弘前大学医学部付属病院は3月、昨年12月に保険適用となったアルツハイマー病の新薬「レカネマブ」の投与を開始した。4月には周辺医療機関と連携するシステムもスタートさせ、効率的・効果的に治療できる環境も整えた。同病院の医師は「青森県では特殊な検査をできる施設や投与可能な施設が限られるため、関係機関が連携していくことが不可欠」と語る。八戸圏域でも投与に向けた連携システムの準備が進められている。

 弘大病院では3月26日、同病院に通う軽度認知障害の人に初めて投与した。4月18日には連携システムを活用した患者が受診し、投与に向けた検査を行っている。

 システムの流れは▽かかりつけ医から弘前圏域の認知症疾患医療センターに患者を紹介▽センターがレカネマブの使用対象になるかについて認知機能検査を実施▽「適応あり」と判断された場合に、センターから弘大病院に紹介▽弘大病院脳神経内科でMRI検査を行い、脳の神経細胞を傷つけるタンパク質の蓄積を確認ができた場合に投与する−というもの。

 弘大病院は6カ月間、2週間に1回点滴投与するが、それ以降はMRI検査が可能で、専門の資格を持つ医師がいる他の医療機関で投与を継続する。

 弘大病院脳神経内科の冨山誠彦教授は「大学病院には点滴投与ブースが少ないため、効率的に投与するためには他の医療機関の協力が必要となる。認知機能検査も大学の枠が限られている」と周辺医療機関との連携の必要性を語る。さらに「主な投与対象者は認知症になる前の軽度認知障害の人。今まで医療の対象になってこなかったこれらの人たちを、どのように医療に結びつけるかが今後の大きな課題」と述べた。

 八戸圏域でも6月ごろの連携システム稼働を視野に準備を進めている。かかりつけ医などが、青南病院(八戸市)などの認知症疾患医療センターに患者を紹介し、必要な検査を行い、専門医が在籍する八戸市内の総合病院で投与する流れとなる。

 青森圏域では1日現在、レカネマブの投与実績はない。県立中央病院(青森市)脳神経内科の新井陽部長は「認知症医療は一部の専門病院や総合病院だけで対応できるものではなく、それぞれの医療機関が検査や診断、治療などの役割を十分果たすことが求められる。各医療圏域の医療の総合力が問われる」と、医療連携構築の必要性を指摘した。

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 レカネマブ エーザイなどが開発したアルツハイマー病治療薬。記憶障害などの症状が出る20年以上前から脳に蓄積し、神経細胞を傷つけるきっかけになると考えられているタンパク質「アミロイドベータ」に結合し除去する。使用する場合、髄液検査あるいは陽電子放射断層撮影(PET)と呼ばれる特殊な装置などでアミロイドベータの蓄積を確認する必要がある。投与後もMRIで定期的に検査を行う。対象は、アルツハイマー病による軽度認知障害か軽度認知症の患者。