青森県板柳町の4小学校を一つにする統合小の校舎は、既存校舎の「改修」にすべきか、それとも「新築」か。その判断を町民に問う住民投票が、8月8日告示、同18日投開票の日程で行われる。町側の方針である改修を支持する町議らが事業費抑制の必要性を説くのに対し、板柳中学校隣への校舎新築を求める町議らは「板柳南小は通学に不便」などと訴える。両者の主張は真っ向から対立。支持拡大に向け、独自の説明会を模索しようとする動きもみられる。

 現在、町内には板柳北、板柳南、小阿弥、板柳東の4小学校がある。少子化の進行を受け、町は2022年に4小を統合することを決定。当初は板柳中学校の隣に統合小を新築する方向で議論が進んでいた。

 これに待ったをかけたのが昨年4月に就任した葛西健人町長だった。同月の選挙に出馬した葛西氏は「使えるものは使うべき」と主張。既存施設の利活用を公約に掲げて4614票を獲得し、当時の現職を1700票以上の大差で破り初当選した。

 選挙戦での主張に基づき葛西町長は昨年12月、板柳南小の校舎を改修し統合小の校舎とすることを表明した。しかし、改修した場合でも30億円超の事業費がかかるとの試算などが示されると、町議会からは疑問の声や新築を求める声が相次ぐようになった。

 町が示した概算事業費によると、改修が約31億2900万円なのに対し、新築は20億円以上高い約54億4700万円。ただ、国の補助金や過疎債に対する交付税措置を差し引くと、町の負担額は改修が約8億700万円、新築が約14億8700万円で、その差額は約6億8千万円となる。

 町は、改修により板柳南小校舎の耐用年数を約30年延ばせる上、新築同様になる−と説明。差額の約6億8千万円を別の住民サービスに回せるとする。町議会会派「新政会」の會津大郎議員も財政面の支出抑制の必要性を指摘し、役場庁舎の建て替えなどが将来的に見込まれる中、「小学校だけに財政をつぎ込むのはいかがなものか」と話す。

 これに対し、新築を求める会派「公正会」の工藤貢議員は、約6億8千万円の差であれば「子どもたちが快適に学習できる環境を整えるべき」とする。また、板柳南小の位置は町の南側に偏りすぎていて、北東部に住む児童の通学が不便になると主張。板柳中学校に隣接して校舎ができることで、小中連携教育が推進できる−と利点を強調する。

 町議会は8月中に2日間の公開討論会を開き、改修派、新築派それぞれの議員が、自らの主張の妥当性を町民に訴える見通し。新築派の議員の一人は、各地区から要望があれば独自に説明会を開くことも考えるという。

 町政史上初の住民投票という事態に、町民は困惑気味だ。

 板柳南小に子どもが通う成田和貴さん(35)は「スクールバスの運行を考えると、町中心部にある板柳中の隣りに小学校があった方がいいのでは」としつつ、「子どものことで(町が)もめてほしくない」と苦言も。町役場近くに住む女性(88)は住民投票について「公平でいいと思う」としたが、「町内には新しい校舎があるのにもったいない。町のほかの問題にも予算を使ってほしい」と注文を付けた。

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板柳町の統合小を巡る住民投票 板柳町内4小学校の統合計画を巡り、町は6月の定例町議会に板柳南小学校の改修に向けた経費を盛った2024年度一般会計補正予算案を提案したが、板柳中学校隣への校舎新築を求める議員らの反対多数で否決。その後、反対した議員が改修か新築かを町民に問うとして住民投票条例案を提案し、賛成多数で可決した。同町での住民投票は初めてで、18歳以上の町民が投票できる。投票者は「板柳南小を統合小として長寿命化改修する」「板柳中に隣接し統合小を新築する」のどちらかを選択する。8月18日投開票で、期日前投票は同月14〜17日。