TOKYO MX(地上波9ch)のアート番組「わたしの芸術劇場」(毎週金曜日 21:25〜)。この番組は多摩美術大学卒で芸術家としても活躍する俳優・片桐仁が、美術館を“アートを体験できる劇場”と捉え、独自の視点から作品の楽しみ方を紹介します。3月5日(土)の放送では、「佐藤美術館」で注目の現代画家・星美加の世界を堪能しました。

◆次代を担う芸術家を支援する佐藤美術館

今回の舞台は、東京都・新宿区にある佐藤美術館。1990年に開館した同館は、公益財団法人佐藤国際文化育英財団が運営しているため、美術を学ぶ学生たちへの奨学援助事業に注力し、注目の若手作家の個展なども開催しています。

学芸部長の立島惠さんによると、現在は若手作家に返済の必要なしで1ヵ月3万円の奨学金を2年間支給。多くの学生は、絵の具などの具材に使っているそう。

片桐は、同館で開催されていた「星美加展−風の記憶−」へ。

同館の奨学生である星美加は、油絵をベースにさまざまな技法を加え、独自の世界観を紡ぎ出すことを得意とし、イタリアで個展を開くなど注目の若手画家のひとり。今回はそんな彼女の世界を、その技法の変化とともに紐解きます。

まずは、思わず「うまっ! すごいですね!」と片桐から声が漏れ出た「海の記憶」(2008年)。

「後ろの木枠と木、質感の描き分けがすごい」、「古びた木の感じがすごい。この凸凹が」とただただ圧倒される片桐。今作は基本的には油絵で、木枠はアクリル絵の具で少し盛り上げ絵肌を作り、さらに女性の肌は卵と顔料を混ぜて画面に定着させる「テンペラ」という技法を使用。

これは油絵の具発明以前のヨーロッパ絵画の主な描画技法で、レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」もテンペラで描かれています。油絵の具の普及とともに作品数は減りましたが、今なお使われている技法で、そのメリットはキメが細かいため、肌を描く場合や薄塗り部分に最適。今作で星は、薄い油絵の具とテンペラで透明感と深みを際立たせています。

星のように描く場所によって技法を変える作家は他にもいるものの、彼女ほど素材を吟味し、その素材に適した描法で描く人は少ないと立島さん。それを聞いた片桐は「全部油絵の具で描いたらいいんじゃないかと思うけど、それだと星さんのイメージにならないから技法を変えているということですよね」と脱帽。

続いては、「痕跡」(2006年)。これはこの世界と別世界の境界・境目がテーマとなっているそうで、片桐は「一夜にして街から人がいなくなったんですよ。FBIが来て、これは捜査官しか見ていないんですよね。写真は間に合わなかったので。あれはなんだったのか、誰も見ていない。でも、『俺はあの水面が揺れているのを見た』とカイル・マクラクランが言うわけですよ(笑)」と楽しそうにこの作品のストーリーを妄想。

この作品でも、山や森はテンペラによるもの。「透け感がありますよね。そして、この木の描き込み。木の板を貼ったんじゃないかっていうね。それに、この朽ちかけた欄干も巻かれた針金もすごい」と息を吞みます。

そして、「静かな景色のなかでも心がザワザワするというか。やっぱり物語的ですね。素材感も全部はっきりわかるけど、トータルで見ると幻想的に見える。その辺はこの画力とセットで魅力なんだなと思いますね」と感慨深そうにその印象を語ります。

◆古典的な画法に加え、最新の科学技術も導入

描く対象によって技法を変えることで独自の世界観を作り出す星は、34歳のときにイタリアに留学。そして、帰国後はさらなる技法にチャレンジし、新たな世界を切り拓いていきます。

ふわっと吹く風が印象的な「宵闇の気配」(2016年)には、星の実娘が描かれており、片桐は「これまた映画的な……ここにドクロがあるんですよね」と鏡のなかに描かれたドクロに注目。

ドクロは一般的に死のイメージがありますが、16〜17世紀に広がったジャンル“ヴァニタス画”で生けるものと死にゆくものを同一画面に登場させ、死生観を表現していたように、ここでも同じように生きるもの(子ども)、死(ドクロ)を画面のなかに織り込んでいます。

そして、何より目を奪うのは風。窓から吹き込む風がカーテンや子どもの髪の毛やスカートを揺らしていて、それがまた驚くほど精緻で見事。星はこうした細部にとても思い入れがあり、なおかつシワを描くことが好きだとか。

そんな今作は3D-CGを使って下絵を作っています。星はまずCGで部屋を作り、光の当たり方や鏡の映り方などを細かく研究。それらを頭のなかに定着させてから絵を描き始めたとか。

片桐は「これを見て、3D-CGを使っていたなんて感じる人はひとりもいないと思いますよ」と驚きつつ、「全部アナログだと実際と違うものになってしまうと思ったのかもしれないですね。風の吹き方にしても」と唸ります。

さらに、「現実と夢の境界」(2021年)も、下絵は3D-CG。画中には成長した実娘とともに、その隣のベッドにはカラスが。このカラスもまた星のメインのモチーフで、「宵闇の気配」で描いたドクロと同様に、死を連想させるモチーフとして登場。さらに、木馬が倒れているのも意味深で、不穏な空気と物語を容易に想像できる場面作りとなっています。

これに片桐は「娘もなぜ向こうを見ているんだって話ですよね。カラスどころじゃないというか、カラスから逃げて窓のほうを見たらそれどころじゃなかった……もう世界は終わりだ、カラスは始まりにすぎなかった(笑)」とまたも思索に耽ります。さらには、「ここから手をギュッと握って、この後、世界は私が救うっていう絵に変わると思うんですけど」とも。

総じて片桐は「不吉とは言いつつも何か憧れるというか、ここではないどこか、現実と夢の間とか、そういうものをテーマにするっていうのは、やはり絵を描く原動力だと思うんですよね」と星のクリエイティビティに思いを馳せます。

◆超絶技巧とさまざまな技法の融合を絶賛

さらに、これまでとは作風が少し異なるのが「還る地」(2018年)。画中で光っているのは、なんと日本画で用いられる銀箔。

若干黄色っぽく見えますが、これは硫黄で銀箔を硫化させたからで、まるで金箔を混ぜているかのような仕上がりに。なぜ箔を使っているのかというと、平面性の強い箔と三次元的な空間構成の双方を画面のなかで成立させたいという思いからだそう。

片桐は「(箔で硫化させた)影によって奥行きが出ていますね」、さらには「空と人物に関してはくっきり描かれていて、この対比が面白い」と感心。そして、「技法的にはとにかく西洋画で、遠近法だったり、影の付け方だったり、リアルに見せるもここだけ平面的。でも、この絵を初めて見た人はまず平面的だとは思わないですよね。それが面白い」と興味津々。

そして、ここでも片桐はストーリーを思惟。「現実だった草原が入れ替わる瞬間ですよね。さっきまで草原だったのに、風がふわっと吹いた瞬間に光り、『私が世界だと思っていた世界は現実じゃなかったの!?』っていう……」と妄想を膨らませます。星にしてみれば、鑑賞者がこうしていろいろな思いを巡らせることが「嬉しい」と話していたとか。

最新作「銀葉」(2022年)でも箔が使われています。背景は全て銀箔が貼られているそうで、片桐は「全部貼っているんですか!?」とビックリ。銀箔を硫化させ、その度合いによって抑揚をつけています。

さらに、その上に古書の修理などに使用される「典具帖紙」という薄い和紙を貼附。この典具帖紙は油をかけると透明になり、画面が浮き出て見えるそう。本来、日本画の技法で油絵の作家でこれを用いる人はほとんどいないそうですが、「その甲斐あって、また(テイストが)違いますもんね」と感服しきり。

現代画家・星美加の世界を堪能した片桐は、開口一番「いやぁ、面白かったですね。とにかく上手い!」と大絶賛。「そして、それに根ざしたさまざまな技術をどんどん進化させていて。星さんの作品を見て絵を描きたいと思う人も多いんじゃないかな」とベタ褒め。

一方、佐藤美術館に対しては「若手のアーティストを奨学金という形で応援し、さらにはこうして展覧会を催し、アーティストを支える受け皿になってくれているというのは、とてもありがたいなと思いました」とも。

そして、「若きアーティストたちを応援し続ける佐藤美術館、素晴らしい!」と絶賛し、挑戦を続けるアーティストと彼らを支えるミュージアムに拍手を贈っていました。

◆今日のアンコールは、「6つの選択」

佐藤美術館の展示作品のなかで、今回のストーリーに入らなかったものからどうしても見てもらいたい作品を紹介する「今日のアンコール」。片桐が選んだのは「6つの選択」(2011年)。

描かれている風景はイタリアに実在するそうですが、「どこに入っても不吉なイメージしかないですね」と片桐。さらには「この方は一番上に。迷った挙句にこっちに行っちゃったんですよね……ゲームオーバーです(笑)」と妄想しつつ、「ちょっと絵本っぽい。このドアに進みたい人は何ページへ、みたいな。懐かしのゲームブックのようで、(星にはいつか)そういう本を描いてほしいですね」と期待します。

最後はミュージアムショップへ。まずは絵ハガキを物色していると、猫がモチーフのものが多いことに片桐は気づきます。

その理由は、2017年にさまざまなアーティストに猫を描いてもらった展覧会「我輩の猫展」を開催したから。そのとき、星にも実際に愛猫を描いてもらったそうで、それを見た片桐は「いいですね〜、これは可愛いわ」と笑顔をのぞかせていました。

※開館状況は、佐藤美術館の公式サイトでご確認ください。

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<番組概要>番組名:わたしの芸術劇場放送日時:毎週金曜 21:25〜21:54、毎週日曜 12:00〜12:25<TOKYO MX1>、毎週日曜 8:00〜8:25<TOKYO MX2>「エムキャス」でも同時配信出演者:片桐仁番組Webサイト:https://s.mxtv.jp/variety/geijutsu_gekijou/