西北五地域の建設関連会社有志による「青森テクノアカデミー」が今春、始動した。地元の関連企業に入った新人を対象に約2カ月間、会社の枠を超えて建設業の基礎技術や知識を教えるプロジェクトで、初回は五所川原市内の3社から3人が受講している。同地域は中小零細の企業が多く、会社単位では新人研修に時間や費用をかけるのが厳しい状況のため、関係者はアカデミーが仕事の魅力を伝え、早期離職の歯止めになることを期待する。 

 カン、カン、カン−。今月8日、同市一ツ谷の五所川原職業能力開発校の一室に金づちでくぎを打つ音が鳴り響いた。中では20代の男性3人が屋根や住宅の一部分を作る実習に臨んでいた。

 受講者の一人で昨年同市にUターンした野呂凌平さん(23)は今年3月、市内の「山田板金工業」に入社した。以前は精密機械製造会社に勤務していたが新人研修はなく、戸惑いながら作業していた時もあったという。アカデミーで他社の新入社員と共に専門知識や技術を学べることについて、野呂さんは「現場に出る前に技術を学べるから安心感がある」と話した。

 受講生は4月から5月にかけて、安全帯の付け方やくぎの打ち方などを学ぶほか、労働基準法や社会保険料に関する知識も身に付ける。講師は建築板金技能士1級や建築大工技能士1級などの国家資格を持つ、地元企業のベテラン社員が務めている。

 今回新人社員を受講させた小嶋建設(同市)の小嶋英嗣社長は「新人研修は大事だが、自社で指導体制を構築する方法が分からなかった。専門家に研修プログラムを構築してもらうと経費がかかるため手が出ない。アカデミーの存在はありがたい」と話した。

 アカデミーを創設した有志企業の一つである山田板金工業の山田真一社長などによると、西北五地域の建設関連企業は中小零細がほとんどで新人研修に時間や人材、費用を割けない状態。現場に出てしまえば事細かく教える余裕がなく、仕事の魅力が実感できないまま辞めてしまう新人もいるという。

 このままだと地域において職人不在になりかねず「県外資本や大手の企業に仕事が回って、地元にお金が落ちなくなってしまう」と山田社長。こうした危機感を共有する仲間と先進事例の「利根沼田テクノアカデミー」(群馬県沼田市)を視察するなどして準備を進めてきた。

 初年度の受講者は3人にとどまったが、山田社長は「それでも毎年同じ人数が受講すれば、10年後には20人、30人の職人が生まれる」と希望を抱く。将来的には国家資格取得を支援するコースも検討しているといい、「地元で働いていける職人を増やしていきたい」と意気込んでいる。

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 青森テクノアカデミー 五所川原職業訓練協会(五所川原市)に加入する西北五地域の建設業者など6社が本年度開設した新入社員向けの技術指導の研修システム。現在は「板金」と「大工」の2コースがあり、初回は板金で1人、大工で2人が受講している。3人は4月8日〜5月24日の毎週月−金曜の日中に、同協会が指定管理者となっている五所川原職業能力開発校で学んでいる。同協会会員であれば社員を受講させることが可能。1人当たりの受講料50万円(本年度)と2カ月分の新人の給料は雇用する企業側が負担するが、法律にのっとった就業規則を整えれば国に補助金申請でき、負担を軽減できる。