十二月の内 小春 初雪」(1854年)。小春というのは旧暦の10月(現在の11月頃)のことで、これは冬本番の到来を告げる初雪の日のワンシーン。当時の人々の雪との付き合い方がよくわかる味わい深い作品となっています。

というのも、中央の女性は下駄についた雪を取ってもらっており、「雪が(下駄に)ひっかかって歩けないぐらい雪が降っているということ」と片桐。また、その左側には焼き芋屋が描かれており、美しい雪景色とともに江戸の人々が営む日常が描かれているのも浮世絵の魅力です。

この番組でも度々浮世絵は見てきましたが、今回は“天気”をテーマに見るという初の試みに片桐は「人々の営みを表現するときに天気というファクターは重要で、それを絵師たちがうまく利用していると改めて思いましたね」と感想を語ります。さらには、「今は誰の、どの時代の作品かということを見てしまうけど、やっぱり内容を見るときにその作家を超えて楽しめるということでいうと、浮世絵と天気は相性がいいなと思いました」と浮世絵の新たな魅力を発見。「天気で人々のドラマを描く浮世絵師たちの探究心、素晴らしい!」と新たな発見をくれた斬新な企画展に拍手を贈っていました。

◆太田記念美術館のマスコットキャラクターを絶賛!

ストーリーに入らなかった作品から片桐がどうしても紹介したい作品をチョイスする「片桐仁のもう1枚」。今回、片桐が選んだのは歌川国芳「東都名所 両国柳ばし」(1853年)。

「見てくださいよ、この犬たち!」と片桐が指摘するのは、「町犬」と呼ばれる町の人がみんなで飼っていたという犬。「顔が怖すぎるんですよね(笑)」と笑顔を見せつつ、「真っ暗で曇っているけれど、なんかいい季節感が出ている。それがいいんですよね」とこの作品を選んだ理由を説明します。

そして、最後は受付に併設されたミュージアムショップへ。「やっぱり浮世絵と和グッズは合いますね〜」と言いながら商品を物色する片桐。マグネットにポストカード、さらにはシール、手拭い、マスキングテープと見ていくなかで、片桐の目にふと留まったのは「虎子石」。

これは、歌川芳員の「東海道五十三次内 大磯」のなかに描かれている虎の手足が描かれた石のことで、オリジナルを見た片桐は「嘘でしょ!? これは漫画ですね。歌川芳員さんはなかなかいいセンスをされていますね!」と興味津々。しかも、この虎子石は太田記念美術館のマスコットキャラクターになっており、「これは絶対人気が出ますよ!」と絶賛する片桐でした。

※開館状況は、太田記念美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週土曜 11:30〜11:55<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/